"白いハンカチの約束" 第4話
最初の。
は朝7になるしから落ち着かなかった。
いつも通り朝の片づけをしているのに、何度も計へ目をやる。清は聞を読みながら、そんな妻の様子を横目で見ていた。
「まだ2分あるぞ」
「分かってますよ」
「ずいぶん真面目だな」
「あなたが言いしたんでしょう」
7になる。
はいハンカチを持ってベランダへた。
ならたいが吹く所だが、そのはの朝で、すでに空気がぬるかった。は物干し竿の端へハンカチを留め、5号棟を見た。
トメの窓はまだ閉まっている。
「これでいいの?」
部へ戻ると、清が頷いた。
「あとは8まで待つ」
その1が、妙にくじられた。
740分。
まだ座布団はない。
750分。
は再び窓のくへった。
「あなた」
「何だ」
「てないわ」
「まだ10分ある」
「分かってますよ」
清は聞を読み続けていたが、同じを何度も見ていた。
758分。
5号棟3階の窓がいた。
トメが顔をす。
古い茶の座布団を持ち、それをベランダへかけた。
その瞬、は自分でもおかしくなるほどした。
「たわ」
清も聞から顔をげた。
「そうか」
たったそれだけだった。
誰かと話したわけではない。
声を掛けったわけでもない。
けれど向かいのベランダへ茶い座布団が現れただけで、
「今も丈夫」
と分かる。
翌も同じだった。
その次のも。
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やがて確認することは、歯を磨くことや聞を取ることと同じくらい自然な朝の課になった。
のにはし夫した。
いハンカチは根にい位置へ留める。
トメは座布団を濡らさないよう、窓際から見えるところへてかけた。
のには、洗濯ばさみを2つ使った。
になればベランダへるはほんの数秒だった。
それでも2つの図がなくなることはなかった。
面いことに、約束を始めたからといって、松田夫婦とトメの付きいが急にくなったわけではない。
相変わらず廊で会えば世話をする程度だった。
「昨の、すごかったですね」
「洗濯物が全然乾かなくて」
「駅の魚、鯖がかったですよ」
そんな会話をして別れる。
トメが3号棟へ遊びに来ることもなく、も5号棟へ居することはなかった。
それが3にはよかった。
配だからと毎様子を見にけば、相はそのたびに茶を入れたり、部を片づけたりするかもしれない。
「今も丈夫ですか」
と毎朝尋ねられれば、自分がいになったような気持ちになることもある。
けれどいハンカチと座布団なら、言葉はいらない。
起きたらす。
確認したら引っ込める。
それだけでよかった。
やがて季節はになり、になった。
子どもたちは毎ているいハンカチを見つけ、勝に物語を作り始めた。
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「今はがいから、スパイも変だ」
「誰に図してるんだろう」
はそれを聞くたびに笑った。
トメにも話したことがある。
「子どもたち、私たちをスパイだとってるみたい」
トメは腹を抱えて笑った。
「それなら座布団も暗号だって教えようか」
「余計ややこしくなりますよ」
「でも面いじゃない」
清だけは真面目な顔で、
「られなくていい」
と言った。
「何が?」
「こういうのは、られないくらいがちょうどいいんだ」
は夫の横顔を見た。
清はに親切をしたことを話すような男ではなかった。
助けているつもりもないのだろう。
ただ向かいの窓を見る。
ていなければく。
ていればする。
それだけだった。
昭47の。
朝の空気が刺すようにたくなり、団のベランダにはが残るも増えていた。
その朝も、トメはいつも通り6半過ぎに起きた。
台所で湯を沸かし、さな湯みに茶を注ぐ。
窓ガラスはく曇っており、のひらで拭うとの景がようやく見えた。
「寒いねえ」
トメは肩へ羽織った半纏の襟を寄せ、窓際へ座った。
計は655分。
向かいの3号棟4階はまだ静かだった。
それ自体は珍しくない。
がてくるのは、たいてい7ちょうどだった。
7。
トメは湯みを置いた。
窓がかない。
「寒いからし遅いのかね」
独り言を言い、茶をむ。
75分。
まだ何もない。
710分。
いハンカチはない。
トメは障子を閉めようとしたが、を止めた。
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