みかん小説
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"消えなかった500円" 第5話

「お父ちゃん、どうしよう」

正雄は即答した。

かせろ」

「でも学費が」

「俺が残業する」

「体、壊すよ」

「まだ平気だ」

実際、正雄は残業を増やした。

帰宅が遅くなる。

を温め直すで、黙々と飯をべる。

の指にはさな切り傷が増えた。

はそんな夫を見ていると、昔ほど500円のことをく責められなくなった。

正雄は族のために働いている。

それだけは違いなかった。

それでも料が現で渡されている、毎500円だけは抜かれ続けた。

料が増えても500円。

残業代がついても500円。

あるが冗談半分で言った。

「あなたの500円、ずいぶんいね」

正雄は噌汁をみながら答えた。

「そうか」

「もう何よ」

「さあな」

「自分で数えてないの?」

「数えてない」

「何に使ってるのかも、まだ秘密?」

正雄の箸が瞬止まった。

「秘密ってほどじゃない」

「じゃあ言えばいいのに」

正雄は答えなかった。

は苦笑した。

なら腹がった。

今は、

また始まった。

うだけになっていた。

やがて正雄は別のへ移った。

よりきな会社だった。

与体系も変わった。

振込が始まった。

、茶料袋を持ち帰ることがなくなった。

初めての通帳を見たは妙なじがした。

「何だかってじしないね」

「そうか?」

「封筒を数えないから」

「楽でいいだろ」

「まあね」

その頃には、500円のことも自然に話題へらなくなった。

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もパートにるようになった。

娘たちはを卒業し、は会社勤めを始め、もうも専んだ。

狭かった借からも引っ越した。

さいながらも、呂のついただった。

「もう銭湯かなくていいね」

が言うと、正雄はしいを見ながら、

「掃除が増えるな」

と言った。

「そういうこと言う?」

族で笑った。

しずつざかっていった。

の煙突も減った。

にはが増えた。

娘たちは嫁いだ。

孫もまれた。

正雄は相変わらず無だった。

孫が来ても、

「うるさいな」

と言いながら、帰るにはこっそり菓子を持たせた。

には、そんな夫の器用さが分かるようになっていた。

ただつ。

あの500円だけは、最まで分からなかった。

正雄が定を迎えた頃、体はずいぶんさくなっていた。

旋盤のっていたせいか、腰を痛めていた。若い頃は太かった腕も細くなり、作業着を脱いだ正雄は、っていた以老いて見えた。

から何するの?」

退職したの夜、が聞いた。

「何もしない」

にいる気?」

「悪いか」

「邪魔にならないでよ」

正雄は珍しく笑った。

「分かった」

翌朝。

が起きると、正雄はいつもの刻に目を覚ましていた。

の習慣は変わらない。

ただ、作業着へ着替えない。

弁当箱もいらない。

正雄は居聞を広げた。

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は台所からその姿を見て、妙な気持ちになった。

も、

ってくる。

いってらっしゃい。

を繰り返した。

それが突然なくなる。

夫婦とは議なものだとった。

若い頃は500円のことで何をきかなかった。

それが今では、同じ部にいて何も話さなくても苦にならない。

ある

が押し入れを理していると、古い茶い封筒がてきた。

「懐かしい」

料袋だった。

40代。

正雄の名

名。

は笑った。

「あなた、覚えてる?」

「何を」

「これ」

正雄が鏡をかけ、封筒を見る。

「ああ」

料袋」

「そうだな」

「毎500円抜いてた頃の」

正雄の目が、ほんのしだけ止まった。

は気づいた。

「まだ覚えてるんでしょう?」

「何をだ」

「何に使ってたか」

正雄は封筒から目を逸らした。

「昔のことだ」

「もう効なんだから教えてよ」

したことじゃない」

「だったら言えるでしょう」

正雄はしばらく黙った。

し笑いながら待った。

今さらるつもりなどない。

女だったと言われても、たぶん笑える。

競馬だったとしても、

あなたもそんなことしてたのね。

で終わるだろう。

だが正雄は最まで言わなかった。

「忘れた」

「嘘」

「本当に忘れた」

「あなた、都悪くなるとすぐそれだね」

料袋を箱へ戻した。

それが、500円について夫婦が交わした最の会話になった。

正雄は体調を崩した。

最初は邪だとっていた。

欲が落ちた。

病院へく回数が増えた。

入退院を繰り返すようになった。

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