みかん小説
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"十六歳の毒薬花嫁" 第8話

「これで終わった」

庭のから見ていた茂だけがっていた。

終わったのではない。

ようやく、証拠が蔵のれたのだ。

凛は役所裏の留置で膝を抱えていた。湿った壁と古い藁の匂いがにつき、を通る役の話から聞こえてくるのは、「の若旦は今夜が峠らしい」「装束の支度を始めたそうだ」といった断片ばかりだった。歳から父の名を取り戻すことだけを見てきてきたのに、今の凛の元には針箱も帳簿も方もなく、初めて自分のしてきたことがすべて無駄だったのではないかとった。

父が捕らえられた夜も、似たようなっていた。凛は役に連れていかれる背へしがみつき、父は「薬は嘘をつかない。が嘘をつくだけだ」と言った。その言葉を頼りにきたのに、最は自分も証拠を持てず捕らえられている。

凛はその夜、初めて声を抑えきれず泣いた。

同じ頃、では澄が湊の枕元を守っていた。玄庵は先ほど来て「今夜を越すかどうか」と告げて帰ったばかりで、部には濃い薬と汗の匂いがこもっていた。息子の呼吸を聞き続けているうちに、澄のへ突然、蔵が凛の針箱を井戸へ落とした景が浮かんだ。

なぜ、ただの形見をあれほど急いで消す必があったのか。凛がみだけでへ来たのなら、針箱など何の証拠にもならないはずだった。

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澄はがり、ほとんど自分から歩かなかった裏庭へ向かった。

夜の井戸端にはさな灯がつ揺れていた。澄は鶴瓶縄をろし、底をさらうように何度もかしたが、度目までは何も引っかからなかった。度目、でわずかなみをじ、袖をまくってたいへ腕を差し入れると、指先に角のあるいものが触れた。

を滴らせながら引きげたのは、凛の箱だった。

澄はそのに座り込み、蓋をけた。本の針が濡れたまま並び、そのを吸ったが折り畳まれている。慎に広げると文字は滲んでいたが、最初のだけははっきり読めた。

「藩御用薬役 吉」

澄の喉から、声にならない息が漏れた。吉は偽物を納めた罪ではなく、藩へ納める薬が本物かどうかを見分ける側のだった。そのにはから納められた品の付と薬名が並び、何度も「偽」「量」「封印違い」というき込みが残されていた。

そして付の横には、さらに別の文章があった。

から抜かれた質な薬が裏で売られ、代わりに粗悪なものが納入されていること。の跡取りである湊がんでいる薬にも、同じ粗悪な薬種が使われている能性があること。自分がへ問いただしにったが帳簿を見せてもらえず、逆に偽装の責任を押しつけられたこと。

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には、吉のものではない細い跡があった。

「いずれこの箱を井戸へ落とした者を探しに来るが来ます。そのまで待ちなさい」

澄は息を呑んだ。その跡が誰のものか、凛から聞かなくても分かった。吉の妻、つまり凛の母が、夫のにこの記録を箱へ隠し、娘へ持たせたのだろう。

さらにの裏には、文が残っていた。

野の若旦を救えれば、吉の無実も証できる」

澄の胸へ景が度に押し寄せた。薬をんでも良くならない息子、毎増えていく薬代、「病は命」と繰り返す玄庵、薬が苦くないと言った凛。自分は何度も違を抱きながら、蔵に実の借財証文を握られていることを理由に、目を閉じ続けてきた。

凛がへ来た本当の目も、そのようやく分かった。

父の名を取り戻すためだけではない。

父が救えなかった湊を、自分ので救うためだったのだ。

澄は袖で顔を覆った。泣こうとえばいくらでも泣けたが、今はそのではない。箱を懐へ入れると、ぶりに自分のた。

役所へ着いた、凛はで顔が半分ほど痩せたように見えた。牢からされ、澄の姿を見るなり警戒した表をしたが、澄は目も構わずへ膝をつき、げた。

「凛、すまなかった」

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