"実印を押さない母" 第10話
佳代子はらないふりをした。
ある夜、直から話しかけてきた。
「賃10万、本当に取るつもり?」
「ここにみ続けるならね」
「じゃあ8万」
佳代子はし驚いた。
交渉になるとはっていなかった。
「費別なら考える」
「母さん、本当にみたいだな」
「主だからね」
直は苦い顔をした。
「俺たちがたら、この広いでどうすんの?」
「それ考えてる」
「何を?」
佳代子は答えなかった。
まだ決めていないからだ。
翌週、産会社から話があった。
以査定を頼んだ担当者だった。
「佐伯様、先お話しいただいた件ですが、この辺で戸建てを探しているお客様が組いらっしゃいます。もし売却の能性があるなら、内覧だけでもいかがでしょうか」
佳代子は話を持ったまま考えた。
売る。
その言葉が、以ほど怖くなくなっていた。
夫との。
直が育った。
孫が暮らした。
いはある。
けれど佳代子は最、階へがるたびにうようになった。
になれば、このは広すぎる。
庭も変だ。
固定資産税もかかる。
古い湯器もいつか壊れる。
「内覧だけなら」
佳代子は答えた。
「お願いします」
そのから、自分のを見る目がまた変わった。
壁のさな傷。
廊の幅。
駅までの距。
庭の当たり。
今まで「自分の」だった所を、「軒の産」として見るようになった。
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議としくはなかった。
むしろ、自分がを所しているのではなく、に自分が縛られていた部分もあったのかもしれないとった。
数。
直が帰宅し、玄関に置かれた産会社のスリッパを見つけた。
「誰か来た?」
「産さん」
直の顔が変わった。
「何で?」
佳代子は噌汁をみながら答えた。
「、売るかもしれないから」
直の鞄がへ落ちた。
「聞いてないんだけど」
直はコートも脱がず、リビングへ入ってきた。
「今言ったでしょう」
佳代子は茶碗を置いた。
「そういうじゃない! 何で勝に売る話めてんだよ」
「私のだから」
何度目かの言葉だった。
今回は、直も言い返した。
「俺の実でもあるだろ!」
「そうだね」
「俺が育っただぞ」
「そうだね」
「じゃあ何で」
佳代子は息子を見た。
「実って、んでたが自由に決められるなの?」
直が黙った。
「あなたがここで育ったことはなくならないよ。でも、所者は私」
「の話ばっかりじゃん、最」
「名義変更したいって言ったのはあなたでしょう」
また止まった。
美が階段をりてきた。
「どうしたの?」
直が言った。
「母さん、売るって」
美の顔からが引いた。
「本当に?」
「まだ決めてないよ」
佳代子は答えた。
「でも検討してる」
「私たちがていけば、でむんじゃなかったんですか?」
「それも考えた」
「じゃあ何で」
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「広すぎるから」
佳代子は淡々と説した。
駅にい古マンションを件見たこと。
つは2LDKで、エレベーターがあり、スーパーまで徒歩3分。
管理費と修繕積はかかるが、庭の入れは必ない。
を売ったからマンション代と諸費用を引いても、老資をかなり残せる見込みであること。
直は途から、信じられないものを見る顔になった。
「もうマンション見たの?」
「うん」
「俺たちがらないに?」
「あなたたちも私がらないに取り作ったでしょう」
美が唇を噛んだ。
「それとこれとは」
「私は同じだとう」
佳代子は鳴らなかった。
鳴る必がなかった。
「売った、どうするつもり?」
直が聞いた。
佳代子は瞬、自分のを疑った。
「どうするって?」
「マンション買って余るんだろ?」
美が直を見た。
「直」
しかし遅かった。
佳代子は息子をじっと見た。
「あなた、今それ聞く?」
直自も失言だと分かったらしい。
「いや、そういうじゃ」
「どういう?」
「俺たちだって引っ越しでかかるし」
佳代子は、そこでようやく笑った。
きな声ではない。
呆れた笑いだった。
「、半だけって言ってここへ来た、敷礼も引っ越し代も浮いたでしょう」
「だから活費入れてたじゃん」
「でいくら?」
直は答えられなかった。
佳代子はノートを持ってきた。
ごとの額がいてある。
最初のは5万円。
次のから3万円。
計を示した。
「あなたたちから受け取ったのはで132万円」
直がノートを見た。
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