"捨てられた妻の逆転人生" 第3話
「おい……、これを見ろ……」
昭雄の絞りすような声に、は奪うようにファイルをめくった。ページを追うごとに、息子の顔から血の気が引いていく。
「な、何ですかこれ……。、が社が経営危を脱した『超精密微細加技術・特許049号』……これ、父さんが徹夜で図面を引いて発したんじゃなかったんですか!?」
ファイルに挟まれていたのは、黄ばんだ方に描かれた詳細な設計図だった。 細密なペン画のような図面のには、父の跡ではなく、美智子の繊細でった文字で、数式と構造計算がびっしりとき込まれていた。
そして、その図面には、かつて世界な学器メーカー『神園学研究所』の社印が押されていた。
「神園学研究所……」が掠れた声で呟く。「まさか、昭の終わりに世界初の型レンズ研磨技術を発して、に技術統された伝説の研究関……」
「美智子の実だ……」
昭雄はがくりと膝をつき、ダイニングチェアに倒れ込むように座った。
、昭雄が美智子と見いで結婚したとき、美智子の父はすでに界し、研究所は解散していた。美智子はただの「おとなしい、世らずの元お嬢様」として昭雄の元に嫁いできたはずだった。
だが、現実は違っていた。 美智子は、神園学の創業者である父の元で幼期から英才教育を受け、代半で幾つもの画期な特許技術を設計していた『神の』と呼ばれる才エンジニアだったのだ。
広告
美智子は結婚した際、父の残した膨な特許群と脈を、自分の名で表にすことは切しなかった。 プライドがく、男尊女卑の気質がい昭雄をてるため、自らは「何もらない専業主婦」を演じ、裏から昭雄にヒントを与え、都の条会にをげ、特許の権利をタツミ精の技術として密かに組み込ませていたのだ。
昭雄が夜遅く図面と睨みい、「くそっ、この公差がどうしても埋まらん!」とを抱えていた夜のことを、昭雄はいした。
美智子は夜のうどんを運びながら、控えめに言ったのだ。 『あなた、ここの軸受け、素材の膨張を考慮してミクロンほど逃がしてみてはいかがでしょう? 昔、父がそんなことを申しておりましたので……』
昭雄は当、『素がをすな!』と鳴り散らしながらも、美智子の言った通りに数値を修正した。すると、嘘のように加精度がねがり、奇跡の部品が完成したのだ。
昭雄はそれを「俺の閃きだ」と自分に言い聞かせ、美智子には礼の言も言わなかった。
そんなことが、で何度あっただろうか。 度や度ではない。会社の命運を分ける危のたびに、美智子は「父の受け売りですが」「偶然テレビで見ましたけれど」と置きして、完璧な解決策を差ししていたのだ。
「そんな……馬鹿な……」
広告
のスマートフォンが、けたたましく鳴り響いた。 画面には、都の現社であり、創業トップである条鷹(会の息子)の名が表示されていた。
は震える指で通話ボタンを押し、スピーカーフォンにした。
『もしもし、タツミ精の辰巳社かね』
々しく、徹な声が響く。
『は、はい! 条社、おはようございます。本の納入の件でしょうか――』
『単刀直入に言おう。先ほど、神園美智子先からご連絡をいただいた。……本付で、貴社との技術顧問契約および、都が貴社に優先発注をっていた特約条項を、すべて解除させていただく』
「え……!? し、社、何を仰っているのですか!? 美智子……母が、何を!?」
条社の笑が、スピーカー越しに聞こえた。
『母だと? ふん、貴様らは自分たちが誰の庇護のもとで飯をえていたのか、最まで理解していなかったようだな。……タツミ精との全取引は、今末をもって打ち切る。違約は契約通り請求させてもらう。以だ』
ツーツーツーと、無質な切断音がえ切った居に響き渡った。
輔は震える指先で、青いファイルの余にかれた美智子の文字をなぞった。
インクの染みつない端正な跡が、彼の網膜を鋭く焼き焦がす。
のの記憶が、濁流のように脳裏へ押し寄せてきた。
当、械メーカーの請けで管理職を務めていた輔は、独して国の主になるという野に燃えていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
