"存在しない孫" 第6話
「で?」
「うん」
「そして、何をしていたとう?」
私は答えられなかった。
母は静かに言った。
「笑っていた」
その言葉に胸が詰まった。
祖母はしんでいたとっていた。
悔していたとっていた。
でも。
違ったのかもしれない。
「おばあちゃんはね」
母が続ける。
「拓がいる未来を像していた」
「……」
「男の子なら、きっとこう育っただろうって」
「そんな……」
私は言葉を探した。
「でも、いないんだよね」
「うん」
「してない」
「うん」
「なのに……」
「だからよ」
母が私を見る。
「だから、おばあちゃんは事にしていた」
私はが分からなかった。
母はし笑った。
寂しい笑顔だった。
「はね」
「実際に失ったものより」
「最初からしなかったものを、放せないことがあるの」
その言葉が静かに響いた。
私は箱を見る。
しない孫。
しない未来。
でも、それを守り続けたがいる。
「お母さんは……」
私は聞いた。
「拓がいたらよかったとう?」
母は黙った。
い沈黙。
そして。
「分からない」
そう答えた。
予だった。
「分からない?」
「うん」
母は窓のを見る。
庭には、祖母が切にしていた梅のがある。
「私は今のを嫌いじゃない」
「……」
「あなたがまれてくれたことも」
その声は迷いがなかった。
「あなたのお父さんと会ったことも」
「こので暮らしたことも」
「全部、私のだから」
私はしした。
でも。
母は続けた。
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「だけど」
その言で空気が変わった。
「々うことはある」
「もし、あの、違うを選んでいたら」
母は笑った。
「どんな景を見ていたのかなって」
私は初めて見た。
母が、自分自のために何かを考えている姿を。
いつも誰かの妻。
誰かの母。
誰かの娘。
そういう役割でしか見ていなかった。
でも今、目のにいるのはの女性だった。
「じゃあ、おばあちゃんは……」
私は言った。
「お母さんの代わりに、そのを覚えていたの?」
母はしばらく黙った。
「たぶん」
「でも」
母の声がしくなる。
「それが正しかったのかは分からない」
私は母を見る。
「どういう?」
母は箱に触れた。
番古い箱。
歳。
「おばあちゃんは優しいだった」
「うん」
「でも」
母は指先で箱の角をなぞった。
「優しいほど、相のためだとって、自分の見たい未来を押しつけることがある」
その言葉は、祖母への批判だった。
でも同に。
母自への理解でもあった。
「おばあちゃんは、私が悔しているとっていた」
「違うの?」
母はし考えた。
「悔した瞬はあった」
「……」
「でも、悔したことと、今のを切にうことは、別なのよ」
私は黙った。
簡単な答えではなかった。
幸せか、幸か。
正解か、違いか。
そんな択ではなかった。
その。
母のスマートフォンが鳴った。
画面を見る。
川文さんからだった。
母の顔が変わった。
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「ないの?」
私が聞く。
母はしばらく迷った。
そして話にた。
「もしもし」
向こうから川さんの声が聞こえる。
「直子さん」
「はい」
「最の荷物が届いています」
母の表が止まった。
「最……?」
「ええ」
川さんの声は静かだった。
「歳の分です」
私は息を止めた。
最の箱。
歳。
しなかった孫が、本来迎えるはずだった齢。
母はさな声で言った。
「……まだ、あったんですね」
「はい」
「でも」
母は目を伏せた。
「もう必ないです」
川さんはすぐに答えなかった。
そして言った。
「それを決めるのは、あなたですよ」
話が切れた。
母はかなかった。
私はった。
この物語の答えは、祖母が残したものではない。
母が、それをどう受け取るか。
そこにあるのだと。
そして。
最の箱のには、誰もけなかったものが入っている。
最の箱が届いた翌朝。
私は祖母のの台所で、母と向かいって座っていた。
湯気の消えかけたお茶が、つの湯みのに置かれている。
昔から変わらない器だった。
祖母が使っていたもの。
母が子どもの頃から使っていたもの。
そして今、私が使っているもの。
同じ。
同じ器。
同じの流れ。
なのに。
そので、母だけがらないをつ抱えていた。
「織」
母が静かに言った。
「最の箱、けるに話しておきたいことがある」
私は頷いた。
昨までなら、く答えをりたかった。
拓とは何なのか。
なぜ祖母はそんなものを残したのか。
誰が悪かったのか。
でも今は違った。