"私を変えた元嫁" 第5話
梨奈の声だった。
美津のが止まった。
拓が何か答える。
「のこと?」
「全部」
梨奈は言った。
「私が何かできるようになると、お義母さんが嫌になる」
美津は息を止めた。
「でもやらないと、やる気ないって言われる」
「気にしすぎじゃない?」
「ずっと緒にいる私が番分かるよ」
しがあった。
「お義母さん、自分より私が目つの嫌なんだとう」
美津は階段をがらず、静かにへ戻った。
腹がった。
そんなことはない。
が繁盛して嫌なはずがない。
梨奈が認められて嬉しくないはずがない。
そうった。
ところが台所でになると、テレビに映った梨奈をいした。
若女将。
しい宮本。
梨奈ののように紹介される映像。
美津は認めたくなかった。
自分はし嫌だった。
宮本は、自分が35以守ってきただった。
そのが、いつのにか自分なしでも続くように見え始めている。
それが怖かったのだと、その夜初めて気づいた。
関係が本格に崩れ始めたのは、その半だった。
最初に異変へ気づいたのは梨奈だった。
拓が帰宅するが遅くなった。
以から残業はかったが、曜の夜まで11を過ぎることは珍しかった。休勤も増え、携帯話を浴まで持っていくようになった。
「仕事忙しいの?」
美津が聞くと、
「今プロジェクト入ってるから」
広告
と答えた。
梨奈は何も言わなかった。
ある夜。
拓が呂へ入っている、テーブルのの携帯話がった。
美津は偶然そばにいた。
画面には、
《今会えてよかった。次はゆっくりね》
というメッセージ。
名は「Y」。
美津は見なかったふりをした。
その夜、眠れなかった。
まさか。
息子に限って。
翌朝。
拓が勤したあと、美津は梨奈に聞いた。
「最、拓と何かあった?」
梨奈は包丁を止めた。
「どうしてです?」
「帰り遅いから」
梨奈はしばらく黙った。
「女のだといます」
美津の胸がえた。
「何言ってるの」
「たぶん半くらいから」
「証拠あるの?」
「あります」
梨奈は携帯話をした。
写真。
ホテルの予約メール。
レストランのカード細。
相とのメッセージ。
美津は途で見るのをやめた。
「何で黙ってたの」
「どうしようか考えてたから」
「拓には?」
「度聞きました」
「何て?」
「認めませんでした」
美津は子へ座った。
自分の息子が浮気をしている。
梨奈を裏切っている。
それは分かった。
それでも最初にからたのは、
「婚とか、すぐ考えないでね」
だった。
言った瞬、梨奈の顔が変わった。
「まだ何も言ってません」
「でも考えてるでしょう」
「考えますよ」
「拓も馬鹿なことしたとう。でも夫婦って、そう簡単に」
梨奈が包丁を置いた。
「お義母さん」
声が静かだった。
「今、最初に私の配しませんでしたよね」
広告
美津は言葉を失った。
「拓が浮気したって聞いて、番先にたのが婚しないで、なんですね」
「そうじゃない」
「じゃあ何ですか」
美津は答えを探した。
。
。
世。
親戚。
梨奈がいなくなったら宮本はどうなる。
瞬、そこまで浮かんだ。
そして自分でも愕然とした。
「梨奈」
「私、のために結婚したんじゃないです」
「分かってるよ」
「分かってないです」
梨奈の目が赤くなった。
「たぶん、ずっと」
美津も腹がった。
「何よ、それ」
「お義母さん、私のこと事にしてくれました。いろいろ教えてくれた。本当に謝してます」
「だったら」
「でも私を、のとして見てなかったとう」
美津は息を止めた。
「宮本の嫁」
梨奈は続けた。
「拓の妻」
「若女将」
「お義母さんが育てた」
つずつ言った。
「全部役割です」
美津は反論したかった。
しかし言葉がなかった。
「私が何をしたいかより、どうしたら宮本にうかが先だった」
梨奈は泣いていた。
「髪も変えた。も変えた。喋り方も。友達と会う回数まで減った」
「そこまで言ってないでしょう」
「言わなくても分かるようにしてました」
美津の胸に刺さった。
それは、自分が義母からされたことと同じだった。
直接命令しない。
ただ表を変える。
ため息をつく。
「宮本では普通こうする」と言う。
美津は若い頃、それが嫌だった。
なのに自分も同じことをしていた。
「婚するの?」
美津は聞いた。
梨奈は涙を拭いた。
「まだ決めてません」
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
退職祝いは離婚届