捨てられた妻の逆転相続
十年間、義母の介護を一人で背負い続けた妻・恵子。 しかし、四十九日の法要が終わった直後、夫から告げられたのは「もう君の役目は終わった」という冷たい離婚宣告だった。 家族のために尽くしてきた年月を、ただの「役目」としか見ていなかった夫と息子。 何も言い返さず家を出た恵子だったが、翌日、誰も知らなかった一通の封筒が加納家で見つかる。 そこに記されていた亡き義母の最後の意思が、家族の運命を大きく変えていく――。嫁姑|夫婦|介護1.4萬字5 78 -
完結第10話
退職祝いは離婚届
38年間、仕事一筋で家族を支えてきた黒田俊夫。 退職祝いの夜、彼は妻・真由美に言った。 「これからは、二人でゆっくりしよう」 しかし、その言葉を聞いた真由美は笑わなかった。彼女が静かに差し出したのは、白い封筒に入った離婚届だった。 若い頃に交わした旅行の約束。何度も後回しにされた夫婦の時間。「退職したら」「落ち着いたら」「今度こそ」と言われ続けた38年。 俊夫にとっては、これから始まるはずの老後だった。けれど真由美にとっては、もう待ち続ける時間の終わりだった。 妻はなぜ、夫の退職の日を選んで家を出たのか。 そして俊夫は、妻がいなくなった家で初めて、自分が見てこなかったものに気づいていく――。夫婦|第二の人生|熟年離婚1.5萬字5 485 -
完結第11話
22年目の母席
7歳の時から、美緒を育ててきた高瀬京子。 血のつながりはなくても、熱を出した夜にそばにいたのも、弁当を作ったのも、卒業式や成人式に付き添ったのも、すべて京子だった。美緒もまた、いつしか彼女を「お母さん」と呼ぶようになっていた。 しかし結婚式を前に、22年間ほとんど姿を見せなかった実母・麗子が現れる。 実の母親という分かりやすい肩書。結婚祝いの200万円。そして、相手方の家族が求める“普通の形”。 やがて美緒は、京子に告げる。 「今回は、麗子さんにお願いしたい」 さらに結婚式当日だけは、自分を「京子さん」として扱ってほしいと頼まれた京子。22年間積み重ねてきた日々は、たった一言で母親の席から外されてしまう。 本当の母親とは、産んだ人なのか。それとも、そばに居続けた人なのか。 娘の結婚式を前に、京子が初めて自分の傷と向き合う、静かな家族の物語。因果応報|親子関係1.7萬字5 1460 -
完結第10話
墓前の偽息子
夫の命日、文子は一人息子の誠と並んで墓前に手を合わせていた。 その時、文子の携帯に「誠」から電話がかかってくる。 しかし、本物の誠は今、すぐ隣で父の墓に手を合わせていた。 電話口の男は、息子のふりをして言った。 「母さん、仏間の金庫の暗証番号を教えてくれないか」 相手は、文子の家に金庫があることも、最近暗証番号を変えたことも知っていた。さらに電話の向こうから聞こえてきたのは、誠の妻・和子の声だった。 これはただの詐欺なのか。 それとも、家族の中に裏切り者がいるのか。 亡き夫が残した言葉を胸に、文子は慌てず、静かに確かめることを選ぶ。 そして家へ戻った母子が見たのは、想像もしなかった妻の本性だった――。因果応報|親子関係1.5萬字5 1543 -
完結第12話
不機嫌夫の末路
夫の大地は、気に入らないことがあると黙り込む人だった。 怒鳴るわけでも、手を上げるわけでもない。ただ返事をしない。目を合わせない。家の中を冷たい沈黙で満たし、妻の望美が謝るまで何事もなかったように振る舞う。 望美はそれを、夫婦ならよくあることだと思い込んでいた。 しかしある日、大地の沈黙は4歳の娘・ひなにまで向けられる。父親に無視された娘は、布団の中で小さくつぶやいた。 「パパ、ひなのこと嫌いになっちゃったの?」 その一言で、望美は自分の幼い頃を思い出す。父の機嫌を読み、母が謝る姿を見ながら育ったあの日々。そして今、自分も同じことを娘に繰り返させようとしていることに気づいてしまう。 夫と向き合おうとした望美に、大地は言い放つ。 「そっちの方こそモラハラだろ?」 届かない言葉。変わらない沈黙。けれど、4歳の娘が口にしたある一言が、望美の中で長く続いてきた連鎖を断ち切る決意へと変わっていく。夫婦|親子関係1.7萬字5 717 -
