"嫌われた娘の五十八億円" 第4話
桐弁護士は、あのアタッシュケースのから、赤茶の染みがこびりついた古い学ノートを両で持ちげた。
「このノートには、昭――あなたが歳の誕を迎えたあの、を襲った“本当の悪”から、先病で息を引き取る直まで、源蔵様が誰にも言えずにたったで背負い続けた『獄の戦い』が記録されています」
桐はノートを真の膝のにそっと置いた。
「なぜあなたに学歴を与えなかったのか。なぜ学の図面を引き裂いたのか。なぜ結婚式に席しなかったのか……。すべては、ある巨な社会の怪物から、あなたを守り抜くための、血を吐くような盾だったのです」
真の指先が激しく震えた。
ノートの表に触れる。幾にも黒いビニールテープで補修された背表。父が仕事で使っていた械油の匂いが、かすかに腔をくすぐった。
表には、父のあの無骨で角張った文字で、こう記されていた。
『が娘・真を獄の業から守るための、欺瞞と偽装の記録――源蔵』
「真様。今夜、ご自宅でこの記をすべてお読みになってください」
桐弁護士はくをげた。
「そして、父がどれほどの苦痛に耐え、どれほどのをもってあなたを守り抜いたか、その真実を受け止めてあげてください。
広告
朝、私は精の本社役員会へ乗り込みます。修様と慎様は狂乱するでしょう。その修羅を乗り越えるためにも、あなた自が真実をり、くならねばならないのです」
をりた真は、ノートと封を胸にく抱きしめ、りしきるたいのを駆けがって部へと戻った。
静まり返った部で、真は震えるでノートの最初の頁をいた。
――昭。
真がちょうど歳の誕を迎えた、あの劇の記憶から、父の告は始まっていた。
真は部のかりを読灯だけにし、え切った畳のに正座した。
膝のに広げた学ノートの面からは、古びたの匂いとともに、父が染み込ませてきた械油とタバコの煙の匂いがかすかにちってくる。
黄ばんだ藁半の最初の頁。そこに刻まれていたのは、万のペン先がを削り破るほどのい圧でかれた、父・源蔵の告だった。
『昭()
今、真が歳になった。
夕方に仕事をめに切りげ、森駅ので苺がたっぷり乗った丸いショートケーキを受け取った。蒲田の靴で密かに取り置きしてもらっていた、真がずっと欲しがっていた赤いリボンのついたエナメル靴を袋に隠し、俺は胸を鳴らせながらの引き戸をけた。
広告
「お父さん、今ね、学で図の表彰をされたよ」
そう言って笑うあいつの顔を見るためだけに、この半、眠休で旋盤を回してきたのだ。
だが、の事務所に入った瞬、俺の世界は音をてて崩壊した。
事務所の応接ソファに靴のままを乗せて座っていたのは、広域指定暴力団・嶺会の直参団体である『黒崎興業』の幹部・黒崎と、その息のかかった融『帝都殖産』の取りてどもだった。
先代の代から続いていた取引先『帝都』の倒産は、黒崎たちが形を乱発して資産を吸い尽くした計画倒産だった。
うちのに回された連鎖倒産の焦げ付き形は、億千万円。
従業員の町にとって、即座の刑宣告に等しい額だ。
黒崎はら笑いを浮かべ、俺の目のに改造された拳銃の銃とシリンダーの部品を放りした。
「さんよ。おのところのNC旋盤加の精度、防庁の規格品並みだって評判だぜ。今からこのを、から密輸した拳銃の改造と、違法器のシリアルナンバー消の秘密拠点にしてもらう。億千万円の借はチャラにしてやるし、毎百万円の遣いも弾んでやる。断れば――おの全員をドラム缶に詰めて、京湾の底に沈めるだけだ」
俺の目のが真っ暗になり、膝が震えた。
警察へ駆け込もうと喉元までかかったその、事務所の裏がいた。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
家賃55万の置き土産
夫の家族と13年間暮らしてきたまゆ子は、ある日突然、義母から告げられる。 「里帰り出産で長男夫婦が来るから、あなたは明日までに出ていって」 家族のために尽くしてきたはずだった。血のつながらない息子にも、義母にも、夫にも、ずっと気を遣ってきた。けれど義母にとって、まゆ子はもう“用済み”の存在でしかなかった。 しかも夫は出張と偽り、別の女性と会っている疑いまで浮かび上がる。 翌日、まゆ子は言われた通り家を出ることにした。 ただし、何もかも置いていくつもりはなかった。 月55万円の家賃を払っていたのは誰なのか。リビングを埋める家具家電を買ったのは誰なのか。 まゆ子が引っ越し業者に告げた一言で、義母たちの“幸せな同居計画”は静かに崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.8萬字5 335 -
