"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第25話
「あの浦組で腕を磨きたい」と、かつて先代の事故のに辞めていった職のうち、腕の確かなが「もう度戻らせてほしい」とをげて戻ってきた。
田は輩ができたことで急に無駄が減り、その代わりに具を扱うのスピードが目に見えてくなった。
事務所の作業の奥では、向が相変わらず端材の箱のに座り込み、片の塔をせっせとく積みげていた。
てっぺんに刺さった旗は、しい画用に、さらに鮮やかな赤い丸が描き直されていた。
駅の巨な現に、浦組のが々とちがったのは、たいがを吹き抜け始めた頃だった。
、父が転落したまさにその同じ区画に、今度は『限会社浦組』とく染め抜かれた、真しい緑の防音養シートが誇らしげに掲げられた。
で平らに組んでから引き起こす薫の法のおかげで、吹き晒しの所での作業は従来の分のにまで縮され、現からはボルト本の落すら起きなかった。
鉄骨の棟げが無事に完した。
現の最階では、建物の無事完成を祈願する、ささやかな棟式が執りわれることになった。
施主、設計事務所、そして元請けゼネコンの幹部たちが列する、の最部に記の全旗を掲揚する儀式がわれる。
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その旗を持って、最階の作業へと登るのは、を組みげた鳶の領――会社の代表者と決まっていた。
「……社。俺がこうか」
久保田が、卓郎の横顔を覗き込みながらく声をかけた。
卓郎は、静かに首を横に振った。
さは、メートル。
、父が転落したのは、ちょうどその半分ほどのさだった。
卓郎は腰につけた全帯のフックをカチャリと鳴らし、のひらの汗を作業ズボンでしっかりと拭った。
昇階段の段目にをかけた瞬――あの懐かしい、たい痺れがのひらに戻ってきた。
臓が鐘を打ち、界の端がくかすみかける。
けれど、卓郎はを止めなかった。
作業の胸ポケットには、父の現誌のあのページを、自らので丁寧にき写したメモが入っていた。
『卓郎の組んだは、素直で見ていて気持ちがいい。……いつか、追い越されるな』
卓郎はこの文字を、毎朝、現へるに必ず指でなぞっていたのだ。
層、層と階段をがるごとに、吹き抜けるの音がゴオッとく変わっていく。
層目を超えたあたりで、の々の顔は豆粒のようにさくなり、見分けがつかなくなった。
臓は激しく暴れていたが、議と、喉の奥が塞がることはなかった。しっかりと、たい気が肺腑へと入ってくる。
見げれば、自分たちので組みげた鉄の幾何学が、寸分の狂いもなく、真っ直ぐに青空へと伸びていた。
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ボルトを締めげたのは、信頼する自社の職たちだ。
そして、その寸法をミリ単位で計算し、から見守ってくれているのは、あのだ。
このが、落ちるはずがない。
メートル――最部の作業のに両でった瞬、卓郎はすぐには声がなかった。
に、このの無数の根と、にる川の筋が、どこまでもどこまでも広がっていた。
、たいコンクリートの面から、血を吐くようないで見げるしかなかったあのい空の側に、今、自分はっているのだ。
卓郎は単管のに旗竿を添え、麻紐を回した。
引けば引くほどく締まり、けれど解こうとえば瞬で解ける、あの結び目。
「もやい結び」でしっかりと固定されたい全旗が、いをいっぱいに孕んで、バタバタと誇らしげな音をてて翻った。
から、鳴りのような拍と歓声が湧きがった。
そのに混じって、に乗って、ひときわくて澄んだ子供の声がに届いた。
「たくちゃん! いちばん、たかい――!」
卓郎は、ヘルメットにを当ててきくを振り返した。
その隣で、ヘルメットを被った薫が、目を細めてこちらを見げていた。
拍をするでもなく、叫ぶでもなく、ただ静かに、けれど確かな信頼を込めて、空のの卓郎を見つめていた。
その線が何をしているのか、今の卓郎には痛いほどよく分かっていた。