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"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第6話

薫は困ったように微笑んだが、その線はすでに、められたトントラックの荷台へと鋭く向けられていた。現へ向かう職の目だった。

そのの現は、内のはずれにある閑静なだった。築ほどの階建て宅の壁改修事。いの塗装から「りないならうちの現をひとつ回してやる」と融通してもらった、としては何の変哲もない、ごく規模な単管抱きの架け替えだった。

それでも今の浦組にとっては、喉からるほど欲しい貴件だった。

トラックのあおりを切り、資材の荷ろしを始めた、若い衆の田涼太が、資材を担ぎながら久保田の元で何やらひそひそと囁いているのが見えた。

歳の田は、の先代の事故の直に入ってきた職だった。体はよくき、筋も悪くはないが、いかにも若者らしくが軽く、物事を斜めから見る癖があった。

たい向きの加減で、その声の切れ端が卓郎のに届いた。

「……女のに、それも国の学をたようなインテリに、この臭い仕事の何が分かるって言うんですかね。まといにならなきゃいいすけど」

卓郎が眉をひそめて割って入ろうとするより先に、薫はすでに荷台からろされた資材のに、静かにしゃがみ込んでいた。

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聞こえていないはずがなかった。距にしてわずか数メートルだ。

けれど薫は、反論するでもなく、な顔を見せるでもなく、軍をはめたろしたばかりの単管パイプを、さごとに黙々と並べ直し始めた。

メートル、メートル、メートル。

組む建物の梁と桁の寸法を体化しているのか、使う順番がからへと自然に積みがるよう、パイプのの向きまできれいに揃えて配置を変えていく。

さらに、ジョイントピンと直交クランプ、自クランプを種類ごとにプラスチックのコンテナから取りし、ボルトのの向きをすべて同方向に揃えて、の届く位置へ等隔に並べ置いた。

田は資材を担いだままち止まり、あからさまに怪訝な顔をしてその元を見ろした。

朝の荷ろしの段取りにものを費やす職を、この若い男は今まで見たことがなかったのだろう。の仕事は、とにかくくパイプを掴んでに放り投げるのが美徳だと信じている節があった。

けれど――いざ組み始めてから、そのが全員の肌に突き刺さることになった。

田君、次、!」

久保田がから声をかける。

にいる田がを伸ばしたその先には、すでに必さのパイプが、の取りやすい向きで置かれていた。

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「クランプくれ!」

振り向いた先には、ボルトの向きが完璧にかれた具が、すぐ掴める位置に然と並んでいる。

誰も余計な資材を探さない。

誰も次の歩のために無駄に歩き回らない。

いつもなら昼までかかるはずだった建物の面が、朝の休憩の図が鳴るに、寸分の狂いもなく垂直にがっていた。

「……おい」

久保田が自販で買ってきた缶コーヒーを配りながら、く声を漏らした。

渡された缶コーヒーはぬるく、甘さだけが舌のたく残る。額から汗が筋となって顎を伝い、唇の端の塩気と混ざりって妙に濃いがした。

薫の作業のきには、無駄な派さがつもなかった。

い単管を肩に担ぐ角度も、平を確認するげ振りの扱いも、クランプのナットを締めげるラチェットレンチの返し方も、驚くほどさく、い。力任せに振り回すのではなく、テコの原理と属のしなりを正確に使っているのだ。

それでいて、彼女が度締めたボルトは、久保田がから点検のスパナを当てても、ミリ単位の緩みすらじていなかった。

卓郎はち尽くし、層で軽やかにを翻す薫の姿を見げていた。

げることしかできない己の無力さに、いつものようにたいろめたさが、胸の奥をチクチクと刺す。

のあのから、卓郎はこの所へ登れなくなっていた。

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