38年間、仕事一筋で家族を支えてきた黒田俊夫。 退職祝いの夜、彼は妻・真由美に言った。 「これからは、二人でゆっくりしよう」 しかし、その言葉を聞いた真由美は笑わなかった。彼女が静かに差し出したのは、白い封筒に入った離婚届だった。 若い頃に交わした旅行の約束。何度も後回しにされた夫婦の時間。「退職したら」「落ち着いたら」「今度こそ」と言われ続けた38年。 俊夫にとっては、これから始まるはずの老後だった。けれど真由美にとっては、もう待ち続ける時間の終わりだった。 妻はなぜ、夫の退職の日を選んで家を出たのか。 そして俊夫は、妻がいなくなった家で初めて、自分が見てこなかったものに気づいていく――。夫婦|第二の人生|熟年離婚1.5萬字5 32 -
完結第11話
捨てた料理の代償
義母・美智子と同居しながら、穏やかに暮らしていた奈々子。 ところが、お盆になると義妹の杏奈夫婦が突然帰省してくる。連絡もなく家へ上がり込み、食事を当然のように食べ、手伝いもせず、さらには義母へ金まで借りようとする二人。注意されるたび、杏奈は奈々子を「他人」扱いし、実家を乗っ取った嫁のように責め続けていた。 そして迎えたお盆の夕食。 食卓に並んだ料理を見た杏奈は、皆の前で言い放つ。 「他人が作った食事なんて、汚くて食べられない」 さらに翔太まで調子に乗り、料理を捨てようとする。 しかし、その料理には杏奈夫婦が知らない“ある秘密”があった。 閉じられていた和室の襖が開いた瞬間、杏奈の顔色は一変する。 翌朝、この家を出ていくことになったのは、「他人」と呼ばれた奈々子ではなかった――。兄弟姉妹|嫁姑1.7萬字5 2328 -
完結第14話
新郎が消えた結婚式
親に捨てられた私を育ててくれたのは、血のつながらない兄・航太だった。 両親が借金を残して消えた日、大学生だった兄は「俺が何とかする」と言い、働きながら私を支えてくれた。高校を中退した私を責めることもなく、ずっと本当の家族として守ってくれた。 そんな兄が、ようやく結婚することになった。 私は心から祝福するつもりで式場へ向かった。けれど式の直前、エリートの兄嫁は私に笑顔で言い放つ。 「毒親の連れ子なんでしょ?中卒のクズは参列しないで」 兄の幸せを壊したくなくて、私は黙って帰ろうとした。 しかし、その言葉を兄は聞いていた。 「分かった」 そう言った兄が次に選んだ行動で、華やかな結婚式場から人が次々と消えていく――。 血のつながりではなく、苦しい時に誰が隣にいてくれたのか。本当の家族の意味を描く、涙と因果応報の物語。兄弟姉妹|第二の人生2.1萬字5 773 -
完結第13話
実印を押さない母
3年前、「半年だけ」という約束で始まった息子一家との同居。 夫を亡くし、一人暮らしだった67歳の佐伯佳代子は、息子夫婦と孫たちを自宅に迎え入れた。最初は賑やかで温かな暮らしだったが、いつの間にか食事、洗濯、孫の送迎、生活費の負担まで、すべてが佳代子の“当然の役目”になっていく。 そんなある日、息子が何気ない口調で切り出した。 「母さん、この家さ。そろそろ俺の名義にしない?」 家族だから。どうせ将来は相続するから。リフォームのためだから。 そう説明されながらも、佳代子の胸には小さな違和感が残る。そして偶然見つけた一枚の書類には、名義変更後の家の売却と、佳代子を高齢者住宅へ移す計画が書かれていた。 家族のために黙ってきた母が、初めて自分の人生を選び直す。 名義変更の日、佳代子が判子を押したのは、家を渡す書類ではなかった――。嫁姑|親子関係|金銭問題2.0萬字5 825 -
完結第14話
4200万円の隠し家
日曜日の午後、佳代のもとへ義母から一本の電話が入る。 「家のローン、なんでまだ払ってないの?」 しかし佳代には、心当たりがなかった。夫・慎也から聞かされていたのは、義母と義妹が“手頃な賃貸”へ引っ越したという話だけ。けれど電話をきっかけに調べてみると、そこには4200万円で購入された新築の家と、夫が背負った3600万円のローンが隠されていた。 しかも所有者欄には、夫と義妹の名前。妻である佳代の名前はどこにもない。 さらに慎也は、亡き父が佳代に残した2400万円の遺産まで、返済計画の一部として勝手に考えていた。義母にも義妹にも、それぞれ都合のいい説明をしながら。 「家族のため」という言葉の裏で、夫は一体どこまで嘘を重ねていたのか。 一本の電話から、27年間信じてきた夫婦の形が静かに崩れ始める。人生逆転|嫁姑|金銭問題2.2萬字5 763 -
完結第12話
23回拒まれた元部長
