"花嫁が僕を犯人にした朝" 第12話
それを失敗と呼ぶか、修復の跡と呼ぶかは、縫うだけでは決められない。
奈緒が切ったドレスも、僕が失った信用も、美智子と娘の距も、元どおりにはならなかった。圭介が父へ逆らえなかったも、なかったことにはできない。
けれど、元どおりにならないことと、その先が作れないことは違う。
翌週、モーニングコートを受け取りに来た男性は、裏の継ぎ目を指でなぞった。表から見れば、裂け目は分からない。内側には、以の針穴としい縫い目が並んでいる。
「ここは残したんですね」
「はい。古い布を全部す方法もありましたが、いの染みを残したいと伺ったので、使える部分は残しました」
男性は着を羽織り、鏡ので肩をかした。
「息子には、しく借りればいいと言われたんです。でも、これでけます」
「無理に昔と同じ形で着なくても丈夫です。苦しいところがあれば、もう度直します」
男性は笑い、をていった。
僕は預かり台帳へ受け渡し済みの印をつけた。以なら、客が帰った瞬に仕事は終わったとっていた。今は、がそのの活へ戻り、着られ、また傷むところまでが続きだとう。
閉、シャッターを半分ろすと、夕方のが細い線になってへ伸びた。澄は先に帰り、にはミシンのと布の匂いが残っている。
僕は母の古い裁ちばさみをに取った。
ドレスが切られた朝からしばらく、ハサミを見るたびに奈緒の指と、支度の線をいした。今も完全には消えていない。それでも、刃物は壊すためだけにあるのではない。余分な部分を切り、別の形を作るためにも使う。
切なのは、誰の布を、何のために切るのか。そして、切ることを誰が決めたのかを曖昧にしないことだった。
僕は翌の仕事用に、しい裏を必なさだけ切った。刃は迷わず布をみ、作業台のに本の線を残した。
度切ったものは戻らない。
だからこそ、その先の形は、自分で選ばなければならない。