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"「母に腎臓をくれ」と泣いた夫――手術直前、私は提供を取り消した" 第16話

夫はし声のトーンを落とし、諭すような優しい声をした。

「俺が悪かった。おにさせていたなら謝る。だからくそのピンクの術着に着替えてこい。母さんが待っているんだ」

夫はそう言いながら、私にづいた。

そして周囲の医師たちからは聞こえないような、うようない声で囁いた。

「いい加減にしろよ。ここで術をドタキャンしたら、親戚におが狂っていると吹聴してやる。母さんの莫な治療費も全部おに払わせるからな。しく着替えろ」

それは確な脅迫だった。

体を何よりも気にする私が親戚から孤することを恐れ、最終には言うことを聞くはずだ。

夫はそう計算し、完全に勝ったつもりで微かに微笑んでいた。

私は夫の顔を真っ直ぐに見つめ返した。

そのら笑いを見た瞬、私のにあった最すら完全にえ切った。

私はく息を吸い込み、静かに、しかし廊の奥まで届く声で言った。

「治療費を払うのはあなたたちです」

「はぁ?」

夫は予の反論に抜けな声をした。

「私は狂っていませんし、妄でもありません。全ての証拠はこの封筒のにあります」

私はい封筒を倫理委員会のスタッフのに差しした。

「お待ちください、佐藤さん」

スタッフは封筒を受け取るに片げて私を止めた。

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「ここは廊です。の方の目もあります。これ以ここで話しうのは適切ではありません」

スタッフの言葉に、担当の医師もく頷いた。

移植においてドナーの同は絶対です。ごでこれほどのトラブルがある状態では、当然ながら術はえません」

「先、待ってください!術は予定通りお願いします!」

夫は血相を変えて医師にすがりついた。

「妻はただ混乱しているだけです。私がし話せば必ず説得しますから。だから術を止しないでください!」

義母も「先助けて!私はにたくない!」と声で泣き叫んだ。

医師は静な目で2を見つめ、静かに首を振った。

「倫理委員会の規定により、ドナーのが完全に確認できるまで術は保留となります。今すぐご族全員で会議へ移してください」

その宣告に夫はギリッと奥歯を噛みしめた。

しかしすぐに彼は表を切り替えた。

「分かりました。会議ですね。そこで妻の誤解を全て解いて見せます」

夫は私の方をちらりと見て微かに角をげた。

彼のではまだ勝算があるのだろう。

になればいくらでも私を脅し丸め込むことができる。

証拠と言ってもどうせしたものじゃない。

れば私が泣いて謝り、術着に着替えるはずだ。

夫のその浅はかな考えがに取るように分かった。

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「由美さん、あなたもよろしいですか?」

スタッフに声をかけられ、私は静かに頷いた。

「はい。私も全てをはっきりとさせたいとっていましたから」

私は黒いバッグを抱え直し、毅然とした態度で答えた。

泣き叫ぶこともなく、取り乱すこともない私の姿に、医師たちはし驚いたような表を見せた。

「では3階の族会議へ向かいましょう」

医師が先導し、私たちはエレベーターへと歩きした。

夫が私の隣に並び、「で吠え面かかせてやるからな」とさな声で毒づいた。

私はその言葉を完全に無し、だけを見て歩いた。

エレベーターを待ちながら、私は1つだけ医師にお願いをした。

「先、会議に入るにもう1呼んできてもよろしいでしょうか?」

私のその言葉に、夫の肩がビクッとねた。

「もう1?誰のことだ?親族は俺と恵子だけだぞ」

夫が焦った声でを挟んできた。

私はゆっくりと振り返り、夫の目を真っ直ぐに見つめた。

「そこの角の自販売に隠れている方がいますよね」

私は静かに廊の奥を指差した。

「ピンクのカーディガンを着た美穂さん。彼女にも会議に来ていただきましょう。あなたの『本当の族』なのですから」

その瞬、夫の顔から全ての表が抜け落ちた。

彼の額からじわりとたい汗が吹きすのが見えた。

子の義母も目を見いて直している。

私がその名っているはずがない。

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