"9年間消えた娘と「お姫様の部屋」" 第14話
その気の悪いが、奥へと続く気なを照らししていた。
ドアがいた瞬、すぐに烈な異臭が全員のをついた。
古いカビの匂い、錆びた属の匂い。
そして何より、完全に閉鎖された空にこもった、々しいの活臭である。
「なんてことだ……」
ろにいた警官が、耐えきれずにく呟いた。
通は本当に狭く、がようやく通れる程度の幅しかなかった。
両側の壁には、分い防音材が隙なくびっしりと貼り付けられている。
森田を先に、は息を殺して20メートルほど奥へとんでいった。
通の突き当たりには、別のドアがち塞がっていた。
そのドアは全体が毒々しいピンクに塗られており、表面には子供向けのお姫様のシールが無数に貼られている。
森田がみて、ドアノブを回すが、内側から頑丈な鍵がかけられていた。
彼は拳を握り、ドアを力くノックした。
「警察だ! ドアをけなさい!」
森田のきな声が響く。
しかし、からは何の返事もない。完全な沈黙だ。
分い防音材のせいで、の音はに全く漏れてこないようだった。
森田が苛ち、再びくノックしようと拳を振りげただった。
カチャリ、と内側から鍵がく乾いた音がした。
ドアがゆっくりと数センチだけき、隙からるい女の声が響いた。
広告
「パパ、お帰りなさい。今はいのね」
その声に、エリコは臓が止まるかとった。
ドアがきくかれ、からの女が姿を現した。
彼女は、の女性が着るような透けたピンクのネグリジェを着せられている。
く伸びた黒髪は度も入れされていないのか、ボサボサに絡まりっていた。
女は笑顔を浮かべていたが、森田とその背につ見らぬ警官たちを見た瞬、その笑顔は完全に凍りついた。
「キャアアアアアッ!」
甲く、怯えきった鳴が、女の喉から引き裂かれるように響き渡る。
彼女は両で顔を覆い、部の奥へと激しくずさりした。
「来ないで! だ!」
女は壁に背を打ち付けながら叫んだ。
「パパが、の世界はみんなんだって言ったもん!」
エリコはたまらず、警官たちを乱暴に押しのけて部の入りへとみた。
目のにいる女を見つめる。
9というあまりにもい歳が流れ、彼女は5歳の子供から14歳の女へと完全に姿を変えていた。
しかし、腹を痛めて産んだ母親には、瞬で分かった。
「ユイナ……」
エリコは滝のように涙を流しながら、部のへと駆け寄った。
「ゆいちゃん、ママよ! 私よ!」
しかし、ユイナは壁に背を押し当てたまま、激しく首を横に振った。
「違う! ママはんだ! みんなんだの!」
彼女は錯乱したように叫び続ける。
広告
「パパが、世界は終わって、き残ったのは私たちだけだって言ったの!」
エリコはに膝をつき、両をきく広げた。
「違うの、ゆいちゃん! それは嘘よ!」
エリコは必に言葉を紡ぐ。
「ママはずっと、あなたを探していたの。こんな所にいるなんて、本当にらなかったのよ」
ユイナはを塞ぎ、目をきつく閉じて絶叫した。
「パパ! パパ助けて! どこにいるの!」
森田警部補は背の部たちをで制止し、母と娘のに分な空を与えた。
彼は内ポケットから黒いボールペンを取りし、無言でエリコへと渡した。
エリコはその図を即座に理解した。
彼女はペンのキャップをし、自分のの甲に素く絵を描き始めた。
それは、きな羽を持ち、にっこりと笑うらしい蝶々の絵だ。
ユイナがまだ幼かった頃、お呂の曇った鏡にいつも描いてあげていた絵である。
「あの絵だわ」
エリコはペンを置き、の甲をユイナの目のへと優しく差しした。
「覚えてる?」
エリコは、昔お呂で話しかけていたのと同じ、優しい声で語りかけた。
「あなたはこれを、『ハッピー蝶々』って呼んでいたわね」
ユイナの焦点のわなかった目が、ゆっくりとの甲の絵に釘付けになった。
過呼吸のように荒かった彼女の呼吸が、嘘のようにしずつ落ち着いていく。
いの隙から、筋の太陽のが差し込むように。
ゆっくりと、しかし確実に、彼女の脳裏に閉ざされていた記憶が蘇えっていく。
広告
おすすめ作品
-
完結第8話
サービスエリアで消えた三人
