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"午前5時30分の配車係" 第10話

「これ」

「俺だね」

由紀子は頷いた。

修平はを受け取らなかった。

「由紀子が持ってて」

そう言った。

「また来るから」

由紀子はが分かったのか分からなかった。

ただを自分の胸元へ引き寄せた。

修平はその、妻をへ連れて帰らなかった。

帰りたい気持ちはあった。

ずっと待っていた。

玄関をければ、

由紀子のスリッパもまだ残っている。

昔使っていた器もある。

それでも、今の由紀子にとってそこが本当に「帰る所」なのかは分からなかった。

へ戻すことが、

の妻を取り戻すことにはならない。

医師も、環境を急に変えるべきではないと言った。

修平はその言葉を受け入れた。

由紀子は、

「失踪した妻」

ではない。

きただった。

自分がらない

らない習慣。

らない友

らない傷。

それを全部消して、

昔の妻に戻ってほしいとは言えなかった。

その、修平は週に度面会へった。

最初の頃、由紀子は毎回、

「誰?」

という顔をした。

を言うと、

「ああ」

と頷く。

別のには、修平が入った瞬に、

「しゅうへい」

と言った。

それだけで分だった。

ある、修平が帰ろうとすると、

由紀子が袖をつかんだ。

「帰る?」

修平はち止まった。

「俺が?」

由紀子は首を振った。

自分の胸を指した。

「私」

修平はしばらく答えられなかった。

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昔なら、

「帰ろう」

と言っただろう。

、その言葉を待っていた。

でも今は違った。

「帰る所、緒に決めよう」

由紀子は分かったのか分からなかった。

それでも、

緒」

と繰り返した。

修平は頷いた。

「うん。緒に決めよう」

 

由紀子はその、横浜にいリハビリ施設へ移った。

修平のから分ほど。

言語訓練と作の支援を受けられる所だった。

青葉ホームとは違い、

入所続きには正式な類が必だった。

民票。

保険証。

緊急連絡先。

族関係。

ぶりに、つずつ由紀子の報が類へ戻された。

受付の職員が確認する。

「お名は、瀬由紀子さん」

由紀子は子に座り、窓のを見ていた。

「昭まれ」

「緊急連絡先は、ご主瀬修平さんでよろしいですか」

修平は、

「はい」

と答えた。

それだけの続きなのに、

ひどくがかかったようにじた。

青葉ホームで

彼女はただ、

【ユキ】

だった。

名字もない。

もない。

族もいない。

誰かが本気で探せば、つながるはずの報を切りされていた。

しい施設の職員がカードを印刷した。

いカード。

黒い文字。

瀬由紀子】

修平は、その文字をく見た。

由紀子の状態は、しずつ改善した。

ではなかった。

昔の記憶がすべて戻ることもない。

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によって会話が続くと、続かないがある。

修平を夫として認識できるもあれば、

っている

くらいにしかえないもあった。

修平は、それを訂正しなくなった。

「俺は夫だよ」

と何度も言ってさせることもやめた。

由紀子が、

「修平」

と言えば返事をする。

分からない顔をしていれば、

「こんにちは」

から始める。

ある

修平がリンゴを持って面会へくと、

由紀子が言った。

「皮、い」

昔と同じ言い方だった。

修平は笑った。

「俺、昔からだったな」

由紀子も笑った。

その会話が結婚活の記憶からたものなのか。

ただ目ののリンゴを見て言っただけなのか。

もう確かめなかった。

どちらでもよかった。

の会社は、捜査が始まってもなく取引先を失った。

庭が運営していた青葉ホームも閉鎖された。

入居者たちは、元を確認したで別の施設へ移された。

庭については、由紀子の事故期にわたる元隠しに関して捜査と司法続きが続いた。

修平は裁判を毎回見にくことはしなかった。

が何の刑を受けるかで、

が戻るわけではない。

由紀子の言葉が元通りになるわけでもない。

ただ度だけ、

からが届いた。

封筒には、

瀬修平様】

かれていた。

修平は封しなかった。

施設へ向かう途の郵便局で、

受取拒否として返した。

謝罪を受け取るかどうかも、

自分で決めていい。

その選択さえ奪われた。

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