"果樹園の奥の家" 第17話
庭先にあった輪はもうない。代わりに製のベンチと洗いが置かれ、のついた靴でも気兼ねなく入れる。リビングの壁には、果園の図と今の会計報告、従業員が提案した改善案が並んでいる。隠すために閉じられていたカーテンは、朝からすべてけてあった。
従業員18は全員残り、しく4が加わった。売や件費は毎共され、100万円を超える支は2以で確認する。な仕組みばかりだが、誰かひとりの嘘で会社が傾かないことが、何より切だった。
午11、私は休憩所の台所で鍋の蓋をけた。
根、里芋、ごぼう、豚肉。噌の湯気がちがり、曇った窓の向こうに作業を終えたたちが集まってくる。あのと同じように3煮込んだ豚汁だが、今度は保温容器に閉じ込める必はない。
「栞さん、22分にしてはすぎませんか」
野さんが鍋を覗き込み、笑った。
「見学のお客さまにもせます。それに、収穫のはおかわりするがいでしょう」
いテーブルには、形がぞろいでも甘いりんごと、炊きたてのご飯が並んだ。若い従業員が椀を運び、しい代表が湯気で鏡を曇らせる。誰かが座を決めることも、私だけがれた所で帳簿を見ることもなかった。
試会に来ていた学が、窓ののを指さして「あのりんごは誰の?」
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と尋ねた。案内役の従業員はし考え、「ここで働くみんなと、べてくれるのためのりんごだよ」と答えた。その言葉に、私は胸の奥が静かにほどけるのをじた。
壁には、父が残した言葉をさな額へ入れて飾ってある。
「記録はを疑うためではなく、真面目に働くを守るために残す」
そのには、4623分で38トンを荷したときの受領票も並べた。苦しかったを隠すのではなく、皆で会社を守った証拠として残している。
昼が始まる直、受付から1通のが届いた。差は美代子だった。子どもたちはしい町で暮らし、息子は学へ、娘は保育園へ通っているという。返還の分割を今も振り込んだことと、子どもには齢にわせて本当のことを伝えていくと、くかれていた。
私はを引きしへしまい、すぐに返事をこうとはしなかった。許すかどうかを急いで決めなくても、それぞれが嘘の続きをきないことはできる。
窓辺には、父が使っていた剪定ばさみが飾られている。刃はもう畑で使えないが、の持ちにはの跡が残っていた。父が守った果園を、私は同じ形で保したわけではない。閉じた所をき、ひとりへ集まった権限を分けることで、次の季節へ渡そうとしている。
「栞さん、座ってください。
せっかくの豚汁がめますよ」
野さんに呼ばれ、私は鍋のかられた。1は砂利へこぼれた湯気を、誰にも見られないよう背を向けた。今は22分の椀からがる湯気が、同じ根のでゆっくりなっている。
私は皆と同じ席に座り、温かい椀を両で包んだ。
「いただきます」
豚汁がめないうちに、今度は私も笑って箸を取った。