完結第11話
捨てた料理の代償
義母・美智子と同居しながら、穏やかに暮らしていた奈々子。 ところが、お盆になると義妹の杏奈夫婦が突然帰省してくる。連絡もなく家へ上がり込み、食事を当然のように食べ、手伝いもせず、さらには義母へ金まで借りようとする二人。注意されるたび、杏奈は奈々子を「他人」扱いし、実家を乗っ取った嫁のように責め続けていた。 そして迎えたお盆の夕食。 食卓に並んだ料理を見た杏奈は、皆の前で言い放つ。 「他人が作った食事なんて、汚くて食べられない」 さらに翔太まで調子に乗り、料理を捨てようとする。 しかし、その料理には杏奈夫婦が知らない“ある秘密”があった。 閉じられていた和室の襖が開いた瞬間、杏奈の顔色は一変する。 翌朝、この家を出ていくことになったのは、「他人」と呼ばれた奈々子ではなかった――。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 2648 -
完結第14話
新郎が消えた結婚式
親に捨てられた私を育ててくれたのは、血のつながらない兄・航太だった。 両親が借金を残して消えた日、大学生だった兄は「俺が何とかする」と言い、働きながら私を支えてくれた。高校を中退した私を責めることもなく、ずっと本当の家族として守ってくれた。 そんな兄が、ようやく結婚することになった。 私は心から祝福するつもりで式場へ向かった。けれど式の直前、エリートの兄嫁は私に笑顔で言い放つ。 「毒親の連れ子なんでしょ?中卒のクズは参列しないで」 兄の幸せを壊したくなくて、私は黙って帰ろうとした。 しかし、その言葉を兄は聞いていた。 「分かった」 そう言った兄が次に選んだ行動で、華やかな結婚式場から人が次々と消えていく――。 血のつながりではなく、苦しい時に誰が隣にいてくれたのか。本当の家族の意味を描く、涙と因果応報の物語。兄弟姉妹|第二の人生2.1萬字5 939 -
完結第13話
消えた託児代7万円
2001年、東京の外れにある義実家で暮らす保育士のゆいは、夫の妹・安奈から何度も娘の子守りを押しつけられていた。 「保育士でしょ?」 「家族なんだから」 「今日だけお願い」 そう言われるたび、ゆいは仕事帰りに1歳のクレアを風呂に入れ、寝かしつけ、夜泣きにも起きてきた。けれど夫も義母も、それを“当然の手伝い”としか見ていなかった。 ある朝5時半、安奈は39度の熱を出したクレアを抱えて現れる。 「娘の子守りよろしく」 仕事を理由に断ろうとするゆいへ、夫は笑って言った。 「保育士なんだから慣れてるだろ。ケチくさいこと言うなよ」 その一言で、ゆいの中で何かが切れた。 なぜ安奈は、そこまで頻繁に娘を預けていたのか。 なぜ“仕事”と言って家を空ける日が増えていたのか。 そして、クレアの父親だけが知らなかった事実とは――。 便利な保育士として扱われ続けた嫁が、初めて「無理です」と告げた日、義家族の隠された嘘が静かに崩れ始める。兄弟姉妹|夫婦1.9萬字5 841 -
完結第14話
35万円の空冷蔵庫
大晦日、妻の弓が35万円かけて用意した正月料理が、冷蔵庫から一つ残らず消えていた。 持ち去ったのは、夫・健一の母と弟。松阪牛、タラバガニ、有名料亭のおせちまで奪いながら、彼らは笑ってこう言い残す。 「明日はカップ麺でも食べてなさい」 20年間、“長男の嫁”として姑に尽くし続けてきた弓。いつか本当の家族として認めてもらえると信じ、理不尽な仕打ちにも耐えてきた。 しかし、その夜、健一は知ってしまう。食材を奪っただけでは終わらない、母と弟が5年前から隠し続けていた金の秘密を。 元日の新年会。食卓に並んだのは、豪華な料理ではなく一箱のうどんだけ。 だが、襖の向こうには親戚たちが集まり、20年間隠されてきた佐藤家の本性を静かに聞いていた――。兄弟姉妹|夫婦2.1萬字5 2564 -
