"「中卒は留守番してろ」と空港に置き去りにされた私" 第5話
定期システム権限をされ、主任推薦も見送られたが、録音を提して調査へ協力したことから会社に残ることは認められた。
「証拠をしても、僕が操作した責任は消えません。処分を受けます」
本がをげると、澪は許したとも気にするなとも言わなかった。
「その責任を忘れなければ、同じことは繰り返さないといます」
会社は祥館と社員へ正式に謝罪し、澪がて替えた航空券代も精算した。予約は複数承認なしに変更できない仕組みとなり、管理職を通さず相談できる窓も設された。
処分通が社内へた、企画の管理画面から「内雅」の名が消えた。
そのに表示された作成者名は、最初の保から変わらない。
野澪。
第8話 今度は私の名で
都トラベルの再発防止策を確認した祥館は、止していた共同商品の協議を再した。
澪は企画作成者として参加したが、母親が経営する旅館との利益相反を避けるため、料や契約条件の交渉は別部署の責任者が担当した。会議の議事録も毎回共され、企画の修正履歴には担当者全員の名が残された。
以なら、内が澪の案を自分の成果として提していただろう。今は誰が何を提案し、どの判断で変更したのかが、画面をけば分かる。
澪は3かかけて、祥館に宿泊するだけではない滞型商品を完成させた。
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12組に限定し、初は元の、翌朝は茶舗を訪ねる。移を詰め込まず、料理と温泉を楽しむも削らない程だった。
発売の社内説会で、営業担当から「販売数を増やした方が利益になる」と見がた。
「期には増えます。でも、祥館が守ってきた静けさを壊せば、翌には同じ商品を売れません。ない枠でも継続できる方が、旅館にも域にも会社にも利益が残ります」
澪はではなく、原価と員配置、過の顧客アンケートを示して説した。提案は承認され、商品ページの企画担当欄には初めて「野澪」と記載された。
発売、最初の販売枠は期で埋まった。参加者からは、観を急いで回る旅ではなく、のをわえたというが届き、翌季の継続も決まった。
その実績を受け、澪は付加価値旅商品を担当する3のチームに選ばれた。齢や学歴ではなく、企画内容と販売結果をもとに任された役割だった。
社内発表のあと、篠原が澪のパソコンをのぞき込んだ。
「今度は、名をき換えられてないね」
「はい。更履歴にも残っています」
澪が笑うと、スマートフォンに冴子からLINEが届いた。
《度、帰っておいで。まだあなたに話していないことがあります》
第9話 女将が泣いた夜
共同商品の発売から1か、澪は1で祥館を訪れた。
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仕事の察ではなく、娘として帰るのは久しぶりだった。黒瓦のをくぐり、磨かれた廊を歩いていると、厨のでが止まる。
父の龍がくなったあと、澪はここで朝から晩まで皿を洗った。旅館が混乱しているのを見て、へはかずに働くと決めたのは15歳のだった。
母は反対せず、「自分で選んだなら、途で投げさないこと」とだけ言った。その言葉どおり7働いたが、澪はずっと、母にとって自分より旅館の方が切なのだとっていた。
女将へ入ると、冴子は着物を脱ぎ、紺のカーディガンを羽織っていた。机のには、角が擦れた古い料理帳が置かれている。
「お父さんが使っていた帳よ。最のページを見て」
澪がくと、献や仕入れの記録のあとに、父の字でい文章が残されていた。
《澪には、この旅館しかないを選ばせるな。を見せ、自分の仕事を選ばせてやってくれ》
「お父さんは、私に旅館を継いでほしかったんじゃないの?」
「ここしからないまま継がせてはいけないと言っていました。で学んだうえで、それでも戻りたいなら迎えればいいと」
澪は帳から顔をげた。
「それなら、どうして15歳の私を止めてくれなかったの」
冴子は膝ので両を握った。言い訳を探すのではなく、自分の過ちを言葉にするまで、しばらく沈黙していた。
「旅館を守ることに必で、あなたの覚悟に甘えました。
私はこの帳を見せてでも止めるべきだった。厳しくすればい子になるとっていましたが、本当は母親として向きうのが怖かっただけです」
「私は、お母さんにされていないとってた」
冴子の唇がわずかに震えた。
「反対よ。お父さんをくしたあと、あなたまでいなくなるのが怖くて、何も言えなくなったの」
父の葬儀で泣かなかったように見えた冴子は、皆が眠ったあと、厨の蔵庫ので声を押し殺していたという。澪の就職が決まったに初めて涙を見せたのも、ようやく夫との約束をし果たせたとったからだった。
「遅すぎるよ。もっとく言ってほしかった」
「分かっています。ごめんなさい」
冴子がをげると、涙が料理帳の表へ落ちた。澪は母の隣へ座り、伸ばしかけて止まったその腕のへ、自分から体を寄せた。
「よく頑張りましたね、澪」
幼い頃から欲しかった言葉を聞き、澪も初めて母ので泣いた。
失った学の会は戻らない。それでも今の澪には、自分で学び、自分の名で作った仕事がある。旅館へ残ることも、で働くことも、もう誰かに決められるではなかった。
帰り際、冴子は赤くなった目元を隠すように言った。
「次は、こんなにを空けずに帰ってきなさい」
澪は笑ってうなずいた。
「うん。次は仕事じゃなく、ただいまって言いに帰る」