"終電の風呂敷" 第6話
と笑った。
「佐々さんのこと?」
「名、佐々さんっていうんですか」
は驚いた。
毎晩会っている女たちは。
トキの名をらなかった。
「みんな、おばちゃんって呼んでます」
幸子は当然のように答えた。
「聞かなかったの?」
「聞いたら、名なんかどうでもいいって」
はその言葉に。
4。
トキの娘を病した。
名の分からない女性をいした。
「所のおばちゃんでいいの」
同じだった。
トキは。
自分を助けてくれたの名をらないまま。
そのと同じように。
名を残さないことを選んでいた。
幸子は青森から来ていた。学を卒業した、同じの女3と緒に京し、そのうち2は別のへ配属されたため、今ではほとんど会えないという。
「最初、京ってもっと楽しいところだとってました」
幸子は改札横で、し照れたように笑った。
映画館。
百貨。
ネオン。
テレビで見る京には。
何でもある。
そうっていた。
だが実際には。
朝起きてへき。
働いて寮へ戻る。
料になれば。
母親へ仕送りをする。
「には弟が3いるから」
幸子はそう言った。
「番がまだ学に入ったばっかりで。私がし送れば、学用品くらい買えるって母ちゃんが言うから」
「自分の分は?」
が尋ねると。
幸子は笑った。
「私は京にいるから丈夫」
その言葉を聞いた瞬。
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は。
トキの娘も。
きっと同じことを言っていたのだろうとった。
丈夫。
配しないで。
元気だから。
親元をれた子供たちが。
故郷をさせるために使う。
い嘘。
「でもね」
幸子は続けた。
「夜勤が終わって寮に帰った、おばちゃんがいると、ちょっとだけに帰ったみたいなんです」
は何も言えなかった。
やがて発ベルが鳴り。
幸子は慌ててホームへっていった。
その背を見送りながら。
は初めて。
トキが運んでいるものは。
握り飯だけではないのだとった。
がけ、昭37がづく頃になっても、トキは終に乗り続けた。のはなかったが、夜のえ込みは厳しく、ホームにっているだけで指先の覚がなくなるほどだった。それでも午1138分になると、の着物と黒い羽織が待へ現れた。
は、なぜ昼に届けないのかという疑問を以から抱いていた。女子寮へくだけなら、るいうちの方が全だし、終を使う必もない。事なら夕方に届けておけば、夜勤を終えた女たちが帰ってからべられるはずだった。
ある夜。
はそのことをトキに尋ねた。
「昼じゃ駄目なんですか」
トキは銭を数えていたを止めた。
「昼に持っていけば、終に乗らなくても済むでしょう。毎晩遅いですし、帰りも変じゃないですか」
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実際、トキは握り飯を配った、女子寮の管理でし休ませてもらい、の朝便に乗るので原町くまで送ってもらっていた。それをったは、なおさら昼にけばいいとった。
だが。
トキの答えは。
あまりにも簡単だった。
「お腹がすくのは、仕事が終わったでしょう」
それだけだった。
は返す言葉を失った。
トキはさらに説した。夜勤に握り飯を置いていけば、女たちは慮してをさないかもしれないし、昼番の者がべてしまうこともある。何より、疲れて寮へ戻った瞬に温かいものを受け取ることにがあるのだという。
「ね、お腹がすいたに『べなさい』って渡されるのが、番嬉しいんですよ」
トキはそう言って笑った。
は母親のことをいした。
実へ帰れば。
が遅くても。
母親は「何かべるか」と聞く。
腹が減っていないと言っても。
台所から何かを持ってくる。
その当たりの為を。
の女たちは。
15歳や16歳で失っていた。
トキは。
それをしだけ。
代わりにやっている。
そんな々が続いたある晩。
午1138分になっても。
トキが来なかった。
は窓から待を見た。
誰もいない。
1140分。
1142分。
終の到着まで。
あと数分。
「今は来ないんじゃないか」
森田が言った。
はなぜか。
落ち着かなかった。
毎来ることが当たりになっていた。
のも。
のも。
休まなかったが。
突然来ない。
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