"預かったままの革靴" 第6話
しばらく何も言わなかった。
やがて、ゆっくり笑った。
「ずいぶん待たせたな」
健は息を吸った。
何を言えばいいのか分からなかった。
会ったら聞こうとっていたことは、子どもの頃から何度もあった。
どうして来なかったのか。
どこにいたのか。
本当に取りに来るつもりだったのか。
18考えてきたのに、本が目のへ現れると、言葉にならなかった。
ようやくたのは、番単純な質問だった。
「どうして……来なかったんですか」
老は棚の革靴を見げた。
い黙っていた。
それから、静かに話し始めた。
老はあの、復員してもなかった。
い戦争が終わり、本へ戻ってきたものの、帰る所があるのかさえ分からない状態だったという。
「故郷へ帰る途だったんだ」
老は言った。
「族がいるとってた」
健は何も言わず聞いていた。
「でも、帰ってみたらはなかった」
戦争の混乱ので族は散り散りになっていた。
消息が分からない者もいた。
老はしばらく故郷にいたが、仕事もむ所もなかった。
「京へ戻ろうとったこともあった。でも、何のあてもなかった」
その、仕事を求めてへ渡った。
炭鉱で働いた。
作業もした。
港で荷物を運ぶ仕事もした。
「雇いみたいな仕事を転々としてな。次のどこにいるかも分からんような暮らしだった」
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最初の数は、京へ戻る余裕などまったくなかった。
稼いでもべるだけで消えた。
むところを変えるたび、昔のりいとも連絡が切れた。
「じゃあ、靴を取りに来るつもりは……」
健は聞きかけた。
老は苦笑した。
「なかった」
健は黙った。
予していた答えだった。
それでも本のから聞くと、胸の奥にさな衝撃があった。
「やっぱり」
「悪かったな」
「いや……」
老は棚を見げた。
「あのから、あれはおの靴だったんだ」
健は子へ座った。
「だったら、そう言えばよかったのに」
「言ったら受け取ったか?」
健は答えられなかった。
老は笑った。
「受け取らなかっただろ」
その通りだった。
9歳の健なら、「いらない」と言ったに違いない。
「お、がびしょ濡れだったからな」
「覚えてたんですか」
「覚えてるよ」
老はし目を細めた。
「さいくせに、妙に張ってた」
健は苦笑した。
「慣れてるから丈夫って言ってたな」
「そんなこと言いましたっけ」
「言った」
18のが、瞬だけ縮まったような気がした。
老は数に久しぶりに京へ来たのだという。
用事を済ませた、昔歩いた駅へってみた。
当然、昭21の景はほとんど残っていなかった。
焼け跡もない。
簡易なも減った。
靴磨きのたちも姿を消していた。
「もう、どこでおに会ったのかも分からなかった」
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老は駅を歩きながら、あのののことをいした。
名も聞いていない。
あれからどうなったのかもらない。
きているかどうかすら分からない。
「古いりいに昔話をしてたんだ。駅に靴磨きの子がいてなって」
するとが言った。
「あの辺で靴磨きをしていた子なら、今は靴をやってるのがいるぞ」
もちろん、同じだという確信はなかった。
齢だけはいそうだった。
半信半疑で教えられたまで来た。
そして棚の革靴を見つけた。
「の傷を見て、分かった」
老はそう言った。
健はちがった。
棚から革靴をろした。
18、何度も入れしてきた。
革は古くなっていたが、まだ形を保っている。
「返します」
健は老へ差しした。
老は受け取らなかった。
「いや」
「でも、あなたの靴でしょう」
「あのから、おの靴だ」
「でも」
「持っていてくれ」
老は革靴を見つめた。
健もその元を見た。
いを隔てて再会したのだから、本当なら持ち主へ返すべきだとった。
それでも老の表を見ていると、無理に渡すことはできなかった。
健は革靴を抱えたまま、ずっとに残っていた疑問をにした。
「どうして、あのこんな事な物を置いていったんですか」
老はすぐには答えなかった。
棚のの子へ座り、しばらく革靴を眺めた。
「俺もな」
い声で言った。
「帰ってきた、何も持ってなかったんだ」
その話は、さらに戦争が終わった直までさかのぼった。