"預かったままの革靴" 第9話
だから別の誰かへ渡した。
健は々考えた。
あの握り飯を渡したは、自分の為が18に靴修理へつながったことなどるはずもない。
復員兵が革靴を置いたことで、9歳のが修理を覚えたこともらない。
それでいいのだとった。
の親切は、必ずしも見返りを確認するためにあるものではない。
受け取ったが覚えていれば、それだけでどこかへ残る。
あるの。
で働く若い職が、古い革靴を眺めながら健に聞いた。
「親方」
「何だ」
「そのとは、そのも会ったんですか」
健はし考えた。
「いや」
のに再会した、何度かいすことはあった。
しかし、頻繁にき来するような関係にはならなかった。
18に度会い、そして18にもう度会った。
それで分だった。
「名は?」
若い職に聞かれ、健は首を横に振った。
「ちゃんと聞かなかった」
「え?」
「最初も聞かなかったし、再会したもな」
青は驚いた。
「そんなことあります?」
「あるんだよ」
健は笑った。
議だった。
い待った相なのに、名をることはそれほどではなかった。
健が覚えているのは、名ではない。
のので、自分の革靴を脱いだ。
それだけでよかった。
戦の駅には、健のような靴磨きのが勢いた。
親を失った子ども。
がなくなった子ども。
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計を助けるために働く子ども。
彼らのくは、になるにつれて駅から消えていった。
へった者。
商へ入った者。
職になった者。
どこへったのか分からなくなった者もいた。
健もそのだった。
ただ彼の、の革靴が仕事の先を教えた。
靴を磨くだけだったが、靴を直すことを覚えた。
修理職になった。
自分のを持った。
若いへ技術を教えるようになった。
その始まりをたどれば、結局はの見らぬ男が残した革靴へき着く。
さらにたどれば、名も分からない誰かが渡したつの握り飯へつながっていた。
健は歳を取ってからも、その話を若い職たちへ伝えた。
恩は、受けた相へ返せないこともある。
そのがもういないかもしれない。
どこにいるか分からないこともある。
そんなは、別のへ渡せばいい。
同じ物でなくてもいい。
同じ額でなくてもいい。
自分ができる形で渡せばいい。
あるの閉。
健はのへた。
商のが軒ずつかりを落としていく。
駅の方向から、の音が聞こえていた。
革靴。
運靴。
仕事帰りの男が履く靴。
買い物帰りの女が履く靴。
たくさんのが、それぞれの所へ向かっている。
健は内へ戻った。
棚の番には、あの黒い革靴があった。
のつま先には、今もい傷が残っている。
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完全に消そうとえば、今の健ならもっと目たなくできた。
それでも直さなかった。
傷も含めて、あのの靴だったからだ。
9歳の自分が見たもの。
たい。
履で歩いていった男。
「かくなった頃に取りに来る」
その約束を、健は18守った。
結局、男は約束通りには来なかった。
けれどずっとになって、本当にへ現れた。
そのになって健は初めて分かった。
自分が18待っていたのは、革靴の持ち主だけではなかったのかもしれない。
あの、自分に向けられた親切のをる瞬を待っていたのかもしれない。
男は自分へ靴を残した。
けれど本当に渡したかったものは、革靴そのものではなかった。
「おもきろ」
「へ歩け」
言葉にすれば、きっとそんな気持ちだった。
靴は度も健のに履かれることはなかった。
それでも確かに、健をへ歩かせた。
駅の箱から。
さな靴へ。
職としてのへ。
そして健から、また次の誰かへ。
閉、健は棚の革靴を度だけ見げた。
それからのかりを消した。
暗くなった内で、古い革靴の輪郭だけがわずかに残っていた。
戦争が終わってもないのから、いが過ぎていた。
それでも、の男が渡したものは消えていなかった。
形を変えながら、からへ受け継がれていた。
の靴がをへ歩かせるように。
誰かから受け取ったさな親切もまた、次の誰かのを、ほんのしへませることがある。