"デブでダサいと捨てられた妻" 第1話
第1話 1、扉がいた
「まもなく、今夜の特別ゲストをご紹介いたします」
司会者の声が響くと、ホテルの宴会に散っていた線が、斉に正面へ集まった。
母の創80周を祝う同同窓会には、卒業とその同伴者をわせて300くが集まっていた。藤崎浩は、赤いドレスを着た野理を隣に座らせたまま、ステージ脇の扉を見つめていた。
懐かしい顔に会うために来たのではない。いま業界で話題になっている婦ブランド「リュール」の企画責任者が、母の卒業として初めて公のにると聞いたからだ。
「本当に、そのを引き抜けるんですか」
理が声を落として尋ねると、浩はネクタイを直しながら笑った。
「条件さえせばくさ。さなデザイン会社にいるより、うちと組んだほうが得に決まってる。今に名刺を渡して、来週には役員へ話を通す」
その企画責任者を連れて帰れなければ、浩が担当する1億8000万円規模の契約は更されない能性がかった。しかし、理にはそこまで話していない。今夜はあくまで、自分の脈を見せるなのだと装っていた。
テーブルのでスマートフォンが震えた。取引先から届いたメールには、〈曜17までに再建案をご提示ください〉とある。画面を伏せた浩の界に、向かいの席で談笑する50代ほどの女性が入った。
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ふっくらした肩を包む淡い緑のジャケットには見覚えがある。リュールの発売直、3で完売した商品だった。
「ああいう普通のが着ても、きれいに見えるんですね」
理の何気ない言葉に、浩は返事をしなかった。だからこそ、企画した物をに入れる必がある。功績だけを自社へ持ち帰れば、失敗した広告戦略まで塗り替えられると考えていた。
会の照がし落ちた。
「この1、40代以の女性から圧倒な支持を集めた『リュール』。その商品企画を率いた方が、今夜、この会にいらしています」
拍が起こり、ステージ脇の扉がゆっくりいた。
現れた女性を見た瞬、浩の指からグラスが滑りかけた。
い紺のワンピースは、体を無理に細く見せるものではなかった。柔らかな布が肩から腰へ自然に流れ、歩くたびに裾が静かに揺れる。くえた髪にも、い化粧にも派さはない。それでも、背筋を伸ばして正面を見て歩く姿には、周囲のざわめきを止めるほどの落ち着きがあった。
顔も体つきも、浩がらない別になったわけではない。
だからこそ、見違えようがなかった。
「……真由美?」
隣で理が怪訝そうに振り向いたが、浩は答えられなかった。喉の奥が乾き、血の気が引いていく。
1、古びた部着姿の彼女に向かって、自分は確かに言ったのだ。
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――で鏡くらい見ろよ。
――おみたいな女と並んで歩くのは恥ずかしい。
あの夜、真由美は言い返さなかった。泣いてすがることもなく、婚届の入った封筒を受け取った。それきり、自分のから消えたはずだった。
ところが今、会にいた同級たちは次々と席をち、彼女を迎えている。真由美は驚いた顔で差しされるを取り、ひとりに穏やかにをげていた。
司会者が紹介状をく。
「それでは、『リュール』を成功へ導いた企画責任者――」
真由美がステージへ向かって歩きした。
浩は青ざめたまま、その名が呼ばれるのを待つしかなかった。
第2話 50万円で終わる20
1。
「で鏡くらい見ろよ」
寝の姿見ので古いワンピースを体に当てていた真由美に、帰宅した浩は番そう言った。
会社関係者との事会に、妻も同伴してほしいと数に頼んだのは浩だった。それなのに、真由美が結婚に買ったを試していると、彼は骨に眉をひそめた。
「それで俺の隣を歩くつもりか? 太ったし、も髪もダサい。女として終わってるだろ」
真由美は鏡越しに夫を見た。48歳になった顔には細かな線が増え、腰まわりも20とは違う。けれど、そのワンピースがきつくなった理由だけなら、夫の転勤について3度引っ越し、義父母の通院に付き添い、毎晩遅い浩にわせて事を作ってきたのにいくらでもあった。