"存在しない孫" 第3話
代わりに、い声で言った。
「そのことは、おばあちゃんに聞くべきだった」
「おばあちゃんはもういないよ」
「……」
「だから聞いてるの」
私は自分でも驚くほど静だった。
「お母さんに」
話の向こうで、母が泣いている気配がした。
でも、泣き声は聞こえなかった。
母は昔からそうだった。
泣くですら、誰にも迷惑をかけないようにするだった。
「今、帰る」
母が言った。
「え?」
「そのにく」
「仕事は?」
「休む」
即答だった。
私は驚いた。
母が仕事を休むなんて、祖母の葬儀以来度もなかった。
「織」
「はい」
「その箱」
「うん」
「誰にも見せないで」
「どうして?」
母はしを置いた。
そして言った。
「あなたが、私を嫌いになるかもしれないから」
話が切れた。
私はしばらくけなかった。
母を嫌いになる。
その言葉だけが残った。
私はもう度、祖母の部へ向かった。
箱を見る。
藤原拓。
歳。
歳。
歳。
歳。
歳。
歳。
昨まで、ただのらない名だった。
でも今は違う。
この名は、母が恐れる何かだった。
私は番古い箱をに取った。
目。
。
ゆっくり蓋をける。
に入っていたのは、さな毛布だった。
淡い青。
そのに、枚のがあった。
きの文字。
祖母の字だった。
『拓へ』
たった文字。
それだけだった。
私はを握りしめた。
祖母は誰もいない相に向けて、をいていた。
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その。
玄関のチャイムが鳴った。
母が来たのだとった。
けれど。
扉の向こうにっていたのは、母ではなかった。
見らぬ齢の女性だった。
髪。
さな体。
そして、私を見るなり、そのは言った。
「……あなた、織ちゃんね」
「はい」
女性は、私のにある箱を見た。
そしてしそうな顔をした。
「それを、けてしまったのね」
私は息を止めた。
「あなたは……誰ですか?」
女性は静かに答えた。
「川文」
「拓さんの荷物を作っていたです」
その瞬。
止まっていた何かが、き始めた。
川文さん。
その名を聞いた瞬、私はので昨の送り状をいした。
送り主。
川文。
偶然だとっていた。
けれど違った。
目のの女性は、、藤原拓というしない名に荷物を送り続けていただった。
「……どうして、その名をっているんですか」
私が尋ねると、川さんはすぐには答えなかった。
玄関先にったまま、古いのを見渡している。
まるで懐かしい所を見るように。
「さんは……くなったのね」
「はい」
「そう」
川さんは目を伏せた。
しそうだった。
でも、泣くほどではない。
いをかけて、覚悟していたの表だった。
「に入ってください」
私はそう言った。
なぜか分からなかった。
警戒するべき相なのかもしれない。
らない名の。
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しない孫。
届いた荷物。
普通なら、もっと疑うべきだった。
でも。
このの顔を見た瞬、議とそういう気持ちになれなかった。
川さんは玄関で靴を脱ぎ、ゆっくりに入った。
そして祖母の部のでを止めた。
「ここね」
「はい」
「さんが、最まで守っていた所」
その言葉に引っかかった。
「守っていた?」
川さんは私を見る。
「あら」
「何ですか?」
「あなた、おばあちゃんから何も聞いていないのね」
私は苦笑した。
「聞いたことなんて、ほとんどありません」
「そう……」
川さんはさく呟いた。
「直子さんも、話さなかったのね」
母の名がた。
私はすぐ反応した。
「母をっているんですか?」
「ええ」
川さんは頷いた。
「昔からっているわ」
「昔って、いつですか?」
「あなたのお母さんが、まだあなたくらいの齢だった頃」
その言葉で、私はし驚いた。
母の若い頃。
祖母の過。
そして拓という名。
全部が本の線につながっている気がした。
「教えてください」
私は言った。
「藤原拓って、誰なんですか」
川さんは黙った。
線が、机のの箱へ向く。
歳。
歳。
歳。
歳。
歳。
歳。
「そのに」
川さんが言った。
「あなたは、どうっているの?」
「何をですか?」
「拓さんのこと」
私はし考えた。
「……正直に言うと」
私は言った。
「最初は、隠された族がいるのかといました」
川さんは驚かなかった。
「そううわよね」
「違うんですか?」
しばらく沈黙があった。
そして川さんは静かに答えた。
「違うわ」
「拓さんは、この世にまれていないもの」