みかん小説
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"終電の風呂敷" 第1話

36京のれにある原町駅は、都の駅とはまるで別のが流れているような所だった。駅にはと乾物、それにさな堂が軒あるだけで、そこからし歩けば畑と宅が入り交じる景になる。れば未舗装のにはたまりができ、の朝には畑のった。

駅舎も古かった。枠の窓の切符を売り、改札では駅員が鋏を鳴らして枚ずつ切れ込みを入れる。らしいといえば事務に置かれた油ストーブくらいで、夜になるとホームを照らす裸球の黄が、えた線に頼りなく落ちていた。

その駅に、の老婦が毎晩やって来るようになったのは、まり始めた頃だった。齢は60代半ばほどで、の着物に黒い羽織をね、柄な体をかがみにして歩いていた。にはいつも紺呂敷包みを提げており、その包みだけはも変わらなかった。

彼女が現れる刻も、ほとんど決まっていた。午1138分、最終原町駅に到着する10分ほどになると、待の引き戸が静かにく。老婦は誰とも話をせず、そのまま窓へ来て、銭入れから貨を取りした。

まで、枚お願いします」

にいた若い駅員、は、最初の数は何も気にしなかった。

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駅までは2駅先で、昼なら員や買い物客が頻繁に利用する区だったからだ。ただ、同じ老婦が毎晩、終だけを選んで乗るようになると、さすがに気になり始めた。

「また、あのお婆さんだな」

隣で帳簿をつけていた先輩駅員の森田が、ある夜さく言った。が頷くと、森田は窓のへ目を向け、ホームの端につ老婦を見ながら首を傾げた。

「昼度も見ないんだよ。毎晩、終だけだ」

駅の周辺には、きな部品がいくつも並んでいた。度成期を迎えた京ではりず、陸からを卒業したばかりの女が勢働きに来ていた。昼は活気のある町だったが、夜11を過ぎると商はすべて閉まり、の煙突と寮の窓かりだけが残る。

そんな所へ、老婦は毎晩向かっていた。しかも、必ずきな呂敷包みを抱えている。帰りのはもうないから、度終に乗れば、その晩はの町で過ごすことになるはずだった。

は何度か、呂敷の像した。娘か息子のへ洗濯物を届けているのかもしれないし、夜勤の族へ弁当を運んでいるのかもしれない。あるいは、表向きには言えない商売でもしているのだろうかと、若い駅員らしい勝像を巡らせることもあった。

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ただつ、議なことがあった。

老婦は帰りの切符を買わなかった。

翌朝の始発に乗って戻ってくる姿を見たという駅員もいなかった。にもかかわらず、次の夜になると午1138分きっかりに原町駅へ現れ、何事もなかったように同じ切符を買う。

まで、枚お願いします」

その声を聞くたび、の疑問はしずつきくなっていった。

ある夜、切符を渡すい切って尋ねた。

「毎晩、ずいぶん遅くまで変ですね」

老婦瞬だけ目を丸くしたが、すぐに穏やかに笑った。呂敷を両で抱え直し、「したことじゃありませんよ」とだけ答えると、改札へ向かった。

それ以は聞けなかった。

鋏を入れた切符を返すと、老婦さくげた。そのままホームの同じ所へち、やがて暗の向こうからづいてくる最終の灯りを待った。

は改札ちながら、紺呂敷を見つめていた。

その包みが、なぜ毎晩終に乗らなければならないのか。

彼が答えをるのは、に入ってからのことだった。

原町駅に勤め始めたのは、そのだった。20歳になったばかりで、実は埼玉の農だったが、兄がを継ぐことが決まっていたため、自分は鉄会社へ就職した。制を着て改札につ仕事には誇らしさがあったものの、夜勤務になると客もなく、若い彼にはがなかなかまなかった。

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