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完結第5話
消えた一人分の席
親族の食事会に招かれたはずの北川理香子は、テーブルに並ぶ豪華な料理を前に、静かに気づいた。 十人分の席。十人分の料理。十人分の取り皿。 けれど、自分の分だけがなかった。 「お母さんの分、数え間違えちゃって」 嫁・由香はそう笑ったが、それが偶然ではないことを理香子は悟る。介護士として三十三年間働き、息子を大学まで出し、結婚資金も住宅資金も援助してきた。さらに毎月十五万円を送り続けてきたにもかかわらず、食卓で彼女を待っていたのは、冷めた残り物と「お荷物はいりません」という言葉だった。 その場で怒鳴ることも、泣き崩れることもしなかった理香子は、夫とともに静かに席を立つ。 しかし、嫁も息子もまだ知らなかった。 今住んでいる家の土地が誰の名義なのか。毎月の生活を支えていたお金がどこから来ていたのか。そして、理香子がすでに弁護士と準備を進めていたことを。 その夜、家族を見下した嫁の前に、一枚の登記簿が差し出される。 食事会で外された母が、静かに取り戻したものとは――。因果応報|親不孝|絶縁7.7千字5 741 -
完結第7話
還暦の朝、家を売った母
還暦祝いの席で、北川明子は息子夫婦から突然告げられる。 「プレゼントを持って出て行け」 夫を早くに亡くし、28年間働き続けて一人息子を育て上げた明子。息子家族のために実家を売り、二世帯住宅の頭金まで出したはずだった。 けれど、嫁は明子を邪魔者扱いし、息子まで土地の名義変更と財産放棄を迫ってくる。 孫にまで「ばあば、バイバイ」と言われた瞬間、明子の中で何かが静かに切れた。 翌朝、息子夫婦が目を覚ました時、家には不動産業者と買い主が来ていた。 土地の名義は、まだ明子のものだった。 売却額は一億円。 泣きながら土下座する息子夫婦を前に、明子は最後の書類に実印を押す。 家を失った息子夫婦と、海辺の街で新しい人生を始めた母。 還暦の日に捨てられた女性が、自分の人生を取り戻すまでの静かな逆転劇。真実|絶縁|親子関係1.0万字5 126 -
完結第9話
老人ホームの話を聞いた夜
深夜2時、72歳の鈴木正雄は、偶然リビングから聞こえてきた家族の會話に足を止めた。 「じいじ、いつ追い出すの?」 孫の部屋を作るため、息子夫婦は正雄を老人ホームへ入れる計畫を立てていた。自分が建て、守ってきた家で、いつの間にか“邪魔者”になっていたのだ。 その夜、正雄はタンスの奧から一枚の書類を取り出す。 翌朝、彼は何も言わず家を出た。 數日後、旅行から戻った息子夫婦を待っていたのは、もう開かない玄関と、見知らぬ住人だった――。祖父母と孫|親不孝|孤獨|絶縁1.3万字5 986