"最後の定期券" 第7話
「誰に?」
「優子ちゃんに」
父は枚の封筒をに取った。
そこには、子どもの字で名がかれていた。
佐伯優子。
「30の、あの子は俺にこれを預けた」
夫は静かに話し始めた。
「あの、優子ちゃんは駅で待っていた」
「誰かを?」
「父親を」
由紀は驚いた。
「でも、お父さん……優子さんのお父さんはをていたんじゃないの?」
「そうだ」
夫は頷いた。
「でも、あの子は信じていた」
「いつか迎えに来てくれるって」
その言葉を聞いた瞬、由紀は父がいた「必ず迎えにく」という言葉をいした。
しかし。
それは父自が優子を迎えにくというではなかった。
優子が待っていたを。
いつか連れてくるというだった。
夫は30の来事をしずつ話し始めた。
優子の父親、佐伯隆志は、族を残して町をたと言われていた。しかし実際には、完全に族を捨てたわけではなかった。仕事の失敗と借問題を抱え、族を巻き込みたくないという理由で姿を消したのだった。
「でも、優子ちゃんはらなかった」
夫は言った。
「母親からも詳しく聞かされていなかった」
だから女は、父親がいつか戻ってくるとっていた。
そしての。
父親から届いた通のを持って、駅へ向かった。
「そのは?」
由紀が聞く。
夫は首を横に振った。
「俺が預かった」
「なぜ?」
「優子ちゃんが怖がっていたからだ」
広告
その、優子は駅で夫に言った。
「お父さんが帰ってくるって」
「でも、お母さんには言わないでって」
「どうして?」
「られるから」
夫はその、子どもの言葉の裏にあるものに気づけなかった。
優子は父親を待っていた。
でも同に。
母親を傷つけたくなかった。
「その、優子ちゃんはどうなったの?」
由紀が聞くと、夫は目を伏せた。
「俺にも分からなかった」
「あの、駅をれたのことは?」
「分からない」
「じゃあ、30ずっと探していたの?」
夫はさく頷いた。
「約束したから」
「どんな約束?」
父は古い写真を見る。
そこに写る女は、30の笑顔のままだった。
「必ず、お父さんに渡すって」
由紀はが分からなかった。
「何を?」
夫は答えるに、机の引きしからさな青いケースをした。
それは。
優子が持っていたキーホルダーと同じ形だった。
しかし。
には何も入っていない。
「本当はここに、あるものが入っていた」
夫は言った。
「優子ちゃんのお父さんが残した証拠だ」
由紀は息を止めた。
30。
の女が消えた理由。
父が30探し続けた理由。
すべては。
このさなケースのにつながっていた。
翌、夫は由紀にすべてを話す決をした。
30、自分のだけに閉じ込めていた記憶だった。妻にも、娘にも、誰にも話さなかった。しかし、もう隠す理由はないとった。
広告
「お父さんは、優子ちゃんを助けられなかったとっていた」
夫は湯みを両で包みながら言った。
「でも本当は違った」
「違った?」
「俺が守ろうとしていたのは、優子ちゃんだけじゃなかった」
由紀は黙って聞いていた。
父の話は、しずつ30へ戻っていった。
佐伯隆志は、ある会社の経理担当者だった。
真面目な性格で、仕事もできるだった。
しかし、会社の層部が隠していた正に気づいてしまった。
帳簿の改ざん。
取引先への架空請求。
その証拠を持っていたのが、優子の父親だった。
「だから逃げたの?」
由紀が聞く。
夫は首を振った。
「逃げたんじゃない」
「証拠を守るためだった」
隆志は会社から圧力を受けていた。
族を巻き込むことを恐れ、妻と娘かられた。
しかし、優子だけには本当の理由を伝えるつもりだった。
だからをいた。
そのを持って、優子は駅へ向かった。
「じゃあ、あの、優子さんは……」
由紀が言葉を止める。
夫は頷いた。
「あの子は父親に会えた」
「え?」
「俺は見た」
夫の声が震えた。
「駅の裏側で、が話しているところを」
由紀は驚いた。
父はずっと、優子が消えた瞬を見たとっていた。
しかし違った。
父は。
最のをっていた。
「じゃあ、なぜ警察に言わなかったの?」
夫は目を閉じた。
「言えなかった」
「どうして?」
「優子ちゃんが頼んだから」
女は泣きながら言った。
「お母さんを傷つけたくない」
「お父さんが悪いだとわれたくない」
「でも、もうしだけ待ってほしい」
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
飛騨の農家に消えた嫁
1995年、岐阜県飛騨地方の山あいにある和牛農家へ嫁いだ27歳のゆき子。 よく働き、誰にも逆らわず、慣れない村で必死に暮らしていた彼女は、ある冬の日、牛舎へ向かったまま姿を消した。片方だけ残された長靴。消えた青いジャンパー。そして、家族が語った「自分から出て行った」という言葉。 警察は深く調べることなく、失踪は家出として処理された。 それから8年。村では何事もなかったように季節が巡り、義父の幻蔵は“誠実な畜産農家”として周囲から慕われ続けていた。 しかし、牛舎裏の堆肥の山から見つかった人骨が、止まっていた時間を動かす。 長年誰も近づけなかった壺のそば。夜ごと繰り返された寝言。真冬の洗車場で執拗に洗われた軽トラック。 誰も探さなかった若妻は、8年間どこにいたのか。 そして、家の体面を守るために義父が隠し続けたものとは――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 212 -
完結第11話
6秒の着信