大型サービスエリアで、36歳の母親と9歳の息子、6歳の娘が突然姿を消した。残された夫・修一はテレビに出演し続け、「妻と子供たちを見かけた人は連絡してください」と14年間訴え続けた。世間は彼を、家族の帰りを信じて待つ父親として記憶していた。ところが事件から14年後、100キロ近く離れた古い貸倉庫の床下から黒い旅行鞄が発見される。中に入っていたのは、失踪した妻の財布と、息子が旅行当日に履いていた片方のスニーカー。そして、その倉庫の過去を調べると、夫がかつて関係を持っていた女性の名前が浮かび上がる。14年間誰も疑わなかった「3人はサービスエリアで消えた」という前提が、そこから静かに崩れ始める。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.1萬字5 1 -
完結第13話
変な家
住宅情報サイトの編集者・森川直人のもとに、ある中古住宅の間取り図が届いた。埼玉県にある築28年の4LDK。一見ごく普通の家だが、洗面室と書斎の間には、どこからも入れない幅1メートルほどの「空白」がある。さらに、家族の生活動線から切り離された第二玄関、外からしか入れない物置、道路から見えない窓。現地を訪れた森川は、誰かを閉じ込めるための家ではないかと疑う。だが調査を進めると、別々の県に建つ2軒の家にも、まったく同じ奇妙な構造が見つかった。なぜ3人の男は、同じ「空白」を家の中に作ったのか。そして物置の奥から現れた金属扉の先には、28年間隠されてきたものが残されていた。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.9萬字5 3 -
完結第11話
1億8400万円の夜逃げ
2016年、8000万円の借金を抱えていた28歳の高橋健人は、ロト1等・1億8400万円を受け取った直後、忽然と姿を消した。 部屋からはパスポートと衣類の一部がなくなり、本人名義でフィリピンへ出国した記録も残っていた。警察も家族も、彼は借金から逃れるため海外へ消えたのだと考えた。 しかし9年後、麻布の再開発工事中、かつて健人が暮らしていたアパートの地下から、コンクリートに埋められた旅行鞄が見つかる。 中にあったのは、ひとりの男性の骨と、黒縁眼鏡。 さらに、当時見過ごされていたノートパソコンから、不審な検索履歴が浮かび上がる。 本当にロト1等に当たったのは誰だったのか。 そして、9年前に海外へ消えたはずの男は、何を隠していたのか。 1枚の宝くじが、親友同士の運命を大きく狂わせていく――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 99 -
完結第13話
7年目に開いた薬袋
昭和48年、広島県北部の小さな町で、誰からも慕われていた薬剤師・中村幸子が突然姿を消した。 彼女は「銀行へ行く」と言って薬局を出たまま戻らなかった。手には200万円の入った黒い鞄。けれど銀行には行っておらず、町の誰もその後の姿を見ていなかった。 真面目で優しく、患者一人ひとりに寄り添ってきた幸子。夫の哲夫は涙ながらに妻の帰りを待ち、町の人々も彼女の無事を信じ続けた。 しかし7年後、ある高齢女性の家から見つかった大量の薬が、止まっていた事件を再び動かす。 信頼されていた医師。閉ざされたままの薬局。消えた200万円。 幸子はなぜ、あの日すべてを終わらせようとしていたのか。 町の誰も疑わなかった“優しい人たち”の裏側に、7年間隠され続けた真実が眠っていた――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 222 -
完結第14話
消えたアナウンサー
6年前、人気キャスターの水野紗季は突然姿を消した。残された車、動かない銀行口座、使われていないパスポート。そして失踪当時、彼女は妊娠32週だった。時が流れたある夜、同僚の高橋真紀のもとに海外から1枚の写真が届く。欧州の人体標本展に展示されていたのは、30代前半、妊娠32週と記された女性の標本。さらに写真の隅には〈MA-214〉という謎の管理番号が写っていた。偶然にしては一致しすぎている。真紀が標本の出所を追い始めると、6年前に紗季が調べていた別の妊婦失踪事件、病院、献体記録、そして消された取材素材が次々につながり始める。ガラスケースの中の女性は、本当に水野紗季なのか――。ミステリー|行方不明|不倫2.1萬字5 8 -
完結第10話
15年後に消えた罪