完結第15話
300万円の口止め料
義父が倒れた日、夫は私の口座に突然300万円を振り込み、「病院には絶対に来るな」と命じた。 22年間、義父の通院や介護の手続きを支えてきたのは私だった。だからこそ、夫の不自然な言葉に胸騒ぎを覚え、私は命令を破って病院へ向かう。 個室の扉の前で聞こえてきたのは、弱った義父に書類へ署名させようとする夫の声だった。 「雪には300万円を渡した。もう納得している」 その瞬間、私は悟る。あの300万円は感謝の金ではなく、私を義父から遠ざけるための口止め料だったのだ。 夫が隠していた4500万円の借金。義父の家と土地を狙う計画。そして、病室に持ち込まれた分厚い書類。 けれど夫はまだ知らなかった。 義父が数年前から、自分の意思と大切な人を守るために、ある“本物の備え”を残していたことを――。夫婦|金銭問題2.3萬字5 559 -
完結第13話
消えた託児代7万円
2001年、東京の外れにある義実家で暮らす保育士のゆいは、夫の妹・安奈から何度も娘の子守りを押しつけられていた。 「保育士でしょ?」 「家族なんだから」 「今日だけお願い」 そう言われるたび、ゆいは仕事帰りに1歳のクレアを風呂に入れ、寝かしつけ、夜泣きにも起きてきた。けれど夫も義母も、それを“当然の手伝い”としか見ていなかった。 ある朝5時半、安奈は39度の熱を出したクレアを抱えて現れる。 「娘の子守りよろしく」 仕事を理由に断ろうとするゆいへ、夫は笑って言った。 「保育士なんだから慣れてるだろ。ケチくさいこと言うなよ」 その一言で、ゆいの中で何かが切れた。 なぜ安奈は、そこまで頻繁に娘を預けていたのか。 なぜ“仕事”と言って家を空ける日が増えていたのか。 そして、クレアの父親だけが知らなかった事実とは――。 便利な保育士として扱われ続けた嫁が、初めて「無理です」と告げた日、義家族の隠された嘘が静かに崩れ始める。兄弟姉妹|夫婦1.9萬字5 841 -
完結第12話
赤身を笑った女の末路
15年前、木村実乃里は“親友”を名乗る女・高子に夫を奪われた。 妊娠したと泣きながら告げてきた高子。沈黙する夫。幼い娘を連れ、実乃里はすべてを失ったような思いで家を出た。 それから15年。 実乃里は娘・由美香を育てながら、小さな店から会社を立ち上げ、ようやく穏やかな日々を手に入れていた。 そんなある日、社会人になった由美香が、初任給で母を回転寿司へ連れていく。ささやかで幸せな食事の席で、実乃里は15年ぶりに高子と再会する。 「相変わらず貧乏臭いわね」 「うちの子は国家公務員なの」 昔と変わらず人を見下し、勝ち誇る高子。 しかし次の瞬間、由美香が静かに言った。 「ママ、あの人クビにしたら?」 高子が働いている“高級ショップ”の本当の経営者。 15年前に壊されたはずの母娘の人生。 そして、高子自身が知らなかった本当の立場。 回転寿司の小さなテーブルで、15年越しの因果が静かに動き出す。因果応報|人生逆転1.8萬字5 1842 -
完結第13話
100億の身代わり花嫁
貧しさに追い詰められた28歳の美咲は、妹の命を救うため、68歳の不動産王・大鳥幻蔵との結婚を受け入れた。 5000万円の借金は消え、妹の手術費用も用意される。そう信じて臨んだ結婚式で、美咲は親族たちから「金目当ての女」と嘲られながらも、ただ耐え続けた。 だが初夜、幻蔵は優しい夫の顔を捨て、恐ろしい真実を告げる。 美咲は妻として迎えられたのではなかった。100億円の借金と危険な会社を押しつけられる“身代わり”として選ばれたのだ。 妹を人質に取られ、逃げ道を失った美咲。夫、親族、裏社会、病院までもが敵に回る中、彼女は静かに涙を拭う。 誰も知らなかった。 彼らが「底辺の女」と笑った美咲こそ、10年間、父の死の真相を追い続けてきた人物だったことを――。夫婦|金銭問題1.9萬字5 1741