"売らなかった紙" 第10話
と断った。
田辺では寝たきりだった夫の体調がし定し、妻が久しぶりにへ顔をした。の赤ん坊は丸々と太り、母親の背におんぶされてへ来るようになった。医院の院夫は、今でも源蔵を見るたび「あのは助かった」と言った。
ある、本がへ入り、棚のトイレットペーパーを包取った。
「もう個買おうかとったけど、まだにあるからええわ」
わざわざ源蔵へ言う。
「好きにしたらええがな」
「ちょっとは褒めてよ」
「何をや」
「成したやろ」
本は笑い、源蔵も仕方なさそうに笑った。
そのやり取りを見ていた澄は、あの騒ぎのとで町が何か劇に変わったわけではないとった。は相変わらず売りがあれば並ぶし、値げすると聞けばめに買う。自分の族を守りたいという気持ちも、になったにしく持ちたくなる気持ちも、簡単に消えるものではない。
ただ。
度だけ。
いす。
ように。
なった。
自分が。
もうつ。
取れば。
そのろの。
誰かに。
届かない。
かもしれない。
その像を。
するが。
しだけ。
増えた。
それで分なのだと、澄はった。
数、商のくに型スーパーができた。品揃えも価格も丸福商より優れており、若い庭をにそちらへ流れる客も増えた。浩が配していた通り、さなには厳しい代がしずつづいていた。
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それでも丸福商には、毎決まった客が来た。
「噌、いつもの」
「昆布枚ちょうだい」
「源蔵さん、これまで持ってきて」
値段だけなら。
もっといが。
ある。
種類なら。
もっといが。
ある。
それでも。
ここへ来る。
理由を。
源蔵は。
尋ねなかった。
商売が。
自分から。
聞くことでは。
ないと。
っていた。
昭4811。
本が「物がなくなるかもしれない」というに包まれていた頃、さな商の主がトイレットペーパーを売らなかった夜があった。
客をらせ。
疑われ。
売れるはずの商品を。
棚へさず。
たい夜を。
自転でった。
商売として。
正しかったのか。
源蔵自にも。
最まで。
分からなかった。
ただつ、彼には譲れないものがあった。
品物がりないに、へく来られるだけが得をするのではなく、へ来られないほど困っているにも届いてほしい。それは派な理というより、戦の物をるの商売が、いのでにつけたさな覚だった。
はになると、自分の分を確保したくなる。族のためにつく持っておこうとい、その「つく」が何百、何千となれば、本当に棚から商品が消えることもある。
だから源蔵は。
晩だけ。
売らなかった。
そして。
翌朝。
いつもの。
値段で。
包ずつ。
売った。
それから何も経った、澄がの古い帳を理していると、枚の黄ばんだが引きしの奥からてきた。
墨はくなっていたが、そこには源蔵の器用な字がまだ残っていた。
「族包まで。いつもの値段です」
そのには、さな文字でこう続いていた。
「の悪い方、ご病気の方は申してください。お届けします」
澄はそのをしばらく眺めた、捨てずに元の引きしへ戻した。
世のを変えた来事ではない。
歴史の教科にも。
載らない。
けれど。
物がりないと。
誰もが。
になった。
あの。
町の片隅に。
く来たより。
本当に。
必なへ。
先に。
届けようとした。
器用な。
商売が。
確かに。
いた。
そして丸福商の棚から商品が消えた、々のに残ったものは、ではなかった。
誰かの分をつだけ残しておくという、さな慮だった。