"地上二メートルから見上げる逆転の空" 第3話
それは、卓郎が歳の、現に入った初に父から真っ先に叩き込まれた、資材確認の作法そのものだった。
望薫、歳。
履歴の黒写真よりも、目のにいる実物の方がずっと頬が削げ、痩せて見えた。
卓郎はこの、この女性の横顔にどこか見覚えがあるような既を抱きながらも、まだその理由にまではい至っていなかった。
卓郎はちがり、棚の隅にあった古い子供用の全ヘルメットをに取ると、で母の作業を見つめていた向のにそっと乗せてやった。
ぶかぶかのヘルメットがずり落ち、さなのを隠してしまうと、向は唇を尖らせながらも、物珍しそうに嬉々として黄い顎紐をいじり始めた。
その隙に、卓郎はソファーの背を指し示し、薫に声をかけた。
「たせたままですみませんでした。どうぞ、そこへおかけください」
「あ……ありがとうございます。向、あっちでお座りしなさい」
薫は娘のを引いてソファーへ促した。
向は母親の隣に浅く腰をろし、きすぎるヘルメットの縁を持ちげながら、たちの顔を物珍しそうに見げている。
久しくのみを受け止めていなかった成皮革のスプリングが軋み、乾いた埃の匂いがふわりといがった。
久保田は腕を組んだまま、しれた丸子を引いて浅く腰掛けた。
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その細めた目は、面接というよりは、怪しい侵入者を値踏みする警戒のを帯びていた。
卓郎は履歴を机の央へ置き直し、子を引いて座ると、まず番に胸に刺さっていた疑問をにした。
「……失礼を承で伺います。これだけの経歴をお持ちの方が、どうしてうちのような、潰れかけのさなに応募されたんですか?」
薫は背筋をすっと伸ばし、膝のの指を揃えたまま、しも言い淀むことなく答えた。
「社、面接を受けました。学歴の欄を見てで笑った会社が社。面接の席までめたのが社です。ですが、そのすべての所で、『子供はどうするのか』と聞かれて、話はそこで終わりました」
「保育所の空きが、なかったということですか?」
「この域は、どこも待児童の列が信じられないほどいんです。役所からは、フルタイムの就労証がなければ順番は回ってこないと言われました。ですが、面接へけば、先に預け先を確保していなければ現にはせないと断られます」
卓郎はをきかけたが、喉の奥に言葉がつかえてそのまま閉じた。
先に仕事が決まっていなければ子供を保育所に預けられず、子供の預け先がなければ仕事に就くことができない。
のない酷な無限ループので、この女性はさな娘のを握りしめ、回も会社のいドアを叩き、そしてそのすべてで払いをらってきたのだ。
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自分の無力さとなるようなその現実に、卓郎の胸の奥が鈍く痛んだ。
「御社の求票を見た……正直に申しげて、目を疑いました。建設業の求で、『商会の共同利用保育所の費用を半額会社が負担する』と記してある会社を、私は今まで度も見たことがありませんでしたから」
卓郎はを掻いた。
それはの終わり、元の商会が設した企業向けの保育枠に、加入の持ちがあるかどうかも確かめずにびつき、藁にもすがるいで求票の備考欄にき加えただった。
案の定、久保田からは「うちの台所事もらねえで、何を寝ぼけた絵空事をいてやがる」と散々呆れられ、実際、週が過ぎても応募の問いわせは本たりとも鳴らなかった。そうして諦めかけていた締め切りの、郵便受けに滑り込んできたのが、この通の履歴だったのだ。
薫はそう静かに語り終えると、膝ので組んでいた指を度ほどき、ね直した。
そのが卓郎の界に入った瞬、卓郎の職としての直が、鋭くねがった。
爪は爪にいくらいく切り揃えられ、の親指と差し指の付け根には、い具を握り込み続けた者特の分くいタコが盛りがっていた。
差し指の側面には、締めげた番線の鋭い端部で切ったのであろう、無数のい古傷が幾筋もっている。