"ブラックカードを止めた10分後" 第1話
佐藤百が婚届に判を押したのは、結婚5目のだった。
向かいに座る拓也は、類を確認すると、骨に肩の力を抜いた。
「これでやっと終わったな」
40歳。父親の会社で営業部を任され、ここ数は級計と仕てのいいスーツを好むようになった男だった。
百は38歳。結婚をに勤の仕事をやめ、のことをにしてきた。拓也から見れば、5ほとんど「働いていない妻」だった。
「最に確認するけど、本当にこれでいいのね」
百が聞くと、拓也は笑った。
「何回も話しただろ。俺たち、もうわないんだよ」
その言い方は、婚を切りした3ヶよりずっと軽かった。
「それに、俺も次へみたい」
「玲子さん?」
拓也は隠す気もなかった。
「そう。彼女は医者だし、自分の仕事も持ってる。話してても刺激があるんだよ」
百は何も言わなかった。
玲子、35歳。私総病院に勤務する内科医で、病院の娘。拓也が「仕事関係の事会でりった」と説した女性だった。
実際に関係が始まったのがいつなのか、百にはもう興がなかった。婚を申した点で、拓也はすでに玲子との再婚を具体に考えていた。
拓也は机のに置いた計へ目をやった。
「悪いけど、この予定あるから」
「今?」
「うん。玲子と親父たちと事」
婚届に判を押したに、再婚相と両親を連れて祝うらしい。
広告
「そう」
百は静かに類を封筒へ入れた。
拓也はちがり、腕計を見せるように袖を直した。買った約500万円の計だった。
「百もさ、これからは自分で何とかしろよ」
「分かってる」
「今までみたいに俺のにんで、俺ので活するわけにはいかないんだから」
その言葉に、百は瞬だけ拓也を見た。
「そうね」
「まずパートでも探したら? 38で職歴空いてるんだから、選り好みできないとうけど」
「考えるわ」
「からいアパート探したほうがいいぞ。今のマンション、俺が使うから」
百は返事をしなかった。
拓也はそれを、言い返せないからだとったらしい。
「5、専業主婦で楽できたんだから分だろ」
玄関へ向かいながら、さらに言った。
「正直、寄虫1養うのも結構しんどかったんだよ」
百は背を見送った。
りより先に、妙な静けさが来た。
婚届をき終えた直、インターホンが鳴った。
拓也が計を見る。
「もう来たのか」
玄関にっていたのは玲子だった。
いジャケットに細のパンツ。にはブランドのバッグ。病院帰りらしく、髪はきれいにまとめられていた。
「ごめんなさい。しかった?」
「いや、ちょうど終わったところ」
拓也の声が、さっきまでより柔らかくなる。
玲子はリビングへ入り、百を見ると瞬だけ線を止めた。
広告
「初めまして。玲子です」
「百です」
「お話は聞いてます」
何を聞いているのか、百は聞かなかった。
玲子の線がテーブルの婚届へ落ちる。
「今だったんですね」
「うん。これで正式に終わり」
拓也がそう言うと、玲子はしたように笑った。
百は、その表を見て初めて確信した。
2の関係は、婚を決めてから始まったものではない。
それでも追及する気にはならなかった。
今さら何何に始まったかを確かめても、結論は変わらない。
玲子は部を見回した。
「やっぱり素敵なマンションですね。に写真で見たより広い」
「今度ちゃんと具入れ替えようとってる」
拓也が当然のように答えた。
玲子は百へ向き直った。
「百さんは、次のまいもう決まってるんですか?」
「まだ」
「変ですね」
調は丁寧だった。
でも続いた言葉には、隠す気のない優越があった。
「5も専業主婦だったんですよね。急に仕事探すの、結構変そう」
「そうかもしれませんね」
「私は仕事を辞めたことがないので、ちょっと像できなくて」
玲子は笑った。
「自分で1円も稼げない状態って、私は怖いです」
拓也が隣で頷く。
