"10年目のゲームボーイ" 第2話
数メートル先のテーブルに置かれた、子供用品のが目に入った。
ぬいぐるみ。
絵本。
ミニカー。
古いゲーム。
そのに、青い何かがあった。
恵美のが止まる。
「どうしたの?」
里子が振り返る。
恵美は答えなかった。
ゆっくりと、そのテーブルへづいていく。
胸の奥が妙にざわついた。
青い携帯ゲームだった。
ただ、それだけなら珍しい物ではない。
恵美が震え始めたのは、その表面を見た瞬だった。
3枚のポケモンのシール。
央にピカチュウ。
にも別のキャラクター。
貼られている角度まで、記憶のの物と同じだった。
恵美は両でゲームボーイを持ちげた。
「……直」
声が漏れた。
里子が隣へ来る。
「恵美?」
「これ……直のよ」
「え?」
「直のゲームボーイ」
恵美は息を詰まらせながら、青い本体を里子に見せた。
「このシール、私が覚えてる。あの子が自分で貼ったの。ピカチュウを真んにして……何度も位置を直してた」
記憶が気に戻ってきた。
直がゲームを握りしめながらソファに寝転んでいた姿。
事もさず、
「ご飯のは置きなさい」
と叱ったこと。
学へ持っていこうとして、ランドセルから見つけたこと。
「違いない」
恵美は震える声で繰り返した。
「これ、直のよ」
そして、その背から男の声がした。
「何かお探しですか?」
振り返ると、70歳の男がっていた。
広告
穏やかな笑顔を浮かべていたその男は、恵美の表を見るなり笑みを消した。
恵美はゲームボーイを握りしめた。
「これを……どこでに入れたんですか?」
その質問を境に、10かなかったが、突然きな音をててき始めた。
「どこでに入れたんですか?」
恵美はもう度尋ねた。
声が震えていた。
売りの男は、ゲームボーイと恵美の顔を交互に見た。
「それが何か?」
「私の息子のなんです」
「は?」
「10に方になった息子の物なんです」
男の表が固まった。
恵美は歩づいた。
「息子はどこにいるんですか?」
「ちょっと待ちなさい。私は何の話をしているのか――」
「お願いです。っているなら教えてください」
恵美の声は次第にきくなっていた。
周囲の客が振り返る。
「もう10なんです。あの子がどこにいるのか、何をしているのか、何つ分からないまま10も……」
が震え、ゲームボーイを落としそうになった。
男が反射に受け止める。
そのまま彼はゲームを恵美へ返さず、自分の着のポケットへ入れた。
「返してください」
「これは私の物だ」
「違う!」
恵美の胸に激しい恐怖がった。
「どうして隠すんですか? やっぱり何かってるんでしょう?」
里子が肩を抱いた。
「恵美、落ち着いて」
だが10分のが気に押し寄せていた。
希望。
疑。
恐怖。
り。
もし、ここに直へつながる答えがあるなら。
広告
恵美は突然目のが暗くなるのをじた。
膝から力が抜け、そのに崩れ落ちる。
「恵美!」
里子が支えた。
周囲でざわめきが広がった。
男は苛ったように携帯話を取りした。
「警察を呼ぶ」
皮肉なことに、警察を呼んだのは男の方だった。
数分、パトカーが到着した。
若い警察官が垣をかき分けてづく。
「何があったんですか?」
男が先に説した。
「この女性が突然、私の売り物を自分の息子の物だと言いしたんだ。取りげようとして騒ぎになった」
警察官は恵美を見た。
彼女は里子に支えられ、面に座っていた。
「奥さん、丈夫ですか?」
「お願いします」
恵美は息をえながら言った。
「篠原直の事件を担当している刑事に連絡してください。10、8歳で方になりました」
警察官の顔つきが変わった。
「篠原直君?」
「はい」
彼は無線をにした。
その、もうの警察官が男へづく。
「お父さん、そのゲームを見せてもらえますか?」
「断る」
男は腕を組んだ。
「私の所物だ。令状もないだろう」
「協力をお願いしているだけです」
「警察の続きくらいっている」
その言に、若い警察官が男の顔をじっと見た。
やがて驚いたように声をげる。
「もしかして、権田修造さんですか?」
男はわずかに背筋を伸ばした。
「そうだ」
「元巡査部の?」
里子が恵美を見る。
周囲でもさなどよめきが起こった。
権田修造は、かつてこの域でく勤務していた警察官だった。70代から80代にかけて町の交番や所轄で働き、民からの信頼もかった物だという。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
壁の中の13年
