"預かったままの革靴" 第8話
これまでと同じ所。
番。
しかし、置いたの気持ちはそれまでとし違っていた。
以は、持ち主が取りに来るかもしれないから保管していた。
もう違う。
持ち主は来た。
そしてはっきり言った。
「あのから、おの靴だ」
これからは、預かり物ではない。
自分のの部として置いておくのだとった。
はしずつ忙しくなった。
商の々だけでなく、くから修理を頼みに来る客も増えた。
「買い替えた方がいのは分かってるんだけどね」
そう言いながら、古い靴を持ち込むがいる。
「父にもらった物だから」
「夫が最に買ってくれた靴で」
「これじゃないとにわないんです」
理由はそれぞれ違った。
健はできる限り直した。
しい物を買う方が簡単なもあった。
それでも、が放せない物には、値段だけでは測れない理由がある。
それを健はよくっていた。
が軌に乗ると、若い職を雇うようになった。
最初に来た青は、まだ修理経験が浅かった。
「何でもやります」
面接でそう言った。
健は翌朝からへ来るよう伝えた。
初。
青が掃除を終えると、健は棚のの革靴をろした。
「これ、見てみろ」
青は受け取った。
「古いですね」
「ああ」
「修理ですか」
「違う」
健はのつま先を指した。
「い靴じゃない。名な職が作ったわけでもない」
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青は議そうに見た。
「じゃあ、何ですか」
健はし笑った。
「俺が靴になった理由だ」
それから、昭21ののの話をした。
駅で靴を磨いていたこと。
見らぬ復員兵が来たこと。
革靴を置いていったこと。
18待ったこと。
そして、のにその男が偶然現れたこと。
青は信じられないという顔で聞いていた。
「本当に18も取っておいたんですか」
「そうだ」
「途で売ろうとわなかったんですか」
「ったことはある」
「履こうとは?」
「それもある」
「でもしなかった」
「ああ」
青は革靴をじっと見た。
「変な話ですね」
「そうだな」
健は否定しなかった。
「でも、俺はこれがなかったら靴の修理を覚えてなかったかもしれない」
青へ靴を返してもらい、棚に戻す。
「壊れた物は、直せるものなら直してやれ」
「はい」
「客が何でその靴を持ってきたのかも考えろ」
「はい」
「ただ直せばいいってもんじゃない」
健が教えたかったのは技術だけではなかった。
靴はを守る具だった。
同に、そのが歩いてきたを残す物でもあった。
すり減ったかかと。
傷のついたつま先。
革についた細かな皺。
そこには持ち主が歩いたが刻まれている。
健はそれを消しるのではなく、また歩けるようにするのが自分の仕事だとっていた。
若い職が増えるたび、健はあの靴を見せた。
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話し方はしずつ変わったが、最に伝える言葉は同じだった。
「これはい靴じゃない」
「でも俺には、どんな品より事なんだ」
戦争が終わった直。
自分もべる物がなかった男が、見らぬから握り飯をもらった。
その恩を返す相には、度と会えなかった。
だから何か、駅で震えていたへ革靴を残した。
そのは靴を履かなかった。
代わりに修理を覚えた。
そして職になった。
親切は、同じ所へ戻らなかった。
形を変えながら、次へんでいった。
が流れても、黒い革靴はの棚に置かれ続けた。
革はさらに古くなった。
健もを取った。
それでも々、閉に棚からろして入れをした。
乾いた布で表面を拭く。
必ならくクリームを塗る。
のつま先にあるい傷を見るたび、昭21の駅をいした。
。
たい。
空腹。
そして、見らぬ男の声。
「俺はだから何とかなる」
当の健には、その言葉のは分からなかった。
今なら分かる。
あの男も、何とかなるような暮らしをしていたわけではない。
を失い、族とれ、仕事さえ決まっていなかった。
それでも自分よりさな子どもを見て、何かを渡そうとした。
余っていたからではない。
余裕があったからでもない。
自分が困っていた、誰かに助けられた記憶があったからだ。
つの握り飯。
名もらないからもらったもの。
そのに直接返すことはできなかった。