"余ったパンの嘘" 第5話
「腹いっぱいなんだよ」
教でが答えたのと、まったく同じ言葉だった。
健はまだをさなかった。
そのろにいる妹は、パンをじっと見ていた。
声にはさない。
けれど線だけは、包みかられなかった。
もそれに気づいていたはずだった。
それでも妹へ直接渡そうとはしなかった。
「余ったものだから、気にするな」
健へ向かって、もう度そう言った。
ようやく健がを伸ばした。
「……ありがとう」
さな声だった。
パンを受け取ると、ろにいた妹が嬉しそうに笑った。
その笑顔を見たは、ほんのし目を細めた。
「じゃあな」
それ以居しなかった。
のを覗こうともせず、何かを尋ねることもなかった。
渡すものを渡すと、はすぐ自転の方へ戻った。
3は慌てて体を引いた。
先に見つかってはいけない。
けれどそのには、尾していることへの面さなど完全に消えていた。
の自転が砂利を戻っていく音がざかった。
3はそのからしばらくかなかった。
目ののさなでは、健がパンを持ったまま妹とへ入っていった。
戸が閉まった。
が吹いた。
トタン板がかすかに鳴った。
誰も何も言わなかった。
やがて1が、さくをいた。
「あれ……今のパンだよな」
もう1が頷いた。
「先のやつ」
「余ったんじゃないよな」
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3とも答えをっていた。
今ので、余ったパンはなかった。
誰かが余分にもらったわけでもない。
は、配られた自分のパンを最初からほとんどべず、へ包んでいた。
先が毎革鞄へ入れていたもの。
それはで余ったパンではなかった。
自に配られたパンだった。
子どもたちは、その事実をってしまった。
帰り、3は来たよりゆっくり自転をらせた。
の姿はもう見えなかった。
の煙突の向こうではが落ち、町のあちこちにかりがつき始めていた。
「健の、あそこだったんだな」
1が言った。
誰も返事をしなかった。
まで学にいた健。
なぜ欠席が増えたのか。
3は断片に聞いた噂をいしていた。
父親が病気になった。
仕事へけなくなった。
が変らしい。
ただ、それまで子どもたちは、その「変」という言葉のを考えたことがなかった。
学に来なくなった子がいる。
そう聞けば、しばらくは気になる。
しかし自分たちの毎は変わらず続く。
授業があり、があり、休みがあり、放課になればへ帰る。
健の机が空いていることにも、いつのにか慣れてしまっていた。
けれど川敷ので見た景は違った。
妹がパンを見たの顔。
健がすぐに受け取らなかったこと。
そしてが「余った」
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と言い続けたこと。
「先さ」
3のうち1が言った。
「最初から健にやるためにわなかったんだよな」
「たぶん」
「じゃあ何で、普通に『俺のパン持ってきた』って言わないんだ?」
自転をらせながら、3は考えた。
答えはすぐにはなかった。
けれどい返してみれば、健の態度にその理由が表れていた。
先自のべる分だと分かれば、健は受け取らないのではないか。
自分たちがべるために、先が毎昼をしているとれば、慮してしまうのではないか。
だからは言った。
「余ったんだよ」
余りものなら受け取れる。
捨てるはずだったものなら、もらっても相から奪ったことにはならない。
38歳の教師が、そんな言葉を選んでいた理由を、11歳ほどの子どもたちは完全には説できなかった。
それでも何となく分かった。
先は健に、「かわいそうだから持ってきてやった」とは言いたくなかったのだ。
翌朝。
3はいつもと同じように学へった。
をくぐる。
廊を歩く。
教へ入る。
はすでに教卓にいた。
「おはよう」
いつもと同じだった。
「おはようございます」
3も同じように答えた。
は顔をげたが、特に変わった様子はない。
昨自分たちがをつけていたことには、やはり気づいていないようだった。
朝の授業が始まった。
黒板へかれる文字。
鉛がを擦る音。
炭ストーブの音。
全部が昨までと同じなのに、3にはの姿がし違って見えた。
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