平成3年、埼玉の小さな町で、妊娠8か月の美智子が突然姿を消した。 財布も出産準備の品も家に残されたまま。昼にはスーパーで買い物をし、公衆電話から誰かへ電話をかけ、その後、背の高い男と歩く姿を目撃されたのを最後に、彼女の行方は分からなくなる。 夫の誠、東京にいたはずの兄・茂、そして美智子を追い詰めていた山田家の沈黙。 警察は夫を疑い、町は噂に揺れたが、決定的な証拠は見つからないまま、事件は13年の時に埋もれていく。 しかし平成16年、再開発で古い家が解体された時、寝室の壁の内側から、長年隠されていたものが見つかった。 あの日、美智子は誰に電話をかけたのか。 そして、壁の中に封じられていたのは、彼女の行方だけではなかった――。ミステリー|真相1.8萬字5 137 -
完結第13話
消えた23人の観光団
2025年9月29日、福岡に約2700人の団体観光客が一斉に降り立った。 その日を境に、日本各地で不可解な失踪が相次ぎ始める。タクシー運転手、配達員、宿泊施設の関係者――いずれも夜、一人で行動することの多い男性たちだった。 やがて糸島の海岸で発見された身体の一部が、事件の扉を開く。 捜査を進める刑事・鈴木健二は、失踪した観光客、黒いワゴン車、古い倉庫、医療機器販売会社、そして横浜港へ向かう冷凍コンテナという、ばらばらに見えた点を追い始める。 これは単なる失踪事件ではない。 観光の人波に紛れ、日本の空き倉庫や港を利用して動いていた国際犯罪組織。その裏には、人間を“商品”のように扱う恐ろしい取引が隠されていた。 救える命はまだ残っているのか。 そして、海へ消えた男と「王」と呼ばれる人物の正体とは――。 福岡から始まった小さな違和感は、やがて日本全体を揺るがす闇へとつながっていく。ミステリー|真相2.0萬字5 131 -
完結第12話
床下の小さな指輪
1991年、群馬県山川町の古い油屋で、嫁の佐藤美優が幼い息子を残して姿を消した。 家族は「男と駆け落ちした」と証言し、町にもその噂は広まった。働き者で、息子を誰より大切にしていたはずの美優は、いつしか“子供を捨てた母親”として語られるようになる。 それから6年後。 借金で差し押さえられた油屋の離れを壊した時、床下のセメントの奥から、人骨と小さな金の指輪が見つかった。 美優は本当に家を出たのか。 なぜ姑は、離れを壊すことだけを必死に止めたのか。 そして彼女が最後まで握りしめていた指輪は、誰のためのものだったのか――。ミステリー|真相1.8萬字5 129 -
完結第11話
11年目のコロッケ
14歳の秋、黒田み咲の母・裕子は「夕飯のおかずを買ってくるね」と言って家を出たまま、二度と戻らなかった。 父は、母が家の金を盗み、近所の男と駆け落ちしたのだと親族に告げた。置き手紙も見つかり、周囲の大人たちは皆それを信じた。残されたみ咲は、“泥棒の娘”として11年間、父と継母、そして親族たちから辱められ続けることになる。 しかしある法要の日、裏山の古い井戸から、母が消えた日に買ったコロッケのレシートと、泥にまみれたカーディガンが見つかる。 母は本当に男と逃げたのか。 なぜ、継母の失くしたはずのイヤリングが井戸の底にあったのか。 そして、11年間沈黙していた“目撃者”が現れた時、黒田家が守り続けてきた嘘は音を立てて崩れ始める。 母に捨てられた娘だと思い込まされてきたみ咲が、封印された真実へたどり着くまでの、愛と復讐の物語。ミステリー|行方不明1.6萬字5 1318 -
完結第15話
灯油札の密告
2005年11月、長野県の山あいにある静かな村で、工藤家の住宅が深夜に炎に包まれた。 家の中には、父と母、そして7歳の息子。近所の人々が助け出そうと駆けつけるが、玄関には外側から鎖と南京錠が掛けられ、勝手口も角材で封じられていた。 これは事故ではない。 誰かが一家を逃げられないように閉じ込め、火を放ったのだ。 村人たちは涙ながらに犯人探しを願い、特に隣人の男は誰よりも深く悲しんでいるように見えた。だが刑事・星野は、焼け跡に残された不自然な痕跡と、その男の身体にあった小さな傷に違和感を覚える。 そして事件から数日後、町の貴金属店に持ち込まれた大量の一万円札が、捜査を大きく動かす。 その紙幣には、かすかな灯油の匂いが残っていた。 炎で消されたはずの夜に、いったい何があったのか。 そして、最後まで燃え残った“匂い”は、誰の罪を指し示していたのか――。ミステリー|遺體発見2.3萬字5 252 -
完結第10話
雪下の赤いマフラー
