"家族写真の左端" 第11話
源蔵も語らなければ、次の世代には名すら残らない。
そうなれば、宗吉が瀬を助けたことも消える。
ハナという女性を選んだことも。
横浜で働いたことも。
をたも族を見捨てなかったことも。
清郎は、あの最初のをいした。
写真を見た祖母が扇子を落とした。
父が青ざめた。
誰もらない男がっていた。
あの、自分は写真のの物を気だとった。
だが今は違う。
気だったのは、らない男が写っていたことではない。
族の誰かが、その男をっているのに何も話そうとしなかったことだった。
写真そのものには何の秘密もなかった。
乾板が偶然なっただけだ。
秘密を作っていたのは、の方だった。
きぬは折、アルバムをくようになった。
2枚の族写真が並ぶ頁をじっと見る。
「宗吉も緒に撮りたかったのかもしれませんね」
清郎が言うと、きぬは笑った。
「それはないよ」
「どうしてです」
「あの子はこんな堅苦しい写真、嫌がっただろうからね」
「でも治34には撮ったんでしょう」
「私が無理に連れていったんだ」
その、源蔵が横から言った。
「兄貴は写真館をたあと、ずっと文句を言っていた」
きぬが驚いた。
「お、緒にいたのかい」
「ので待っていた」
「そんなこと度も言わなかったじゃないか」
源蔵は肩をすくめた。
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「言う必がなかったからだ」
清郎は父を見た。
治345。
宗吉が町をれる。
写真館のには、弟の源蔵もいた。
そのことさえ、い誰にも語られていなかった。
「伯父は、父に何か言ったんですか」
清郎が尋ねた。
源蔵はし考えた。
「を頼む、と」
それだけだった。
源蔵はその言葉を守った。
を守った。
を残した。
ただ、そのために兄の名までざけてしまった。
清郎は、父が今ようやくその2つを別々に考え始めているのだとった。
治42のがづく頃、瀬糸はいつも通り忙しさを増していた。
朝になれば繭を積んだ荷がやって来る。
帳ではそろばんの音が響く。
奥では志乃がのことを取り仕切り、きぬは縁側で庭を眺める。
写真館で起きた来事によって、商売そのものが変わったわけではなかった。
瀬は昨までと同じように続いていた。
ただ1つ。
族の記憶だけが変わった。
清郎は折、アルバムをいた。
そこには同じに撮られた2枚の写真が並んでいる。
枚は、写真師が本来作るはずだったもの。
瀬の族だけが正しく写っている。
もう枚は、写真館の違いによってまれたもの。
端の背景くに、い男がっている。
初めて見た、清郎はらない男だとった。
だが今は、その名をっている。
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宗吉。
父・源蔵の兄。
祖母・きぬの男。
本来なら、瀬糸を継ぐはずだった。
製糸で働くハナと緒になることを選び、父親と対してをた。
横浜へき、輸商の仕事を覚えた。
そして瀬が苦境に陥った、自分の名をさず、くからを救った。
そのが、枚の失敗写真によって族のへ戻ってきた。
もちろん、幽霊ではない。
撮のに宗吉がそこへ現れたわけでもない。
治34に撮された古いガラス乾板と、治42のしい乾板。
助が理の際に誤ってねた。
それだけのことだった。
写真師にとっては失敗だった。
本来なら謝罪して処分し、正しい写真を焼き直せば終わる来事だった。
けれど瀬にとっては、そうではなかった。
もし乾板が正しく理されていれば。
もし助が違えなければ。
もし宗吉の姿が端にく浮かびがらなければ。
清郎は、父に兄がいたことすららないままになっていただろう。
妹たちも同じだった。
きぬがくなったあと、宗吉をる者はさらになくなり、やがてその名は本当に族の記憶から消えていたかもしれない。
ある夕方。
清郎がの奥で帳簿を片づけていると、源蔵が声をかけた。
「清郎」
「はい」
「の朝、しく起きろ」
「なぜですか」
「仕入れ先へ緒にく」
清郎は驚いた。
これまでくの取引先へ連れていかれたことはあったが、父と本格に商談へる会はまだなかった。
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