完結第12話
欠陥品と呼ばれた歌姫
13年前、妹・恵は一枚の置き手紙を残し、夫と幼い娘を捨てて姿を消した。 「愛良はいらない。子どもを産めないお姉ちゃんにでもあげれば?」 傷ついた姪を放っておけず、桃江は妹の元夫・高也とともに、愛良を育てる道を選ぶ。血のつながりではなく、毎日の朝食と小さな約束を積み重ねながら、三人は本当の家族になっていった。 それから13年後。 美容室で桃江は、突然失踪したはずの妹と再会する。昔と変わらず、桃江を見下し、愛良を侮辱する恵。 だが直後、桃江を迎えに来た夫と、制服姿の少女を見た瞬間、妹の顔色が変わる。 彼女が捨てたものは、もう二度と取り戻せない場所にあった――。兄弟姉妹|修羅場1.8萬字5 1024 -
完結第11話
断髪新郎の逆転婚礼
抗がん剤治療で髪を失った彩佳は、唯一の家族である兄・健太の結婚式に出席することになった。 両親を亡くしてから、兄妹2人で支え合って生きてきた彩佳。兄の幸せを心から願い、母の形見のスカーフを巻いて式場へ向かう。 しかし、兄嫁の母・礼子は、そんな彩佳を見た瞬間、冷たい言葉を投げつけた。 「その頭で親戚席に座る気なの?」 病気の妹は縁起が悪い。式に出るな。兄との縁も切れ――。 追い詰められた彩佳の前に現れた健太は、笑顔のまま静かに言い放つ。 「では、新郎ごと帰りますか?」 その一言で礼子の顔色は変わった。 だが本当の反撃は、披露宴で用意されていた“新郎新婦、最初の共同作業”から始まる。兄弟姉妹|修羅場1.7萬字5 7728 -
完結第10話
夕焼けの後継者
差し押さえ寸前の修理店を守るため、26歳の佐々木満は、財閥会長の豪邸にある小劇場の照明修理を引き受ける。 母を知らず、亡き父が残した工具と古いノートだけを頼りに生きてきた満。だが、屋敷の照明設備は、なぜか父のノートに記された特殊な配線と完全に一致していた。 さらに修理を終えた満は、廊下に飾られた古い写真の中に、若き日の父の姿を見つける。 「あれ……これ、僕のお父さんの写真だ」 その一言で、財閥会長夫妻の表情は一変する。30年前に消えた息子、隠された事故、偽られた死、そして満の出生に関わる秘密。 やがて一通の鑑定書が開かれた時、豪邸に閉じ込められていた長い嘘が崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.5萬字5 1043 -
完結第17話
母の墓に立つ母
10歳の少年・ハルトは、3年間、亡き母の墓に通い続けていた。 しかし、イギリスへの養子縁組が決まったある日、最後の別れを告げるために訪れた墓前で、彼は見知らぬ女性と出会う。 その女性は、母と同じ顔をしていた。 「……お母さん?」 震える声で呼びかけた瞬間、女性の顔色が変わる。彼女もまた、ハルトの顔に信じられないものを見ていた。 なぜ、亡くなったはずの母と同じ顔の女性が墓の前にいたのか。 なぜハルトは、突然海外へ送られようとしているのか。 そして、彼の出生に隠された真実とは何なのか。 10年前に引き裂かれた恋、双子の姉妹、山奥で守られ続けた小さな命。 すべての秘密が動き出した時、少年は初めて、自分を守るために誰が何を犠牲にしてきたのかを知ることになる。人生逆転|兄弟姉妹|親子関係2.6萬字5 559 -
完結第10話
祝儀袋と消えた花嫁
両親を亡くして以来、京子は幼い弟・優也を母親代わりに育ててきた。 朝食を作り、学校へ送り出し、進学も就職も見守ってきた弟が、ついに結婚する。姉として、母のような気持ちで式場へ向かった京子だったが、そこで待っていたのは思いもよらない言葉だった。 「ブスなババアは祝儀だけ置いて帰れ」 そう言い放ったのは、これから弟の妻になるはずの花嫁。しかも彼女は、京子が新郎の姉だとは知らなかった。 大切な弟の晴れの日を壊したくない。そう思って耐えようとした京子の前に、ひとりの伯母が現れる。 その手に握られていたスマートフォンには、花嫁の本性を映した“ある証拠”が残されていた。 やがて親族と友人たちは、式場で起きた真実を知ることになる。 祝福されるはずだった結婚式は、たったひと言から、誰も予想しなかった結末へと動き出す――。兄弟姉妹1.4萬字5 3396