"家族写真の左端" 第1話
治42、初。
信州の町では、朝のうちはまだいが残り、昼くになると、瓦根の向こうに青い並みがくっきりと見える季節になっていた。町のからしれた通りに、「瀬糸」と染め抜かれた簾を掲げるきな商があった。
瀬は、糸を扱う問だった。
表の先では奉公たちが荷を受け取り、奥の帳では番がそろばんを弾いている。養蚕の盛んな期になると、の農から繭を積んだ荷が朝から何台も並び、のにはの声と輪の音が絶えなかった。
瀬のは、源蔵という。
商売には厳しく、無駄を好まず、の者からも族からも目置かれていた。妻の志乃とのには数の子どもがおり、14歳になる男の清郎は、いずれ父のを継ぐ者として帳の仕事をしずつ教えられていた。
そしての奥には、源蔵の母である72歳のきぬが暮らしていた。
きぬは腰こそくなっていたが、はしっかりしていた。の古い取引先の名も、何もに奉公していた者の顔もよく覚えており、源蔵でさえ折、昔の商売について母に尋ねることがあった。
その、瀬では初めてそろって写真を撮ることになった。
当、写真はまだ常のものではなかった。
まして方の商にとって、族全員が写真館へ向き、枚の写真に収まるというのはきな来事だった。
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誕や婚礼、節目の祝いでもなければ、わざわざ写真館を訪れるはくなかった。
数から、志乃は子どもたちの着物を確認していた。
「清郎、袴を汚すんじゃありませんよ」
「分かっています」
そう答えながらも、清郎はし落ち着かなかった。
写真というものは何度か見たことがあったが、自分が写されるのは初めてだったからだ。
当の朝、源蔵は紋付き羽織袴に着替えた。
志乃と娘たちも、普段は箪笥の奥にしまっている番よい着物をにつけた。清郎には借りたばかりの袴が用され、祖母のきぬも髪をきれいにえてもらった。
「そんなにかしこまらなくてもいいだろうに」
きぬはそう言ったが、志乃は笑った。
「せっかく族みんなで撮るんですもの」
が向かったのは、町でく写真館を営んでいる森川亀吉のだった。
写真館の扉をけると、清郎はわずを止めた。
普段のとはまるで違う空だった。
撮にはきなガラス窓があり、井くから差し込む自然がい幕を照らしている。奥にはの柱や庭園を描いた割がてられ、そのに子が何脚か並べられていた。
部の央には、製のきなカメラが置かれていた。
黒い布がろに垂れ、写真師の亀吉がそこへを入れて、何度も位置を確かめている。
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「では、おばあさまはこちらへ」
きぬは番の子へ案内された。
そのろに源蔵と志乃がち、子どもたちは順に位置を決められた。清郎は父のしろにち、姿勢を正した。
「顔をしこちらへ」
亀吉が言った。
「そうです。そのまま。かないでください」
族全員が息を詰めるようにして静止した。
普段なら落ち着きのない幼い子どもまで、このだけは神妙な顔をしている。
数秒の沈黙。
やがて亀吉が操作を終えた。
「はい、結構です」
それだけだった。
清郎は拍子抜けした。
「もう終わりですか」
亀吉が笑った。
「写真は撮ってからが仕事なんですよ。来がりまでしお待ちください」
帰り、族は撮の話をしながら歩いた。
「清郎、あんなにい顔をしていたら、きっと怖いに写ってるわ」
妹に笑われ、清郎はむっとした。
「おだってくなと言われて、目まで閉じそうだったじゃないか」
そのやり取りを聞きながら、きぬも穏やかに笑っていた。
そのの族にとって、それはただの記写真だった。
が続いていること。
族がそろっていること。
祖母が元気なうちに、枚の形として残しておくこと。
それ以のなど、誰も考えていなかった。
数。
来がった写真を受け取りにった源蔵が、昼になってへ戻ってきた。
いつもなら帰るなり帳へ顔をす源蔵が、そのは誰にも声をかけなかった。
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