"午前2時、義母に追いやられた離れ" 第16話
逃げるためではなく
「怖かったですよ」
由はごまかさずに答えた。
しい窓から庭を眺めると、1の午2が鮮によみがえる。扉を蹴る鈍い音、割れたガラス、植のをく懐灯。たい垣に背を押しつけ、画面の文字を何度も打ち違えながら通報したの指の震えまで覚えている。
「今でも、きな音がするとあの夜をいします。でも、怖かったことと、この所が悪いことは同じではありません」
由は壁のスイッチを押した。柔らかな照がい壁を照らし、磨き直した机の目が浮かびがる。かつて母のが届かなかった部には、今、自分で選んだかりがあった。
富子はポットで湯を沸かし、2分のほうじ茶を入れた。あの夜のけ方、母の台所でんだものと同じりだったが、由のはもう震えていない。
「私が裏から入った、奥様が逃げると言ってくださらなかったら、どうしようかといました」
「本当は、最までバッグを持っていこうとしていました」
「ええ。実印より命が事だと、何度言ってもをさなかったですから」
2は顔を見わせ、初めてあの夜のことを笑った。恐怖が消えたのではない。いしても、もう千鶴子たちにを支配されない所まで歩いてきたのだ。
そのの午、最初の利用者がやって来た。
広告
経理部で働く45歳の女性で、認症の母親を3自宅で介護しているという。2泊分のさなバッグを抱えた彼女は、部へ入っても落ち着かない様子で何度もをげた。
「本当に、私が使っていいんでしょうか。族を置いて休むなんて、悪いことをしている気がして」
由は、かつて正に言われた言葉をそのまま返した。
「介護する側にも、休む所が必です。2休むことは、族を捨てることではありません」
女性の目から力が抜け、ベッドの端へ腰をろした。たったそれだけの変化を見て、由は820万円を使ってれを残したを実した。
翌朝、窓辺のノートにはい文字が残されていた。
《昨夜は6、度も起きずに眠れました。母を嫌いになったのではなく、私が疲れていただけだと分かりました》
由はその文を読み、すぐにノートを閉じた。誰かに見せる実績ではなく、この部を必としただけの言葉として守りたかった。
誠司も夕方、仕事帰りにち寄った。しい利用者がいるとるとへは入らず、灯がすべて点灯しているかを庭で確認した。以なら自分のを認めてほしそうに報告しただろう。今は何も言わず、必なことをして帰っていく。
由は夫を完全に許したわけではない。それでも、言葉よりを見ると決めた6かを越え、2は対等な夫婦として活を作り直していた。
帰り際、由はポケットからの鍵をもう1本取りし、富子へ差しした。
「これは富子さんの分です」
「私の?」
「25、こののために働いたんです。疲れたは、いつでもここへ来てください」
富子は鍵を両で受け取り、目に涙を浮かべた。
由はるくなったれを見回した。1、千鶴子に寝る所を命じられた自分が、今は誰を迎え、何のために使うのかを自分で決めている。
「これからは、逃げるためではなく、休むために使いましょう」
夕暮れの庭に灯が順番にともり、れからまで続くを、温かなが照らしていた。