"「異物が入ってる!」老舗そば屋を潰した“32秒の嘘”" 第13話
30目の杯
柚庵の創業30周は、いつものように汁を取るところから始まった。
特別な板も、豪華な飾りもない。入に結がいた《おかげさまで30》というさな札を置き、先着30分の柚子菓子を籠へ並べただけだ。しくした裏の錠が朝にっている方、客席の柱も振り子計も、雄とを始めたのまま残っていた。
すると18席はすぐ埋まった。製本所の3はいつもの窓際、先予約を取り消した女性はカウンターの端に座り、方から来た客も古い品きを楽しそうに撮っている。
「30なのに、メニューは増やさないんですか」
そう尋ねられた結は、私の代わりに答えた。
「増やしません。祖母が責任を持ってせる3種類だけです」
厨から聞いていた私はわず笑った。以なら、をもっとしくしたほうがいいと言っていた結が、今は誰よりもこの3種類を誇りにしている。
昼をし過ぎた頃、6歳くらいの男の子を連れた族が空いた卓へ座った。男の子は初めてべるざるそばを慎にすすり、半分ほどべたところで箸を止めた。
「お母さん、何か入ってる」
その言で、くの客たちの声が静かになった。
母親は慌てて器をのぞき込み、結がすぐ卓へ向かう。私もをめて厨をた。皿へ移されたのは、米粒ほどの茶のものだった。
広告
と形、それから残っていたりを確かめる。昨夜、結が薬の瓶の底で見つけた1粒だった。
「こちらは柚子の種です。確認がりず、驚かせてしまって申し訳ございません。すぐしいそばにお取り替えします」
私がをげると、男の子はそうな母親の袖を引いた。
「これ、悪いものなの?」
「べるものではないから、私が預かります。でもこのには、1万杯に1度、柚子の種が残った杯に当たった方は運がける、という昔からの言い伝えがあるんですよ」
「本当?」
「ただの縁起話です。でも、30、その杯をべた方から悪いらせをいただいたことはありません」
結がしいざるそばを運ぶと、内に柔らかな笑い声が戻った。男の子は母親と顔を見わせ、今度はゆっくり箸を取った。
私は皿の種を厨へ持ち帰り、窓辺へ置いた。
1800万円の契約も、32秒の嘘も、午217分のも、なかったことにはできない。それでも、空になった18席へが戻り、また同じ所でそばをべている。この景を守れたことが、私にとっては分な幸運だった。
振り子計が午1を告げた。私は男の子の卓へしいそば湯を運び、30と同じ気持ちで微笑んだ。
「お客さん、おめでとうございます」