"3日だけ帰るはずだった妻" 第1話
第1話 だけ帰るね
「お盆は3だけ、実に帰るね」
夕の席でそう告げると、夫の浩司は箸を止めることもなくで笑った。
「そうしてくれ。こっちもせいせいする」
向かいに座っていた20歳の息子、達也もスマートフォンから目をげずに言った。
「別に3じゃなくていいよ。そのまま帰ってこなくても、俺たちは困らないし」
2のには、私が1かけて作った夕が並んでいた。浩司は煮物をつつきながら達也と顔を見わせ、元だけで笑った。エアコンのい作音に交じって、窓のからせみの声がしつこく響いている。
以の私なら、せめて冗談だと言ってほしくて聞き返しただろう。けれど、その夜は黙って噌汁の椀をげた。
「は何にるんだ」
「朝の6過ぎ。午には着くとう」
「じゃあ、起こさないでくれよ。休みのくらい寝かせてくれ」
浩司の声は妙に弾んでいた。達也も「昼は特寿司にしよう」と話しかけ、2は私のいない3の予定を楽しそうに決め始めた。誰をに迎えるつもりなのか、私はすでにっていた。
「荷物、それだけ?」
達也が廊に置いたさな旅鞄を見て、馬鹿にするように笑った。
「相変わらずだよな。裕子さんなら、旅にはちゃんとしたブランドのケースを持っていくって」
浩司が咳払いをしたが、達也を叱りはしなかった。
広告
むしろ自分のスマートフォンを伏せ、私の表を探るように度だけこちらを見た。私は聞こえなかったふりをして、空になった皿をねた。
鞄がさいのは、3分しか持っていかないからではない。必なものを、すでに運び終えていたからだ。
器を洗い終え、濡れたを布巾で拭く。流し台の横には、28使い続けた柄のエプロンが掛かっていた。ほつれた紐を指でなぞっても、胸に浮かぶのは寂しさではなかった。
もう分だ、という静かな実だけだった。
浩司の好みにわせてを濃くし、達也の帰宅刻にわせて何度も料理を温め直す。があっても洗濯を回し、りない活費はレジの仕事を増やして埋めてきた。その積みねを、2は族のではなく、黙って提供されるサービスだとっていた。
ならば、そのサービスをすべて終わらせればいい。
寝へ戻ると、クローゼットにはいが4着残っているだけだった。通帳、実印、権利証、両親の写真、若い頃のアルバムは、半かけてしずつ実へ移してある。持ってるのは、さな旅鞄1つでりた。
その鞄の底には、緑の婚届が入っていた。
3週、浩司が自分で署名し、証欄まで埋めたものだ。裕子という女との再婚を急いでいた浩司は、を私のへ滑らせてこう言った。
広告
「おも署名しておけ。のことを片づけたら、俺がす」
彼は、私があのを自分名義へ変更するまで提できないとい込んでいた。しかし、婚届にそのような条件はかれていない。私は翌、自分の欄を記入し、藤井弁護士にも内容を確認してもらった。
翌朝、私は浩司にも達也にも見送られず、まだ暗いをた。湿ったの空気が頬に触れ、くで始発の音がした。玄関の鍵を閉めると、鍵束からの鍵だけをし、あらかじめ用していた封筒に入れた。
役所がく刻まで駅の喫茶で待ち、830分、戸籍窓へ向かった。
「婚届を提したいのですが」
職員は本確認類を受け取り、署名欄と証欄を丁寧に確かめた。赤い確認印が押されるたび、私の肩から、目に見えないしが1つずつれていく気がした。
「備はありません。本付で受理されます」
たったそれだけの言葉で、28の結婚活は終わった。
私は窓に礼し、浩司には何もらせないまま、役所をた。
第2話 妻のいない卓
役所をて駅へ向かう途、スマートフォンがく震えた。自宅玄関の防犯カメラが、の入りを検した通だった。
画面をくと、いワンピースを着た女が、きなキャリーケースを引いてを入ってくるところだった。
野裕子。浩司が2以から関係を続け、達也が「しい母親みたい」と慕っている女だ。
玄関からびした達也が、私には見せなくなった笑顔で裕子の荷物を受け取った。