1998年11月12日、雪の降る旭川で、赤いマフラーを巻いた3人の女子高校生が忽然と姿を消した。 双子の美咲と南、そして親友の彩。3人は放課後の演劇部の練習を終え、いつものように学校を出たはずだった。だが、その日を境に、家族のもとへ帰ることはなかった。 捜索は続いたが、足跡も持ち物も見つからない。吹雪がすべてを消してしまったかのように、事件は未解決のまま17年の歳月が流れていく。 そして2015年。元郵便配達員の古い鞄から、17年間届けられなかった1通の手紙が見つかる。 そこには、こう書かれていた。 「私は、美咲、南、そして彩に何が起きたのか知っています」 手紙をきっかけに再び動き出す捜査。座布団の中に隠された日記、古いカセットテープ、稚内へつながる謎の手紙、そして雪深い小屋の床下に眠っていた赤いマフラー。 3人はなぜ消えたのか。 教師・田中浩は何を隠していたのか。 17年間閉ざされていた雪の中の真実が、今、静かに姿を現す。ミステリー|行方不明1.5萬字5 1136 -
完結第12話
ETCに残らない白バイ
2003年春、千葉県の高速道路を巡回していた女性白バイ隊員・水島舞が、サービスエリアで忽然と姿を消した。 監視カメラには、彼女が白バイを降りて建物へ入る姿が残されていた。だが、その18分後、白バイに乗って走り去ったのは舞ではなく、ヘルメットで顔を隠した見知らぬ男だった。 舞本人も、白バイも見つからない。料金所の記録にも、ETCログにも、その後のはっきりした足取りは残っていなかった。 結婚を控えていた婚約者、娘の帰りを待ち続ける両親、そして答えを出せないまま止まった捜査。 10年後、古い監視映像を最新技術で解析した時、画面の隅に映っていた“あるもの”が、事件を再び動かし始める。 白いバイクは、どこへ消えたのか。 そして水島舞が最後に見た人物とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 6458 -
完結第11話
雪峠の五発
2006年11月15日、長野県北部。 その年最初の雪が降り始めた高木峠へ、1人の巡査が向かった。展望台に不審な車があるという匿名通報を受け、霧谷慎也は「確認だけ」のつもりでパトカーを走らせる。 だが午後6時15分、現場到着を知らせる無線を最後に、慎也からの連絡は途絶えた。 雪の展望台に残されていたのは、鍵のかかったパトカーと、車内に置かれた制帽と手袋。慎也本人だけが、吹雪の峠から忽然と姿を消していた。 事故なのか、事件なのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、自ら山へ入ったのか。 妻と幼い娘は、答えのないまま13年を過ごすことになる。 そして2019年春。雪解けの斜面から、慎也が持っていた古い懐中電灯が見つかった。 13年間沈黙していた峠が、初めて返した小さな手がかり。 その光の先に隠されていたのは、匿名通報の本当の意味と、雪の下に封じられていた一夜の真実だった。ミステリー|行方不明1.7萬字5 1568 -
完結第13話
5枚で消された妻
1994年4月、長野県の山あいにある古いビジネスホテルで、31歳の女性・高橋美幸が冷たくなって発見された。 部屋には睡眠薬の空箱と酒の瓶。夫との離婚調停を控えていたこともあり、警察は早々に「事件性なし」と判断する。記録はわずか5枚だけ。母のよし子がどれだけ訴えても、娘の死が再び調べられることはなかった。 それから12年。 美幸の夫だった男は別の町で再婚し、真面目な父親として穏やかに暮らしていた。一方、よし子は痛む膝を抱えながら、毎年娘の墓へ通い続ける。 「娘は、自分から死を選ぶような子ではない」 誰にも届かなかったその言葉が、ある夜、古い薬物帳簿に残された一つの名前によって動き出す。 12年前のホテルで、本当は何が起きたのか。 そして、たった5枚の記録が隠していた真実とは――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 719 -
完結第13話
床下の学級日誌
1995年、福岡の小さな離島・相島に、一人の若い女教師が赴任してきた。 藤野理子、26歳。全校児童わずか11人の分校で、子どもたち一人ひとりに寄り添い、島の人々にも少しずつ受け入れられていく。だが彼女は、ある少女の腕に残る不自然な痣に気づいてしまう。 「このまま見過ごすことはできない」 そう決意した夕暮れ、理子は本土へ渡ろうとしていた。しかし、その日を境に彼女は島から姿を消す。 残された荷物、桟橋で見つかったスカーフ、そして口を閉ざした11人の子どもたち。 警察はやがて、理子が自ら島を出た可能性が高いと判断する。けれど、子どもたちは知っていた。 あの日、桟橋で本当に何が起きたのかを。 それから10年後、取り壊される分校の床下から、理子の学級日誌と万年筆が見つかる。封じられていた記憶が、静かに動き出した――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 390