"売らなかった紙" 第6話
昨とは違うざわめきが広がったが、源蔵は何も説せず、になるといつものように戸をけた。
最初の客は、に「度と来ない」と言って帰った本という女性だった。彼女はし気まずそうにへ入り、棚へされたトイレットペーパーを包だけ持って帳へ来た。源蔵は昨のことなどなかったように代を受け取り、いつもの袋へ商品を入れた。
「値段……げてないんやね」
本がぽつりと言った。
「昨と同じや」
「そう」
本は財布をしまったも、しだけそのに残った。
「昨は、悪いこと言うたね」
「別にええ」
「私、にまだつあったんよ」
源蔵は顔をげた。
「でも、なくなるって聞いたら急に怖うなって。もっと買っとかなあかん気がして」
「そういうもんやろ」
責めるような言い方ではなかった。
本は度をげてをた。
次の客も包だけ。
その次も包だけだった。
ところが列の途で、の男性が「うちは世帯やからつええやろ」と言いした。源蔵が「今は族つで頼む」と断ると、男性は満そうな顔をした。
その、ろに並んでいた配の女性がをいた。
「つでええやないの。なくなったらまた買えば」
昨なら聞かれなかった言葉だった。
男性は何か言いかけたが、周囲の線をじて諦めた。
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のでは、列が昨よりくなっている。それでも議なことに、鳴り声はほとんど聞こえなかった。自分の番が来ると包受け取り、ろのへ所を譲るという流れが自然にでき始めていた。
午9頃、医院の院夫がへ来た。昨届けてもらった代を払いながら、周囲に聞こえる声で「昨夜はありがとうございました」とをげた。
「患者さんがいるから本当に助かりました」
その言で、何かの客が源蔵を見た。
「昨夜?」
が尋ねた。
院夫は昨のことをらなかったらしく、「福田さん、夜に持ってきてくれたんです」と答えた。
内がし静かになった。
続いて。
吉田しげの。
隣。
田辺。
。
話が。
しずつ。
伝わった。
ただし、誰も源蔵から聞いたわけではなかった。
所の同士。
「あそこにも届けたらしい」
「あのにも」
と。
広がっていった。
昨、のでっていたたちのには、気まずそうに目を伏せる者もいた。自分たちがつでもく買おうとしていた、源蔵はへ来ることすらできないのことを考えていたとったからである。
しかし源蔵本は、そんな空気など気にしていないようだった。
「次の」
いつもと同じ声で客を呼び、代を受け取る。
それだけだった。
昼。
棚にした分は。
ほとんどなくなった。
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最の包を買ったのは、学くらいの男の子だった。母親に頼まれて来たらしく、銭を握ったを何度も確認しながら帳へ差しした。
「おっちゃん、これでりる?」
源蔵は貨を数えた。
「りるで」
そして商品を袋へ入れた。
男の子は事そうに胸へ抱えて帰っていった。
源蔵は空になった棚を見た。
「売り切れやな」
澄が言う。
「せやな」
「昨より気分ええ?」
「何が?」
「みんなつずつ買うたこと」
源蔵はし考えてから首を振った。
「今だけかもしれん」
澄は笑った。
夫は最まで。
を褒めるのも。
自分を褒めるのも。
苦だった。
丸福商がトイレットペーパーを晩売らず、必なへ届けたという話は、数のうちに商のまで広がった。げさな美談として語るもいれば、「商売なら売れるに売るべきだった」と批判するもいたが、源蔵はどちらにも興を示さなかった。聞記者が来たわけでも、表彰されたわけでもなく、翌からまた昆布を量り、噌を包み、醤油瓶を客へ渡す毎に戻っただけだった。
それでも、へ来るの買い方はし変わっていた。洗剤が入荷したも、以なら箱欲しがっていた客が「つでええわ」と言い、砂糖が届いたには常連同士で「ろのの分も置いとかな」と声を掛けう面が見られた。
恐怖が完全に消えたわけではないが、なくとも丸福商のでは、「全部なくなるに自分が取る」という空気がしくなっていた。