"68歳の誕生日、残高は0円だった" 第1話
そのの朝、千代子はしだけ浮かれていた。
今は彼女の歳の誕であった。
特別な予定は何も入っていない。
いつもと変わらない、の静かな曜だった。
しかし、彼女の胸のには、いをかけて育ててきたさな期待が静かに膨らんでいた。
千代子は台所にち、朝ご飯の片付けを済ませた。
彼女は使い慣れたエプロンを丁寧に畳み、子の背もたれに掛けた。
千代子は器棚のにある引きしをけ、から冊のい帳を取りした。
表の角がすでに擦り切れ、所々にいシワがついている古い帳だった。
その帳をくと、毎の積みて額と残が几帳面な字で記録されていた。
分のみが、そこに記録されている。
スーパーの品し係として、朝からち働いたがここに数字として刻まれていた。
千代子は帳をそっと胸に当て、目を閉じた。
夫の総は、朝から斎にこもっていた。
彼がの支を退職してからが経つ。
しかし、彼は相変わらず元支という肩きを放せずにいた。
会にかけ、ゴルフにき、輩へ説教をする。
それが彼の退職の常であった。
千代子は斎のドアを見つめた。
彼女は夫に声をかけることもなく、のコートを羽織って玄関をた。
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にると、のはひんやりと乾いていた。
目であるATMは、徒歩で分ほどの所にある信用庫の支に設置されている。
いつもならバスを使う距だが、今は歩いてこうとった。
千代子はし回りをしながら、ゆっくりとした取りで歩をめた。
沿いのイチョウ並が、まだ緑から黄への途だった。
千代子は歩きながら、この先の活をのでい描いた。
が入れば、まず番に欲しかったものを買おうと決めていた。
決して価なものではない。
腰に当てる、気式のマッサージパッドだ。
姑のの介護を始めてから、体の節々が痛むようになっていた。
千代子は痛む腰にそっとを当てた。
もちろん、総にはそんな体の調は言えない。
言えば必ず、おの自己管理が悪いからだというたい言葉が返ってくる。
だから千代子は何もから、自分のおが入ったら自分で買おうと決めていた。
ただそれだけを楽しみに、たい倉庫で働き続けてきたのだ。
やがて、信用庫の支が見えてきた。
千代子は自ドアを抜け、ATMコーナーへ向かった。
平の昼ということもあり、に客は誰もいなかった。
千代子は財布からキャッシュカードを取りし、械のスロットに差し込んだ。
械がカードを吸い込むさな音が鳴った。
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千代子は画面の指示に従い、暗証番号を入力する。
桁の数字は、結婚したの桁と総の誕だった。
から、ずっと変えていない番号だ。
千代子は残照会のボタンをゆっくりと押した。
画面が切り替わるまでの数秒、彼女はうっすらと笑みを浮かべていた。
そして次の瞬、彼女の体からすっと血の気が引いた。
千代子は息を呑み、画面を凝した。
画面に表示された数字は、0だった。
残、0円。
千代子はもう度目を細めて、い入るように画面を見た。
見違いかとった。
老がんでいるから、数字の桁を読み違えたのかもしれないとった。
しかし、何度見直しても数字は変わらなかった。
コンマもなく、の桁の数字もなく、ただ丸くきなゼロがつだけだった。
い画面のに、そのゼロが気に浮かんでいた。
千代子のから力が抜け、キャッシュカードが落ちそうになった。
彼女はカードを握り直し、震えるでもう度操作をやり直した。
カードを抜き、もう度入れ直して、暗証番号を打ち直す。
祈るような気持ちで、再び残照会のボタンを押した。
でも結果は同じだった。
画面は無質に、同じゼロを表示するだけだった。
彼女はしばらくの、ATMのにち尽くした。
周囲の音が、すうっとのいていくような覚があった。
からのる音が聞こえていたが、それがとてもくのことのようにじられた。
千代子は窓にくことをいつき、いを引きずってフロアへ移した。
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