"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第16話
見積を提し終えた曜の夕方、事務所ので全員でカレーをべた。
薫が作業の油コンロできな鍋を使って煮込んでくれたものだった。蓋をけた瞬、スパイシーな辛料のりよりも先に、じっくりと炒められた飴玉ねぎの甘い匂いがいっぱいに広がった。
久しぶりに、事務所の机に分の皿が並んだ。
「うまいな、これ……」
久保田がスプーンをかしながら呟いた。
最初のは、野菜の甘みが舌ので優しく広がり、あとからよいスパイスの辛さが腔を抜けていく。参が苦でいつも皿の端に避けていた向も、「あまい!」と言ってきめの乱切りを全部平らげていた。
その様子を見て、薫が声をてて柔らかく笑った。
卓郎はその温かい景を、に訪れる暗ので、何度も何度もい返すことになるのだった。
彩テクノ建設から本の話が入ったのは、見積もりを提してからの朝のことだった。
鳴り響く黒話の受話器を取ったのは、卓郎だった。
『変申し訳ございませんが、慎に社内選考をねました結果、今回は御社との次請け契約を見送らせていただくこととなりました』
話の女性事務員は、たいマニュアル通りの声で告げた。
卓郎は受話器を握りしめ、いがった。
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「理由を教えていただけますか。当社の見積もり額も施計画も、御社の提示された条件をすべてクリアしていたはずです」
『社内の総な判断、としか申しげられません』
「納得がいきません。現責任者の篠原課をお願いできますか」
押し問答の末、話は保留音へと切り替わった。プツン、と保留が切れた、受話器から流れてきたのは、あの聞き覚えのある男の声だった。
『……篠原です』
「篠原さん。なぜうちが落とされたんですか。額ですか? それとも期の縮ですか?」
『浦さん。額や期の問題ではありませんよ』
篠原の声には、隠しようもない優越が滲んでいた。
『浦組さんには、社内のコンプライアンス、極めてな懸を持つ役員がおりましてね』
「懸……とは、具体にどういうことですか」
『元・弊社の社員が籍していることですよ。……あの女性には、職にが社の極秘技術報を正に持ちしたという、産業スパイの疑惑が社内で持たれていましてね。そんなを囲っている審な請け会社に、当社の板である法を扱わせるわけにはいかないでしょう』
卓郎のので、血が逆流するような轟音が響いた。
技術を盗んだ側の男が、盗まれた被害者に向かって「棒」の濡れを着せているのだ。
『……もっとも』
篠原はわざとらしく言葉を区切り、値踏みするように続けた。
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『そちらが社内の員を適切に“理”されるというのであれば、話は別ですがね。今からでも、次請けの枠を浦組さんのために枚空けておいてもいいですよ?』
卓郎は全の震えを止め、受話器のマイクに向かって、自分でも驚くほどく、はっきりとした声で言い放った。
「……お断りします」
『何ですと?』
「うちは、仲を切ってまでに入れる仕事なんて、創業以来ただの度も欲しいとったことはありません」
受話器の向こうで、篠原がわずかに息を詰まらせ、それからフッと嘲るようにを鳴らした。
『……結構です。実に派なご経営方針だ。そのご派なプライドだけで、果たしてその掘ってのような会社がいつまで保つか……見ものですね』
ツーツーという無質な切断音が響いた。
卓郎が受話器をゆっくりと置くと、事務所の入りの引き戸のに、薫がち尽くしていた。
彼女がいつからそこにっていたのかは、聞くまでもなかった。
そのを境にして、彩テクノ建設と繋がりのある元の元請け会社から、浦組への連絡が潮が引くように途絶えていった。
翌に入っていたはずの務からの壁改修事が件、「施主の都で事自体が延期になった」という取って付けたような理由で、相次いでに戻された。
職の世界は狭い。
誰がどこで悪を囁けば、どこまで仕事が干がるか、卓郎には痛いほど分かっていた。