「百はそういう危ないんだよ。にいれば何とかなるとってたから」
百は2を見た。
「そう見えてたのね」
「見えてたっていうか、実際そうだろ」
拓也は玄関くの棚から黒いカードケースを取った。
「玲子、今の、親父がすって言ってるけど、りなかったらこれ使うから」
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
離婚後に生まれた息子
10年間の不妊治療の末、「子供もできなかった」と姑に責められ、夫・健一から離婚を告げられた38歳の由美。ところが離婚から2週間後、最後に受けた治療が実っていたことが判明する。由美は悩んだ末、元夫には知らせず、実家で1人の男の子を出産した。それから1か月。離婚から10か月後のある日、玄関に現れたのは健一と、彼が再婚する28歳の美香だった。「来月、結婚式をするんだ」と招待状を差し出そうとした健一。しかし、由美の腕に抱かれた赤ん坊を見た瞬間、その笑顔が消える。「その子……まさか俺の?」。10年間「子供を産めない妻」と責められ続けた由美の人生が、そこから大きく動き始める。夫婦|真相|修羅場2.0萬字5 7 -
完結第12話
娘の結婚式で夫は愛人を新しい妻と紹介した
52歳の由美は、27年間連れ添った夫・剣一との夫婦関係がすでに壊れていることを知りながら、一人娘・美穂の結婚式までは何も起こさないと決めていた。ところが披露宴の最中、剣一は180人の招待客を前に、34歳の愛人・理香を「これからの妻になる人です」と紹介する。会場が凍りつき、娘が青ざめる中、由美は怒鳴りも泣きもせず、静かに立ち上がって拍手した。「あなたの本性を、私が説明する手間が省けました」。すると突然、新郎の父・誠が由美の前まで歩み寄り、深く頭を下げる。「これまで、本当によく耐えてこられました」。そして彼が口にした「準備はできています」という一言に、夫の表情が変わった――。人生逆転|不倫|熟年離婚1.8萬字5 18 -
完結第10話
清掃員が書いた設計図
倒産寸前の小さな町工場に、1人の若い清掃員がいた。 佐藤ゆい、21歳。学歴は中卒。従業員たちからは名前で呼ばれることもなく、ただ雑用係として扱われていた。 そんなある日、大企業から依頼された精密部品がすべて不良品となり、工場は2000万円の違約金を突きつけられる。誰もが技術不足だと責められ、工場長の竹夫も廃業を覚悟しかけていた。 その時、ずっと黙っていたゆいが静かに口を開く。 「設計が間違っています」 中卒の清掃員が、大企業の研究所の図面に誤りがあると言い出した――。 誰も信じなかったその言葉が、やがて町工場の運命を大きく変えていく。履歴書には書けなかった彼女の本当の力とは。人生逆転|真相1.4萬字5 93 -
完結第13話
不在着信93件の朝
息子夫婦の豪邸ローンを、5年間毎月24万円も肩代わりしてきたみつ子と正人。だが返ってきたのは感謝ではなく、「黙って金だけ払え」という侮辱だった。 ついに二人は支援を完全停止。翌朝、スマホには93件もの着信が――。親をATM扱いした息子夫婦に、想像もしなかった代償が襲いかかる。夫婦|親子関係2.0萬字5 34 -
完結第12話
団地に残された17通
毎朝5時、誰よりも早く団地へ来て、廊下も階段もごみ集積所も黙って掃除してきた61歳の藤本志津江。 13年間続けてきた仕事は、ある日突然、31世帯の署名によって終わりを告げられる。理由は「住民の生活をのぞいている」「勤務時間外に声をかけすぎる」というものだった。 志津江は反論しながらも、自分の善意が誰かにとっては重荷になっていたことを知る。 そして契約終了が決まった直後、清掃用具庫から見つかったのは、長年誰にも届かなかった17通の手紙だった。 その中には、15年前に団地で起きた火災と、当時責任を負わされた元管理人、そして亡くなった女性が残したはずの言葉が含まれていた。 志津江は本当に住民を見張っていたのか。 17通の手紙は、なぜ用具庫に残されていたのか。 そして、団地が長年隠してきた火災の真相とは――。因果応報|人生逆転|真実1.8萬字5 132 -
