"映画の夜に消える少女" 第9話
ずいぶん昔だからな」
弥平はし考えた。
「でも、あの子はそういう娘だった」
美代は胸のでを握った。
母親について、初めて聞くことばかりだった。
はよく笑った。
じっとしていられなかった。
困っている子を見るとすぐっていった。
祭りのには友達とふざけた。
台で何かをべた。
それはどれも、仏壇の写真からはることのできない母の姿だった。
「笑うな」
弥平が言った。
「し首をへ傾ける癖があった」
美代は無識に自分の首へを当てた。
弥平は目が見えないまま、ふっと笑った。
「それ、おも同じだな」
その瞬、美代の目から涙がこぼれた。
自分でも、なぜそれほど泣いたのか分からなかった。
映画で母を見たも涙はた。
けれど、どこか信じられない気持ちがあった。
スクリーンのの女性が、本当に母親なのか。
自分とつながっているなのか。
弥平の言葉で、初めてその距が消えた。
笑うに首をへ傾ける。
自分にも同じ癖がある。
母はもういない。
それでも、自分のに母が残っている。
「お母さん……」
美代は顔を覆った。
弥平は慰めようともしなかった。
ただ、泣き止むまで隣に座っていた。
これまで毎、美代は自分が老へ映画を見せているつもりだった。
の原。
都会の駅。
汽。
らない々。
自分が見たもの、聞いたものを言葉にし、目の見えない弥平へ届けていた。
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しかし、その夜は逆だった。
何も見えない弥平が、美代へ映画を見せていた。
スクリーンにはもう映っていないを、言葉だけでもう度かしていた。
「ちゃんは、源蔵と緒になるからよく笑っとった」
弥平はさらに話した。
「源蔵は昔からあの調子だから、並んで歩いててもほとんどしゃべらん」
美代は涙ので笑った。
「今と同じだ」
「同じだ」
弥平も笑った。
「ちゃんが1でしゃべって、源蔵が『そうか』って言うだけだ」
「本当に?」
「ああ」
美代はもっと聞きたくなった。
「母ちゃん、何が好きだった?」
「何でった?」
「映画は好きだった?」
1つ聞くたび、弥平は記憶を探しながら答えた。
覚えていないことは「覚えてない」と言った。
それでも美代には分だった。
あの夜、弥平の古いで、美代ののはしずつ表を持ち始めた。
写真ので止まっていた母親が、笑い、歩き、誰かへ駆け寄るになった。
帰る頃には夜もくなっていた。
正夫はで待っていた。
美代が泣いた顔でてくると、何も聞かず並んで歩き始めた。
杉林の途で正夫が言った。
「母ちゃん、映っててよかったな」
「うん」
「覚えてるか?」
美代は頷いた。
「忘れない」
しばらく歩いてから、もう度言った。
「絶対に忘れない」
その声は、夜の杉林のへ静かに消えていった。
昭32。
まだのくのにテレビがなく、映画館へくことさえ簡単ではなかった代。
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に1度やって来る巡回映画は、にとって特別な来事だった。
学の講堂へ集まり、同じい幕を見つめる。
笑うはみんなで笑う。
しい面になれば、暗ので誰かがをすすった。
映画が終わり、灯がつくと、たちは自分のへ帰った。
翌朝になれば、また田畑へる。
のあるなら漁へき、のなら薪を運ぶ。
スクリーンのでどれほどい世界を見ても、活そのものが急に変わるわけではない。
それでも、映画を見た夜だけは誰もがし違う気持ちでについた。
美代もそうだった。
ただし、美代にとって映画は、見るだけのものではなくなっていた。
巡回映画のが来ると、映に弥平のへく。
映画案内を読み、聞いた話を伝える。
その、自分が映画を見られたには、翌また弥平を訪ねた。
「昨言ってた汽ね、から来たよ」
「やっぱりそうか」
「それから、本当に横にんでた」
「吹の面ならそう撮るだろう」
そんな会話を繰り返した。
には弥平の方が、見てもいない面を言い当てることがあった。
美代はそのたびに笑った。
「おじいちゃんの方が見えてるみたい」
「く映画を見すぎたんだ」
弥平はそう答えた。
源蔵も、もう娘のを咎めなかった。
巡回映画のになると、玄関の懐灯に池が入っているか確認するようになった。
では何も言わない。
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