2019年10月、紅葉の雪岳山を訪れた若い恋人、ジフンとアリン。 翌年に結婚を控えた2人は、記念写真を残すために山へ向かった。登山口の防犯カメラには、笑い合いながら歩く幸せそうな姿が映っていた。 しかし午後3時過ぎ、2人は分岐点でなぜか正反対の道へ進む。 そして、そのまま山の中から忽然と姿を消した。 大規模な捜索が行われても、足跡も荷物も見つからない。事故なのか、失踪なのか、それとも誰かが2人を誘い込んだのか。真相が分からないまま、3年の月日が流れていく。 やがて2022年、登山道近くの泥の中から、アリンの携帯電話が発見される。 そこに残されていたのは、最後に撮られた1枚の写真と、わずか6秒間の通話記録。 「そのまま来てください。彼も着きました」 その短すぎる声が、3年間“山で消えた”と思われていた恋人たちの、本当の行き先を暴き始める――。ミステリー|行方不明1.6萬字5 244 -
完結第12話
壁の中の13年
平成3年、埼玉の小さな町で、妊娠8か月の美智子が突然姿を消した。 財布も出産準備の品も家に残されたまま。昼にはスーパーで買い物をし、公衆電話から誰かへ電話をかけ、その後、背の高い男と歩く姿を目撃されたのを最後に、彼女の行方は分からなくなる。 夫の誠、東京にいたはずの兄・茂、そして美智子を追い詰めていた山田家の沈黙。 警察は夫を疑い、町は噂に揺れたが、決定的な証拠は見つからないまま、事件は13年の時に埋もれていく。 しかし平成16年、再開発で古い家が解体された時、寝室の壁の内側から、長年隠されていたものが見つかった。 あの日、美智子は誰に電話をかけたのか。 そして、壁の中に封じられていたのは、彼女の行方だけではなかった――。ミステリー|真相1.8萬字5 607 -
完結第14話
10年目のゲームボーイ
1991年、8歳の誕生日会の最中に、篠原恵美の息子・直樹は忽然と姿を消した。 公園には多くの親子がいた。ほんの数分前まで、直樹は青いゲームボーイを手に友達と遊んでいたはずだった。だが、気づいた時にはどこにもいない。目撃者も、手がかりも、残された物もなかった。 それから10年。 息子を見失った母の時間だけが、あの日のまま止まっていた。 そんなある日、友人に連れられて訪れたフリーマーケットで、恵美は古い玩具の山の中から一台の青いゲームボーイを見つける。そこには、直樹が自分で貼ったはずの3枚のシールが、記憶のまま残されていた。 それを売っていたのは、かつて地域で信頼されていた元警察官の男。 なぜ、消えた息子の持ち物が10年後にそこへあったのか。 そして男が思わず口にした「息子」という言葉が、隠されていた10年の闇を少しずつ暴き始める――。ミステリー|裡の顔2.1萬字5 225 -
完結第13話
消えた23人の観光団
2025年9月29日、福岡に約2700人の団体観光客が一斉に降り立った。 その日を境に、日本各地で不可解な失踪が相次ぎ始める。タクシー運転手、配達員、宿泊施設の関係者――いずれも夜、一人で行動することの多い男性たちだった。 やがて糸島の海岸で発見された身体の一部が、事件の扉を開く。 捜査を進める刑事・鈴木健二は、失踪した観光客、黒いワゴン車、古い倉庫、医療機器販売会社、そして横浜港へ向かう冷凍コンテナという、ばらばらに見えた点を追い始める。 これは単なる失踪事件ではない。 観光の人波に紛れ、日本の空き倉庫や港を利用して動いていた国際犯罪組織。その裏には、人間を“商品”のように扱う恐ろしい取引が隠されていた。 救える命はまだ残っているのか。 そして、海へ消えた男と「王」と呼ばれる人物の正体とは――。 福岡から始まった小さな違和感は、やがて日本全体を揺るがす闇へとつながっていく。ミステリー|真相2.0萬字5 227 -
完結第12話
床下の小さな指輪
1991年、群馬県山川町の古い油屋で、嫁の佐藤美優が幼い息子を残して姿を消した。 家族は「男と駆け落ちした」と証言し、町にもその噂は広まった。働き者で、息子を誰より大切にしていたはずの美優は、いつしか“子供を捨てた母親”として語られるようになる。 それから6年後。 借金で差し押さえられた油屋の離れを壊した時、床下のセメントの奥から、人骨と小さな金の指輪が見つかった。 美優は本当に家を出たのか。 なぜ姑は、離れを壊すことだけを必死に止めたのか。 そして彼女が最後まで握りしめていた指輪は、誰のためのものだったのか――。ミステリー|真相1.8萬字5 168 -
完結第11話
11年目のコロッケ
14歳の秋、黒田み咲の母・裕子は「夕飯のおかずを買ってくるね」と言って家を出たまま、二度と戻らなかった。 父は、母が家の金を盗み、近所の男と駆け落ちしたのだと親族に告げた。置き手紙も見つかり、周囲の大人たちは皆それを信じた。残されたみ咲は、“泥棒の娘”として11年間、父と継母、そして親族たちから辱められ続けることになる。 しかしある法要の日、裏山の古い井戸から、母が消えた日に買ったコロッケのレシートと、泥にまみれたカーディガンが見つかる。 母は本当に男と逃げたのか。 なぜ、継母の失くしたはずのイヤリングが井戸の底にあったのか。 そして、11年間沈黙していた“目撃者”が現れた時、黒田家が守り続けてきた嘘は音を立てて崩れ始める。 母に捨てられた娘だと思い込まされてきたみ咲が、封印された真実へたどり着くまでの、愛と復讐の物語。ミステリー|行方不明1.6萬字5 1458