"母に届かなかった10円" 第2話
10円とはいえ誰かが置いたものだ。何のためのなのかも分からないのに、競争して持っていくのはどうなのかとった。
ある朝、先をってきたが10円玉をつまみげると、森田は聞を並べるを止めた。
「おい。それ、勝に持っていくんじゃない」
は驚いて振り返った。
「でも、いつも置いてあるよ」
「だからって、おのじゃないだろ」
「誰の?」
そう聞き返されると、森田も答えられなかった。
誰の10円玉なのか。
それこそ自分がりたいことだった。
「とにかく、遊びで取るな」
森田がそう言うと、はし満そうに10円玉を元の所へ戻した。
子どもたちがったあとも、森田はしばらく公衆話を眺めていた。
毎きちんと置くということは、置いている本にとって何かがあるのだろう。たとえ10円でも、それを子どものお菓子代にされるのは本ではないかもしれない。
しかし、本が名乗りることはなかった。
森田は何度か、朝いつもよりく駅へってみた。
だが、そのに限って仕事の準備に追われて目をした隙に置かれていたり、逆にすぎて何も見つからなかったりした。
誰かが目を避けて置いているようにもえた。
がくなったある25、森田がをけたには、もう10円玉があった。
表面には朝のような湿り気がわずかについていた。
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かなりいに置かれたらしい。
森田は聞の束をほどきながら、駅をき交う々の顔を眺めた。
配の男性。
学。
主婦らしい女性。
仕事へ向かう会社員。
誰もがいつも通りに見える。
このに、あの10円玉を置いたがいるのだろうか。
そのは、昼頃になっても10円玉は残っていた。
話を使うは何もいたが、皆、自分の財布から貨をしていた。
夕方、森田が片づけを始める頃にはなくなっていた。
誰が使ったのかは分からなかった。
別のには、朝くになくなった。
また別のには、学が見つけて森田へ教えに来た。
「おじさん、今もあるよ」
「分かった。触るなよ」
「誰が置いてんの?」
「らん」
「幽霊じゃない?」
「幽霊が10円置いてどうするんだ」
子どもたちは笑いながら学へ向かっていった。
森田自も、いつのにか25を待つようになっていた。
今も置かれるのか。
ある突然、なくなるのか。
何かも続くと、それは駅の常の部になった。
ところが、誰も理由をらないままだった。
10円玉にはも添えられていない。
誰かに使ってほしいとも、拾わないでほしいともかれていない。
ただ枚。
毎同じに置かれているだけだった。
そしてが来た。
朝のえ込みが厳しくなり、公衆話のガラスにもくい曇りが残る季節になった。
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森田はある25、いつもよりずっとく目を覚ました。
なぜか、そのはもう度だけ確かめてみようという気になった。
聞の準備にはまだしかったが、い着を着て駅へ向かった。
空はまだ完全にはるくなっていなかった。
駅を歩くもまばらだった。
公衆話の横には、まだ何もない。
「今は俺の方がかったか」
森田はそう呟き、の鍵をけようとした。
そのだった。
界の端で、1の女が公衆話のにち止まった。
女は50代半ばほどに見えた。
派な装ではない。物のなコートを着て、腕には買い物籠を提げていた。
森田はのできを止めた。
女は話をかける様子ではなかった。
公衆話のへ来ると、まず駅の入りを見た。それから聞の方にも目を向け、周囲にがいないことを確かめるようにさく首をかした。
森田は反射に物へ隠れたわけではない。
ただ、声をかけるのをし待った。
女はコートのポケットから財布を取りした。
さく古びた財布だった。
をき、を指で探す。
そして取りしたのは、10円玉だった。
森田は息を止めるように見ていた。
女はその10円玉を、公衆話の横へそっと置いた。
投げるわけでもない。
落とすわけでもない。
位置を確かめるように指先で度触れ、いつもの所へ置いた。
その仕を見た瞬、森田のに残っていた疑いは消えた。
このだ。
何かも、あるいはもっとから、毎25に10円玉を置き続けていたのは、この女だった。
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