"旅行代を全額68万円出したのに現地で「年寄りはすぐ疲れて足手まとい」と別行動された" 第3話
黒いカード
女性スタッフは最初、それを古い会員カードだとったようだった。
「カード番号を確認いたします」と丁寧に受け取り、裏面のコードを端末へ入力する。次の瞬、画面に表示された文字を見て、彼女の背筋が伸びた。
「々、お待ちいただけますでしょうか」
声がわずかにずっている。彼女は隣の責任者を呼び、2で画面を確かめたあと、カウンターの奥から内線をかけた。
カードは宿泊料を無料にするものではない。創業と定割以の株式を持つ株主の本確認に使う、発数の限られたオーナーズカードだ。私は族旅に会社のを持ち込みたくなくて、今回も正規料を払っていた。
夫の葬儀のあと、私は経営の第線から退き、議決権を使するな会議以には姿を見せなくなった。顔をらない若い社員が増えたことも承している。だからスタッフがすぐに私を認識できなかったことに腹はたなかった。むしろ、カード1枚で態度を変えさせるのではなく、分をらない相にも同じ接客ができるホテルであってほしかった。
それから4分ほどで、濃紺のスーツを着た男性がロビーの奥から急いで歩いてきた。グランドリゾート箱根の総支配、本敬だった。髪にはいものが増えていたが、31、業したばかりのホテルで予約表を抱えてっていたころの面が残っている。
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「様、ご無汰しております」
本は私のでを止め、くをげた。
「ご到着を把握できておらず、変失礼いたしました。ご連絡をいただければ、私が直接お迎えにがりましたのに」
周囲のスタッフが驚いたようにこちらを見る。私は線を集めたくなくて、本へ顔をげるよう頼んだ。
「今回はただの族旅です。特別な対応をしてもらうつもりはありませんでした」
「では、なぜこちらでおに?」
本の目が、ソファの脇に置かれた私のさな荷物へ向いた。私は今朝の来事をく説し、68万円の細と、観を2へ変更した履歴を見せた。本は最までを挟まずに聞いたが、直の名を見たところで表をくした。
「直さんは本社の事業発部です。お母様を残して発したとなれば、庭内だけの話では済まない部分もあります」
「まだ会社をかすつもりはありません。まず、本のから聞きたいことがあります」
私はそう答え、LINEの保画面も見せた。本は眉に皺を寄せたが、すぐに声を落とした。
「創業者は、従業員にも宿泊客にも、齢や装で対応を変えるなと何度もおっしゃっていました。奥様がここでその反対の扱いを受けたことを、私は見過ごせません」
夫の言葉をのから聞き、張り詰めていた胸が瞬だけ緩んだ。
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それでも泣く気にはならなかった。今確かめるべきなのは、き夫のいではなく、きている息子の考えだった。
「分かりました。ただ、ロビーでお待ちいただくわけにはまいりません。こちらへどうぞ」
案内されたのは、最階のさなラウンジだった。夫が命だったころ、方から来た従業員や取引先と落ち着いて話せるように作った部だ。窓から見えるも、炉のの古い振り子計も変わっていなかった。
本は温かいほうじ茶を用させ、直たちが戻ったら、まず自分に連絡が入るようフロントへ指示した。
昼、がくなり、観が予定よりくホテルへ戻ってきた。やがて廊の向こうで、美咲の満げな声が聞こえた。
「どうして私たちが、わざわざ支配へくんですか?」
扉がいた。本の隣に座る私を見て、美咲のが止まる。
本はちがり、直と美咲をまっすぐ見た。
「おに、澄子様について確認していただきたいことがあります」