完結第18話
四十九日の注文票
夫の四十九日を終えた夜、59歳の円香は、息子夫婦から突然「明日の朝までに店の鍵を渡してほしい」と告げられる。 夫と32年間守ってきた惣菜店《おかず処まどか》。しかし土地と建物は、知らないうちに息子の名義へ移され、すでに再開発のため売却されようとしていた。 悲しみも癒えないまま、住む場所も店も奪われかける円香。さらに夫が管理していた店の預金も、借金返済に使われたと聞かされる。 そんな夜、夫の机の奥から見つかったのは、古い注文票だった。 《弁当120食。毎月第2土曜日。代金は受け取らないこと》 そこに書かれていたのは、円香の知らない女性の名前。 夫はなぜ、妻に黙って無料の弁当を届けていたのか。 なぜ、その女性を「店を失った時に訪ねろ」と書き残したのか。 追い出されたはずの店の裏で、夫が最後まで隠していた過去と、息子夫婦の本当の目的が少しずつ明らかになっていく――。人生逆転|親子関係2.8萬字5 120 -
完結第17話
「その子はゴミだ」と捨てた夫の本当の末路
妊娠8ヶ月のかおりは、夫・健太と愛人レナに「金づる」「腹の子はゴミ」と罵られ、階段から突き落とされる。 二人は彼女が死んだと思い、事故を装って財産まで奪うつもりだった。 しかし、健太は知らなかった。 自分が「油臭い町工場」と見下していた五条精密が、世界的特許を握る超優良企業であり、専門卒と嘲笑っていた妻こそ、その技術を生み出した天才技師だったことを。 さらに健太の会社は、その技術なしでは巨大プロジェクトを完成できない。 病室で目を覚ましたかおりの前に、銀行頭取と夫の会社の会長が現れる。 「準備は整いました」 妻と我が子を捨てた男の“エリート人生”が、そこから音を立てて崩れ始める――。夫婦2.5萬字5 117 -
完結第19話
赤ん坊を背負った応募者
東京・丸の内、大和建設の公開採用面接。 30歳の優人は、1歳の息子を背負い、破れた靴と古い鞄で会場に現れた。 「妻が救急搬送され、子供を預ける場所がありませんでした」 人事部長は彼を追い出そうとする。 その瞬間、鞄から徹夜で描いた設計図が床へ散らばった。 そして偶然通りかかった“鉄の女”と呼ばれる会長・北川文子が、優人の顔を見て凍りつく。 25年前に亡くした夫と、あまりにも似ていたのだ。 さらに翌日の特別面接。 文子は優人の指にある古びた銀の指輪を見て、震える声で尋ねた。 「その指輪……どこで手に入れたの?」 それは25年前、事故現場から消えた“世界に2つしかない指輪”だった――。因果応報|人生逆転2.8萬字5 124 -
完結第10話
父の葬儀の日_夫は愛人を車に乗せて去った
48歳の由美は、3年間ほぼ1人で父を介護し、78歳の父を見送った。ところが葬儀の帰り、20年連れ添った夫・浩司は、愛人と思われる女性を助手席に乗せたまま、喪服姿の由美を雨の駅前で車から降ろす。「俺だって1日付き合って疲れてるんだ」。由美は泣かず、父が亡くなる2日前に渡してくれた古い革鞄を開いた。中にあったのは、1通の手紙、弁護士の名刺、そして夫の会社に関する資料。手紙の最初には、「浩司君に、私の通帳も印鑑も渡してはいけない」と書かれていた。なぜ父は、娘の夫をそこまで警戒していたのか。由美は父が最後に残した手がかりを追い始める。夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場|不倫1.5萬字5 520