"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第22話
「……持っていきなさい」
代はノートの箱ごと、卓郎の膝のへ押しやった。
「その望さんっていうは、あんたにとって、事ななのかい?」
「……社員です」
「ふん」
代はそれ以くは追及せず、ちがって玄関まで見送りに歩いた。
「今度は、ゆっくりご飯をべにおいで。……さい子がいるなら、その子も緒に連れてきなさい」
卓郎は返事の代わりに、く、くをげた。
軽トラックのハンドルを握り、エンジンを吹かした、自分がこのへ何を取り戻しに来たのかが、完全に理解できた。
――事なです。
その言葉を、卓郎はまだ、薫本に向かってにできてはいなかった。
実からへ戻ったそので、卓郎は再び線沿いのアパートへと向かった。
錆びた階段を駆けがり、〇号のチャイムを鳴らす。
扉の向こうで、トタトタというさな音が聞こえた。
「たくちゃんだ!」
向の声が響いたが、やはりドアチェーンは掛けられたままで、隙から薫のい表が覗いた。に訪れたよりも、その頬はさらに削げ、目のに濃い隈が落ちていた。
「浦さん……このも申しげましたが――」
「仕事の話ではありません」
卓郎は息を切らしながら鞄をき、の号の館報を、ドアの隙から差し入れた。
「……これを見てほしいんです」
薫は何のことか分からないといった訝しげな顔で冊子を受け取り、かれたページに線を落とした。
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そして――そのまま、のように直した。
ガチャリ、とチェーンがされ、ドアがきくけ放たれた。
荒い黒写真のに、平らに畳まれたフレームと、誇らしげにちがった櫓の模型が並んでいる。
その真に印刷された、『望薫(歳)』の活字。
薫の指先が、震えながら写真の輪郭をそっとなぞった。
「浦さん……これ……」
「あなたのものです。号にも、号にも載っています。表には、教育委員会の公な発が印刷されています」
薫はそのに、崩れ落ちるようにへたり込んだ。
胸に冊子を抱きしめたまま、細い肩が刻みに激しくする。
ギリギリと歯をいしばる音が漏れ、それでも、周囲に迷惑をかけまいとするように、泣き声だけは喉の奥へ押し殺していた。
落ちた涙が、古い黒写真のでポタポタとの染みを作っていく。
その震える背に、向が配そうにさなを添えていた。
卓郎は何も言わず、ただ静かにそのにち続けていた。
やがて、薫が涙を拭い、顔をげた。そこにいたのは、説会の会で俯いていた、あの無力な母親ではなかった。自らの誇りを取り戻した、本物の技術者の瞳だった。
けて、曜の朝。
卓郎は机の引きしの鍵をけ、しまってあった封筒を取りすと、封を切らないまま薫の元へ突き返した。
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薫は々と礼し、その退職届を自らの具袋の奥くへとしまい込んだ。
商会の紹介で同席した弁護士は、事務所の机のに並べられた冊の館報を、ルーペを使って枚ずつ確認しながら唸った。
「これは素らしい。政関が特定数の民に配布した、公な刊物です。ここに掲載されている以、の点で、この法の基本概は完全に『公の事実』となっていたことになります」
「望さんの考案であると、法に証できますか?」
「アイデアの所としては、これ以ないほどです。に公となっている以、彩テクノ建設が願している特許は、規性の欠如によってそもそも成しません。……あとは、先方の提している実施設計図面が、望さんのノートから正に盗用されたものであるというかぬ証拠がつでもあれば、勝負は瞬で決まります」
薫はそこで、あの数字の秘密をかした。
図面の継ぎ具の位置が、センチになっていること。
本当はセンチでなければ、からフレームを引き起こす途で、ヒンジの具同士が干渉してロックしてしまうこと。
弁護士は鏡の奥の目を丸くし、初めて会の笑みを浮かべた。
「なるほど……。完璧です。すぐに先方へ、内容証郵便を発送しましょう」
彩テクノ建設の本社ビル、最階の特別応接に呼びされたのは、それから週のことだった。