みかん小説
本棚

"実印を押さない母" 第6話

典子がし困ったように笑った。

「でも佳代子さん、なら分じゃない?」

初めての名で呼ばれた。

はいつも「お母様」だった。

「荷物も減らしていかないとね。歳取ると物いと危ないし」

のような調だった。

佳代子は頷いた。

「そうですね」

「将来は段差ないマンションの方が楽かもしれないけど」

典子が何気なく言った。

がすぐに母親を見る。

「あ、それはまだ先の話だから」

まだ先。

否定ではなかった。

佳代子は湯呑みを持ちながら聞いた。

「どういうマンション?」

瞬静かになった。

が笑顔を作る。

「ほら、将来ですよ。お義母さんがもっと齢になったら、ここより便利なところもあるじゃないですか」

「私がここをたら、あなたたちはどうするの?」

「その考えますよ」

「この売る?」

がリビングから入ってきた。

「母さん、何でそんな話になってんの」

「聞いただけ」

「今はリフォームの話だろ」

佳代子は直を見た。

「私のだけどね」

の空気が変わった。

誰もすぐに返事をしなかった。

が苦笑した。

「分かってるって。だから名義の話してるんじゃん」

が逆ではないだろうか。

自分のだから名義を変える。

佳代子には、やはり分からなかった。

そのの夕は、佳代子が作らなかった。

の両親は帰り、直だけになっていた。

「今、何?」

広告

蔵庫をけながら聞いた。

「何も作ってない」

「何で?」

「疲れたから」

「じゃあ何べるの?」

佳代子はテレビを見たまま答えた。

「私は凍うどんべる」

がしばらくっていた。

「俺たちは?」

「好きなものべたら」

それだけだった。

は何も言わず、宅配ピザを注文した。

30分、玄関にきな箱が届いた。

子どもたちはんだ。

佳代子は台所で、うどんをべた。

寂しいとはわなかった。

むしろ久しぶりに、自分がべたい量だけ作り、自分のべた。

翌朝から、佳代子はしずつ事を分け始めた。

「今週から、みんなの洗濯は美さんお願いね」

の席で言った。

が顔をげた。

「急にどうしたんですか?」

「腰痛いが増えたから」

本当ではなかった。

しかし全くの嘘でもない。

67歳なのだから、いつ痛くなってもおかしくない。

事も平だけ作る。あとはそれぞれで」

が眉を寄せた。

「名義の件でってる?」

「違うよ」

「じゃあ何で急に」

佳代子は噌汁をんだ。

「今まで私がやりすぎただけ」

族なんだからいいだろ、それくらい」

その言葉がた。

佳代子は息子を見た。

なら言い返さなかった。

そのは違った。

族だから、あなたもやればいいでしょう」

は黙った。

杏奈がを向いて笑いをこらえていた。

は何も言わなかった。

そのから、の空気はし悪くなった。

広告

佳代子には、それでよかった。

ずっと空気を守るために、自分だけがいていたことにようやく気づいたからだ。

事を減らしただけで、庭の満は驚くほどく表面にた。

、美は洗濯回回したあと、「こんなに洗濯物かったんだ」と呟いた。には直が杏奈を塾へ迎えにき、帰宅が8を過ぎたことで「平にこれはきついな」とこぼした。の夕はスーパーの惣菜になり、悠斗が「ばあばの唐揚げがいい」と言った。

なら、孫にそう言われれば翌作った。

今回は、

にね」

と答えた。

の顔がし曇った。

佳代子は初めて気づいた。

自分が事をやめただけで、誰かが困る。

それは、自分が今まで何もしていなかったのではない証拠でもあった。

ある夜、直が佳代子の部へ来た。

ノックはしたが、返事を待たずに入ってきた。

「母さん、ちょっと話いい?」

「何?」

「最さ、何か満あるなら言ってよ」

佳代子は本を閉じた。

「特にないよ」

「ないわけないだろ。事急にやめたり」

「やめてないでしょう。減らしただけ」

「美も仕事してるんだよ」

「私も67歳よ」

がため息をついた。

「そういうことじゃなくてさ。みんなで助けおうってこと」

佳代子はし笑った。

「私は誰に何を助けてもらってる?」

が止まった。

「いや、俺だって庭とか」

回ね」

い物買うとか」

「この米買ってくれたね。おは私がしたけど」

「母さん、そんな細かいだった?」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: