"映画の夜に消える少女" 第5話
ただ昨までにいた母が突然いなくなり、どれだけ待っても戻ってこないことだけは分かった。
それまでよく笑う子だった美代は、ほとんど笑わなくなった。
所のが声をかけても、黙ってを向く。
兄の正夫が遊びに連れしても、すぐへ帰りたがった。
源蔵も、どう接していいのか分からなかった。
自分自も妻を失っていた。
娘を慰めようとすれば、自分まで泣きそうになる。
結局「しっかりしろ」としか言えなかった。
そんな頃、美代が々遊びにっていたのが、弥平のだった。
当の弥平は、すでに力がくなり始めていたものの、まだ物の形は見えていた。
ある、弥平は納から古い映写をした。
埃を払いながら、箱に残っていたいフィルムを1本取りした。
「映画、見たことあるか」
幼い美代は首を横に振った。
「ない」
「じゃあ見せてやろう」
弥平は納のい壁を使った。
部を暗くし、映写を回す。
古い械が、カタカタと音をてた。
やがてい壁に、さな景が現れた。
犬がっていた。
子どもたちがその犬を追いかけ、1が転んだ。
別の子どもが笑いながらを差しす。
面が変わると、汽が煙を吐きながらってきた。
わずかなの映像だった。
話らしい話もなかった。
それでも美代は、い入るように壁を見つめた。
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犬が子どもを振り切る面で、美代の元がしいた。
転んだ子がまたりした。
美代は声をして笑った。
母がくなってから、初めてだった。
弥平は何も言わなかった。
ただ映写の横で、何度も同じいフィルムをかけ直した。
美代が帰宅すると、正夫が驚いた。
「何かあったのか」
「映画見た」
「映画?」
「犬がるの」
美代は振りまでつけて説した。
それが、正夫の記憶にも残っていた。
ただ、その映画を見せたのが弥平だったとはらなかった。
「だから今度は私が見せるの」
17歳になった美代は、兄へそう言った。
「おじいちゃん、今はもう何も見えないから」
「それで毎?」
「うん」
「いつからやってるんだ」
「巡回映画が来るようになってから、ずっと」
正夫はく息を吐いた。
「どうして父ちゃんに言わない」
美代はし困ったように眉をげた。
「別に言うほどのことじゃないとってた」
「お、男と会ってるって噂されてるぞ」
「ってる」
「ってるのか?」
「うん」
正夫は呆れた。
「じゃあ言えばいいじゃないか」
美代は黙った。
しばらくして、さな声で答えた。
「言ったら、いいことしてるみたいになるでしょう」
「実際、悪いことじゃないだろ」
「そうじゃなくて」
美代は映画案内を見つめた。
「私は、おじいちゃんに昔映画を見せてもらったから返してるだけなの。みんなに分かってもらわなくてもいい」
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正夫は妹の横顔を見た。
母がくなった、美代は7歳だった。
自分は10歳だった。
兄だから守らなければとっていた。
けれど、美代がどこで寂しさを紛らわせ、誰に救われていたのか、自分は何もらなかったのだと気づいた。
翌。
正夫はの古老を訪ね、佐久弥平について尋ねた。
「あの弥平じいって、昔何をしてたなんです?」
老は懐かしそうな顔をした。
「お、らんのか」
「はい」
「映画のだよ」
正夫は目を瞬いた。
「映画?」
「戦、町の映画館で映写技師をしとった」
まだ映画を「活写真」と呼ぶ寄りがかった代。
弥平は映写を扱い、町の映画館で毎のようにフィルムを回していたという。
祭りやの事があると、映写を荷へ積み込んで周辺の集落へかけた。
気のない所では発を使い、学や寺の壁にい布を張った。
「今の巡回映画みたいなことを、ずっと昔からやっとったんだ」
古老はそう説した。
「映画を見るために、何里も歩いてくるがおった。弥平はな、そういうに見せるのが好きだったんだよ」
戦、町の映画館が再してからもしばらく働いた。
しかし病気で力が悪化した。
最初はぼんやり見えていたものが、次第に輪郭を失い、ついにはさえほとんど分からなくなった。
映写技師にとって、目を失うことは仕事を失うことでもあった。
弥平は映画館を辞め、れので1暮らすようになった。
正夫はその話を聞きながら、夜の老の言葉をいした。
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