"五人目の白い靴" 第2話
なくとも曜の夜まで、4には何の異変もなかった。
翌朝、正彦と陽斗は釣り竿を持って岸へ向かった。美緒と里は昼にくの売まで歩き、即席ラーメンとアイスクリーム、それに氷を買った。売の女性は、里の鮮やかなピンクの運靴をよく覚えていた。
「しいの?」
会計をしながらそう聞くと、里は誇らしそうに片を持ちげたという。
「昨から履いてるの。うさぎがいるんだよ」
午3頃。美緒が夕の準備をしていると、里がテントの裏側から戻ってきた。今度は、にいものを持っていた。
「ママ、これ誰の?」
片方だけの子供用運靴だった。サイズは20cmほどで、里のとほぼ同じきさだったが、布はく、側面に青い細い線が入っている。靴底には乾いた赤と細かな枯れ葉がこびりついていた。
「どこで拾ったの?」
「のろ」
美緒の表がし変わった。古い物置の方にはかないよう言ったはずだったからだが、叱るより先に靴を取りげ、内側を確認した。
かかとの布に、青い油性ペンのような文字があった。い擦れたらしくほとんど消えていたが、ひらがながかれていることだけは分かった。
「名かな」
横から覗き込んだ陽斗が言った。
「たぶんね。帰る、交番に持っていきましょう」
美緒は靴をスーパーの袋に入れ、テントの隅へ置いた。
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里はすぐに興を失い、父親と岸へ遊びにったが、陽斗だけはなぜかい靴を気にしていた。
「母さん」
「何?」
「あれ、ずっとあそこにあったのかな」
美緒が振り返る。
「どうして?」
「靴の、そんなに汚れてなかったから」
学らしい何気ない疑問だった。美緒もしだけ考えたが、「誰かが最落としたんでしょう」と答え、それ以気にしなかった。
陽斗はその会話も、偶然カセットに録音していた。
夕方になる頃、畔にが現れた。50mほどれたのに作業姿の男がっていたが、正彦はくの釣り堀施設の関係者だとい、特に声をかけなかった。
男はい、族の方を見ていた。
正確には。
里の方ではなかった。
彼女が昼に拾ってきた、あのい靴が置かれたテントの入りを見ていた。
そのことに気づいたのは、陽斗だけだった。
夜8頃、陽斗はカセットを交換しながら父親に言った。
「さっきから、あのいるよね」
「どのだ?」
正彦が振り返ったには、男の姿はもうなかった。
「釣り堀のじゃないの?」
美緒はそれほど気にしていなかった。正彦も同じだったが、陽斗だけは何となく気になり、使い捨てカメラを持って岸へ向かった。
没直。
里がむらで遊ぶ姿を撮った。
偶然。
そのろに、のからこちらを見ている男の姿も写り込んだ。
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翌朝にはへ帰る。
誰もがそう信じていた。
しかし伊藤が自宅へ戻ることはなかった。
811、曜。朝8になっても、伊藤建材のシャッターはがらなかった。毎朝配送を伝っていた浩は、最初のうちは兄が帰りの渋滞にでも巻き込まれたのだろうとっていた。
9を過ぎてもはかない。10になっても話がなく、正彦の自宅へ連絡しても呼びし音が続くだけだった。兄は約束を破ることを何より嫌う男で、遅れるには必ず本連絡を入れる。
昼を過ぎた頃、浩は何度も計を見るようになった。14になるととうとう仕事を切りげ、自分のトラックへ乗り込んだ。伊藤が毎キャンプをする所へは、度だけ兄に連れていってもらったことがあった。
16し。に覆われた細いを抜けた先に、見慣れたいセダンが見えた。の隣には茶いテントもっていたため、浩は瞬だけ胸を撫でろした。
「なんだ、いるじゃないか」
しかしをりた途端、違に気づいた。子供の声も、器の音も、ラジオも聞こえない。がを揺らす音と、岸に打ち寄せる波の音しかなかった。
「兄貴!」
浩は声を張った。
「姉さん! 陽斗! 里!」
何度呼んでも返事はない。いセダンにはロックがかかっており、を覗くと正彦の財布とのキーが助席に置かれていた。
その点で、浩の胸の奥にたいものが広がった。
テントへづいたところで、彼はを止めた。