みかん小説
本棚

"母のいない写真" 第11話

しかし、Nさな織りで母が紡ぎしたの歳り、あの黒い誌の言葉に触れた今、直の目にはまったく違う景が映しされていた。

この個のい穴は、れな被害者の墓標などではない。 の女性が、あまりにも巨酷な無関という暴力の檻をい破り、の広い世界へと脱するためにうがった「」だったのだ。

は桐の箱から、枚の母の破片を取りし、アルバムの横にひとつずつ丁寧に並べていった。 写真のに嵌め戻すことはしない。だが、捨てることもしない。母が「佐伯子」として耐え抜き、そして自分自で削ぎ落とした、自由への通過儀礼の証たち。

「さようなら、佐伯子さん」

はアルバムのに並んだ母のさな背に向かって、静かに語りかけた。

「あなたは僕たちの事ロボットでも、都のいい背景でもなかった。、本当にごめんなさい。そして……ありがとうございました」

直んはそっと目を閉じ、息をく吐きした。そして、今度は胸のの温かい帳に触れながら、しい名を呼びかけた。

『はじめまして、佐藤子さん』

あなたはの自した女性としてき抜き、自分ので稼いだおのハンカチを買い、自分のした布を織り、自分のを美しく縫いげて逝った。

広告

その自由と誇りを、僕はから祝福します。

は今歳になっていた。 会社では事無かれ主義の管理職として扱われ、妻とはめ切った末に婚し、自分のがどこで掛け違えられたのかも分からぬまま、ただ惰性で々を消化していた。父・文雄が求めた「世体のいい男」を演じ続けることで、自分自もまた、己のから透として消えかかっていたのだ。

だが、母のの沈黙の闘いは、直の魂の奥底に眠っていた種を力く揺り起こした。 歳からでも、自分のを縫い直すことはできる。誰かの作った型にはまるためではなく、自分自の名で呼吸するために。

帳と桐の箱を鞄に切に収めると、冊のアルバムを静かに閉じた。 アルバムはそのまま畳のに残していくことにした。が、父の栄も、見栄も、偽りの族の記録も、すべてを等しく燼に帰してくれるだろう。

玄関に向かい、製のドアを引き寄せる。 カチリ、とな乾いた音が響き、錠がりた。それが、佐伯という物語の完全な終幕の図だった。

ると、澄み渡るの青空がどこまでもく広がっていた。 解体業者のトラックが所の角を曲がってくるのが見えた。直はそれとすれ違いながら、度も実を振り返ることなく、駅へと続く坂を力く歩きした。

胸の鞄のにある黒い帳が、微かに体温を主張している。 写真の穴の向こう側に広がる、しいに向かって、直は確かな歩を踏みした。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: