"消えなかった500円" 第9話
あなたの500円で育った子どもが、今は自分の庭を持っているよ。
あなたが黙って続けていたことは、ちゃんと届いていたよ。
しかし正雄はもういない。
は仏壇のへった。
写真のの正雄は、いつもの無な顔をしている。
「、来たよ」
は声をかけた。
「昭夫さんの息子さんから」
線を本てる。
「みんなになったって」
煙が細くがった。
「よかったね」
は正雄の写真を見つめた。
そして、しだけ笑った。
「でもね、あなた」
声が震えた。
「やっぱり言くらい言ってくれてもよかったんじゃない?」
もちろん返事はない。
「私、本気で競馬やってるとったこともあったんだから」
は笑いながら涙を拭いた。
「女のかもしれないってったこともあるよ」
もし正雄がそこにいたら、
馬鹿なこと言うな。
と眉をひそめただろう。
それすら懐かしかった。
はあの学ノートを仏壇の横へ置いた。
昭424。
500円。
5。
500円。
6。
500円。
同じ数字が何も続いている。
たった3文字。
そこには、
困っている仲へ。
病気の仲の妻へ。
学へく子どもたちへ。
そんな説はつもかれていない。
ただ数字だけだった。
正雄にとっては、それで分だったのだろう。
誰かに読ませるための記録ではなかった。
自分が今も忘れずに渡したことを確認するため。
誰の分を預かり、いくら送ったのかを違えないため。
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だから善についてく必などなかった。
はノートを閉じた。
その、ずっと胸のに残っていたさな棘が、ようやく抜けたような気がした。
若い頃のは、毎500円が消えているとっていた。
計から失われる。
用途の分からない。
夫が妻に隠して使う。
だから腹がった。
だからだった。
けれど本当は違った。
その500円は消えていなかった。
毎、正雄の財布から別の封筒へ移り、郵便局を通り、京のどこかにある軒のへ届いていた。
そして米になった。
噌になった。
学の集になった。
子どもの薬になった。
もしかすると、寒いのの練炭になったこともあったかもしれない。
佐々のちゃぶ台から見れば、毎500円がなくなっていた。
しかし別のちゃぶ台のでは、その500円によっての暮らしがつながっていた。
昭の男は器用だった。
正雄も、まさにそうだった。
助けていることを妻にさえ言わない。
誤解されても説しない。
褒められたいともわない。
ただ末になると料袋をき、そのから枚の500円札を抜いた。
それを何も続けた。
は、仏壇のからちがった。
台所へき、夕の支度を始める。
分になった噌汁。
分の焼き魚。
昔に比べれば、べるものに困ることはなくなった。
蔵庫には材がある。
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通帳にはしばかりの貯もある。
代も暮らしも変わった。
けれど、包丁で根を切っていると、ふと昭42のさな借が浮かんだ。
ちゃぶ台の。
茶い封筒。
札を数える自分。
聞を広げる正雄。
「あなた、500円どうしたの」
「ちょっと使った」
あのの夫にもう度会えるなら。
は今度はらずに聞くだろう。
「誰かのためなんでしょう?」
そう聞けば、正雄はどんな顔をしただろう。
困ったように黙るかもしれない。
それでも最まで言わなかったかもしれない。
は包丁を置き、さく笑った。
「まあ、あなたなら言わないか」
夕暮れのが台所へ差し込んでいた。
20以たって初めて分かった、毎500円のき先。
それは酒でも、競馬でも、正雄の財布のでもなかった。
同じ代を懸命にきていた、もうつの族の卓だった。
そして、そこで育った3の子どもたちの未来へ、確かにつながっていたのである。
はその夜、事を終えてから、もう度仏壇のに座った。学ノートと昭夫の男から届いたを、正雄の写真の横へ並べてみる。若い頃なら、夫婦なのだから何でも話すべきだとっていたし、隠し事をされることそのものが許せなかった。けれど70くきてきた今は、にはにしないからこそ守れるものもあるのだと、しだけ分かる気がした。
それでも、正雄のやり方が正しかったとはわない。
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