1984年、東京・世田谷の古い木造住宅で起きた火災。 亡くなったのは、72歳の老人・近藤商司だけではなかった。 焼け跡から見つかったもう一人の女性の遺体は、なぜか新聞紙に包まれ、灯油の痕跡まで残されていた。 当初、事件は老人と介護士の間で起きた悲劇として処理された。 しかし15年後、古い書類に残された一つの署名と、焼け跡に残された小さな証拠が、隠され続けた真実を再び動かし始める。 消えた500万円。 偽造された署名。 そして、誰も疑わなかった親族の存在。 長い年月を経て明らかになった、静かな住宅街の奥に隠された衝撃の真相とは――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 212 -
完結第11話
地下室に消えた名前
旧精神療養所の解体前調査で発見された、図面には存在しない地下室。 そこには、番号だけを付けられた6人分の遺骨と、半世紀前に消された人々の記録が残されていた。 かつて「自死」と処理された女性たちは、本当に自ら命を絶ったのか。 調査を進める刑事たちは、古いカルテ、残された手紙、そして元医師の告白から、病院の地下に隠されていたもう一つの歴史へたどり着く。 しかし、そこにあったのは単なる事件の真相ではなかった。 名前を奪われ、声を失った人々と、長年沈黙を守り続けた社会の記憶だった――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 164 -
完結第13話
嘘葬りの豆腐店
1991年、茨城の古い商店街で、豆腐屋の嫁・美香が突然姿を消した。 姑と夫が語ったのは、「男を作って夜逃げした」という話。幼い息子を置いて消えた母親として、美香の名は商店街で長く汚され続けた。 しかし6年後、借金による強制執行で高橋豆腐店が取り壊されることになる。誰も近づこうとしなかった裏手のボイラー室。そのコンクリートを掘り返した時、そこから現れたのは、色褪せたスカーフと小さな金の指輪だった。 男と逃げたはずの嫁は、なぜ自宅の床下にいたのか。 そして家族は、6年間何を隠し続けていたのか。 雨の夜に消えた母の名誉を取り戻すため、古い商店街の沈黙が少しずつ崩れ始める。ミステリー|行方不明1.9萬字5 40 -
完結第13話
消えた退院前夜
1991年5月、静岡県の総合病院で、退院を3日後に控えた43歳の女性・田中道子が忽然と姿を消した。 手術は無事に終わり、回復も順調。財布も保険証も病室に残されたまま、彼女だけが夜の病院から消えていた。 最後に確認されたのは、消灯時間の午後9時。翌朝、看護師がカーテンを開けた時、そこに道子の姿はなかった。 自ら出て行ったのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、病院の中で何かが起きていたのか。 家族は必死に行方を探し続けるが、手がかりは見つからないまま季節だけが過ぎていく。 そして8か月後、病院の監査で見つかった小さな異変が、すべてを変える。 消えた投薬記録。数の合わない睡眠導入剤。修正されたカルテ。 信じていた病院の奥で、道子に何が起きていたのか――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 60 -
完結第13話
長野中部山岳紅葉山カップル失踪事件
2019 年 10 月、韓国束草・雪岳山で忽然と姿を消した 20 代の恋人カップル。 山の監視カメラに最後の後ろ姿を残し、それきり跡形もなく消えてしまった二人。 大規模な山間捜索を何度も行ったものの、衣類の切れ端一つ見つからず、3 年間も謎のまま放置されていたこの失踪事件。 3 年後、排水溝の底から発見された一台の携帯電話。 本体に復元された記録の中に、たった 9 秒(原文 6 秒調整可)の謎の通話履歴が残っていたのです。 撮影した第三者の姿は監視カメラにも目撃談にも一切残らず、臨時インターネット電話番号からかかってきた不可解な電話。 通話直後、二人のスマホが同時に電源オフになる不可解な記録。 リュックの隠しポケットから出てきた手描き地図と謎のメモ「ここへ行けばある。17 時 25 分より前に渡るな」。 警察が調べても特定できない撮影者、地図に載っていない危険な山道、時系列が繋がる不自然な証拠たち… 長野(原文韓国束草に統一)の山に隠された、誰も想像できない真相とは? 年配の方も分かりやすく時系列順に整理した事件全貌、今すぐ全文を読んでみてください。真相|遺體発見|行方不明2.0萬字5 38