定年退職した元部長・加藤正雄は、会社を離れてもなお、“上司”でいることをやめられなかった。 ゴルフ練習場で出会った佐藤雅人に、頼まれてもいない指導を始める加藤。何度断られても「遠慮しているだけ」「上達のため」と勝手に解釈し、他人の時間や距離感を踏み越えていく。 やがてその迷惑な善意は、ゴルフ場だけでなく、パソコンサークルや写真講座でも同じように繰り返されていたことが明らかになる。 「結構です」と言われた回数は、記録に残っているだけで23回。 それでも加藤は、自分が嫌がられている理由を理解できない。 肩書きを失っても、人を動かす側でいたかった男。 しかし、会社の外では誰も彼の部下ではなかった。 善意のつもりで他人の領域に踏み込み続けた男が、最後に失ったものとは――。第二の人生|金銭問題1.8萬字5 297 -
完結第13話
福嫁の逆転茶屋
江戸の日本橋にある茶屋「泡雪屋」の若旦那・宗介は、店の立て直しのため、評判の商人・泉屋五兵衛の娘を妻に迎えることになる。 宗介が望んでいたのは、江戸でも噂になるほど美しい姉・お花だった。美しい女将がいれば、傾きかけた店にも客が戻る。そう信じていたからだ。 しかし、五兵衛が宗介に差し出したのは、お花ではなく、ふくよかで目立たない妹・福だった。 祝言の日、客たちは陰で笑い、宗介自身も心のどこかで落胆を隠せなかった。だが、福が作る菓子と入れる茶は、少しずつ泡雪屋の空気を変えていく。 派手ではないのに忘れられない味。人の心の奥にしまわれた記憶を呼び起こす菓子。福は、宗介が見落としていた“商いで本当に大切なもの”を静かに見せていく。 やがて泡雪屋は、思いがけない形で評判を取り戻していく。 なぜ、泉屋五兵衛は美しい姉ではなく、福を宗介に嫁がせたのか。 そして若旦那が、かつて落胆した嫁に深く頭を下げることになった理由とは――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 100 -
完結第11話
片胸の息継ぎ
54歳の大庭律子は、市民プールの清掃スタッフとして働いている。 3年前に乳癌の手術を受け、左胸を失ってから、彼女は自分の身体をどこか他人のもののように感じていた。温泉にも行けず、水着を着ることもなく、鏡の前では息を止める癖がついていた。 そんなある夜、初心者レーンで泳ぎを習う70代の老人・須賀と出会う。 何度も水を飲み、息継ぎに失敗しながらも、須賀は諦めずに25メートルを目指していた。 「吸うんじゃなくて、先に吐くんです」 インストラクターのその言葉が、律子の心に小さな波紋を残す。 傷を隠し、欲しいものを我慢し、次の検査日だけを数えて生きてきた律子。けれど水の中で不器用に息を探す老人の姿を見つめるうちに、彼女の中で忘れていた感覚が少しずつ動き出す。 生き残った身体を、もう一度、自分のものとして受け入れられるのか。 水の中で吐き出した先に、律子が初めて吸い込んだ“次の息”とは――。孤獨|第二の人生1.6萬字5 273 -
完結第10話
消された妻の逆転乾杯
夫の昇進祝いの宴席で、佐木美和は信じられない光景を目にする。 35年間連れ添ってきた夫・孝志が、120人の招待客の前で、若い愛人を「妻です」と紹介したのだ。 本当の妻である美和は、会場の端の席に座らされ、まるで無関係な招待客の一人のように扱われていた。夫からは事前に「今日だけは黙っていろ」と言われていた。 けれど、美和は怒鳴らなかった。 ただ静かにグラスを持ち上げ、夫と愛人に向かって乾杯した。 なぜなら彼女は、17年間にわたって夫が奪い続けてきた功績、不正に使われた経費、そして自分の名前を消された証拠を、すでに会長へ渡していたからだ。 祝福の拍手が響く中、会長がゆっくりと立ち上がる。 「佐木君。今の紹介で、最後の確認が取れた」 その一言で、夫の栄光の夜は、崩壊の始まりへと変わっていく――。夫婦|第二の人生|不倫1.4萬字5 2114 -
完結第14話
身代わり妻の逆転帰還
夫の代わりに罪を被り、2年間刑務所で耐え続けた佐藤由美。 亡き父が残した会社を守るため、そして夫・健一を信じるために、彼女はすべてを背負った。だが出所の日、ようやく帰った家で待っていたのは、姑の平手打ちと、夫から投げつけられた離婚届、そして若い愛人の勝ち誇った笑みだった。 「前科者のくせに、まだうちの息子と暮らす気なの?」 すべてを失ったように見えた由美は、泣き崩れることなく、ただ一本の電話をかける。 刑務所で出会った一人の女性。亡き父が残していた最後の言葉。仏壇の下に隠されたUSBメモリ。 2年前の事件は、本当に由美の罪だったのか。 翌日から、夫と愛人、そして由美を切り捨てた家族の嘘が、静かに崩れ始める――。嫁姑|夫婦2.1萬字5 623