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"不機嫌夫の末路" 第4話

「へえ」とく返すだけだった。

目をわせることもしなかった。

ひなはそれでも父親の嫌を取るように、いつもよりたくさん話した。

「今ね、さきちゃんが転んじゃったの。でも先がばんそうこう貼ったんだよ」

「そう」

「ひなね、お伝いしたよ」

「へえ」

「パパ、聞いてる?」

「聞いてる」

その声には温かさがなかった。

、ひながの膝に乗ろうとした。

はほんのし体を横へずらした。

骨に払いのけたわけではない。

けれど4歳の子どもには、それで分だった。

ひなはきを止め、何も言わず私のそばへ来た。

胸が痛んだ。

同士のことならまだできた。

私が謝ればいい。

私が気をつければいい。

ずっとそう考えてきた。

でも、ひなは違う。

この子は何もしていない。

それでも、その状態は1週続いた。

ある夜、ひなを寝かしつけていると、布団のからさな声が聞こえた。

「ママ」

「なあに?」

があった。

「パパ、ひなのこと嫌いになっちゃったの?」

胸の奥をく掴まれたようだった。

「そんなことないよ」

すぐに答えた。

けれど、自分の声が震えているのが分かった。

ひなはそれ以何も聞かなかった。

したのかもしれない。

それとも、聞いても仕方がないとったのかもしれない。

暗い部で目を閉じている娘を見つめながら、私は初めてった。

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今回は、いつもと違う。

今までは私が謝れば元に戻った。

でも今は戻らない。

そして、の沈黙はひなにまで向かっている。

そのだった。

ひなの怯えたような顔を見ているうちに、ずっとの奥へ押し込めていた古い記憶が突然よみがえった。

それは、幼い頃の実卓だった。

父が無言でご飯をべている。

何が原因で嫌なのかは分からない。

母は父の顔をうかがいながら、いつもよりるい声をしていた。

「お父さん、今はお魚にしたよ」

父は返事をしない。

箸を置く音。

噌汁をすする音。

茶碗がテーブルへ置かれるさな音。

それしか聞こえない卓だった。

幼い私は怖くて、うまく箸をかせなかった。

ご飯をへ入れてもがしない。

何か話したら父がさらにるかもしれないとい、黙って俯いていた。

事が終わってほしい。

父が席をってほしい。

ただそれだけを考えていた。

、母が恐る恐る言った。

「お呂、沸いてるよ」

父は返事をしなかった。

無言でがり、そのまま部へ消えた。

ドアが閉まったあと、母がさくため息をついた。

ほんのい音だったのに、私は今でも覚えている。

別のの朝もそうだった。

父はリビングで聞を広げていた。

母が何か予定について相談しようとした。

「今、望美のことでちょっと話があるんだけど」

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父は聞から目をげなかった。

母はしばらく待った。

返事はない。

すると母の方から言った。

「ごめんね。今忙しいよね。またでいい」

私は子どもながらに分かっていた。

母は父にられないように暮らしている。

何かを頼むに顔を見る。

話しかけるを選ぶ。

嫌が悪ければ、自分から謝る。

それが普通の夫婦なのだとっていた。

私も同じように父の嫌を読むようになった。

父がリビングにいるはテレビの音をさくした。

を歩く音をてないようにした。

ドアはそっと閉めた。

笑うも、きな声にならないように気をつけた。

何が父をらせるのか分からなかったからこそ、何もかもが怖かった。

ある、本気で考えたことがある。

もしかしたら、私がいるから父はっているのではないか。

私がうるさいから。

私が何か悪いことをしたから。

私という子どもがいなければ、父と母はもっと仲良く暮らせるのではないか。

もちろん、今なら違うと分かる。

でも当の私は、その「分からなさ」ので暮らしていた。

何をしたら正解なのかも分からず、ただの顔を読み続けていた。

その覚は、になってからも完全には消えなかった。

取りすこともできず、捨てることもできない。

さな棘のように、ずっとの奥へ残っていた。

両親は、私がの頃に婚した。

私は母と暮らすことになり、父とはそれ以来度も会っていない。

婚について、母と詳しく話したことはなかった。

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