"届かなかった母の手紙" 第9話
それでも笑った。
「べてるよ」
ハルはししたように頷いた。
「そうか」
たったそれだけだった。
けれど芳子には分だった。
ホームをる、ハルが芳子の荷物へを伸ばした。
「持つよ」
「いいよ。いから」
「母ちゃん、まだ持てる」
「私が持つって」
4なら、そんなやり取りは当たりだった。
その何でもない会話が、芳子には懐かしかった。
へ着くと、囲炉裏にはが入っていた。
部の様子はほとんど変わっていない。
柱の傷。
古い箪笥。
茶碗。
全てが昔のままだった。
芳子は箱を持ってきていた。
囲炉裏のそばへ座ると、蓋をけた。
ハルの顔が張った。
「佐々さんからもらった」
「……そうか」
「全部読んだ」
ハルは俯いた。
芳子は最初の葉を取りした。
「よしこへ」
母は顔をげなかった。
「これだけでも送ってくれたらよかったのに」
芳子の声が震えた。
ハルの肩がさくいた。
「ごめんな」
「私、ずっと待ってたんだよ」
「うん」
「みんなにはが来るのに、私だけ来なくて」
「うん」
「病気したも、母ちゃんから何も来なくて」
「ごめんな」
ハルはそれしか言わなかった。
芳子の目から涙がこぼれた。
「私のこと、どうでもいいんだとった」
その言葉に、ハルが初めて顔をげた。
「そんなこと、度もったことない」
声はさかった。
しかしはっきりしていた。
「1もない」
芳子は泣いた。
ハルも泣いた。
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4届かなかった言葉が、囲炉裏のので、ようやく親子のをき来し始めた。
その夜、芳子は箱いっぱいの葉を、母と緒に1枚ずつ読んだ。
最初の頃の文字を見て、ハルは恥ずかしそうに笑った。
「だなあ」
「今だってじゃないよ」
芳子が泣き笑いしながら言うと、ハルもし笑った。
「だからせなかったんだ」
「せばよかったのに」
「京で笑われたらかわいそうだとって」
「誰も笑わないよ」
芳子は葉を胸に抱えた。
「もし笑うがいたって、そんなのどうでもよかった」
ハルは黙った。
芳子は続けた。
「私は母ちゃんの字が欲しかったんだから」
囲炉裏の薪がさく音をてた。
母はそのを見つめながら、い何も言わなかった。
やがて、
「そうだったか」
と呟いた。
それは悔しているようにも、したようにも聞こえた。
芳子は母のを見た。
指は節くれち、細かな傷がいくつも残っている。
そので農作業をした。
には藁を編んだ。
娘へ送るを作った。
そして夜になると鉛を握り、文字を練習した。
芳子が京で「母に忘れられた」と泣いていた夜も、ハルは田で娘の名をいていた。
2の距はかった。
けれどまでれていたわけではなかった。
ただ、それを伝える言葉が届かなかった。
芳子は数、田で過ごした。
母と緒に事をし、所を歩き、昔のことを話した。
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佐々の郵便局へも顔をした。
「ありがとうございました」
芳子がをげると、佐々は照れくさそうにを振った。
「俺は箱を運んだだけだ」
「でも、佐々さんが来てくれなかったら、私ずっと母ちゃんをんでたかもしれない」
佐々はしばらく黙ってから言った。
「お母さんもな、いつ渡せばいいか分からなくなってたんだよ」
葉が増えれば増えるほど、最初の1枚をすのが難しくなった。
今さら何とけばいいのか。
なぜ4黙っていたのか。
説することが増えすぎた。
母もまた、娘に嫌われているのではないかと怖くなっていたという。
芳子はその話を聞いて、胸が痛んだ。
自分だけが傷ついていたのではなかった。
言葉を送れなかった母も、同じのでち止まっていた。
京へ戻る。
芳子はハルへ隆夫の話をした。
「結婚しようとってるがいる」
ハルは驚いた。
「どんなだ」
「同じで働いてる。優しい」
「そうか」
ハルはしばらく俯いていた。
それから、し笑った。
「幸せにしてもらいな」
「違うよ」
芳子は首を振った。
「2で幸せになるの」
ハルは目を細めた。
「そうだな」
その、隆夫も田を訪れ、ハルへ挨拶をした。
芳子は母を「いない」と言うことをやめた。
母から届かなかった4を忘れたわけではない。
けれど箱に残された何枚もの葉が、そののを変えていた。
昭30代。
学を卒業したばかりの女たちが、計を支えるために故郷をれた。
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