"五人目の白い靴" 第1話
200389、曜の午。津内の商で建築資材を営む伊藤正彦は、いつもより2ほどくのシャッターをろした。普段なら閉際まで帳簿を眺めている男が、そのに限ってまでずさんでいたため、配送から戻った弟の浩はわず笑った。
「兄貴、ずいぶん嫌がいいな」
「に度くらい、いいだろ」
正彦は40歳だった。若い頃は活が苦しく、滋賀県内の建設現を転々としたが、30代半ばでようやく願だった自分のを持った。商売らしいの良さはなかったものの、たった数百円の具を買いに来た客にも温かい茶をすような男で、所では「無だけど信用できる」で通っていた。
妻の美緒も40歳。結婚は津内の学で教壇にっていたが、男の陽斗がまれてから退職し、今はの帳簿を伝いながら2の子供を育てている。学1になった13歳の陽斗は最こそ族旅をし恥ずかしがるようになっていたが、毎の琵琶キャンプだけは別だった。
末っ子の里は9歳。ピンクとうさぎの柄が好きで、3に美緒から買ってもらったばかりの運靴を、発から何度も玄関で履いたり脱いだりしていた。いの部座席に乗り込んだも、里はをへ伸ばしてしい靴を眺めていた。
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「パパ、もうこうよ」
「陽斗がまだ来てないだろ」
「お兄ちゃん遅い」
その陽斗は、からさなカセットレコーダーを抱えててきた。休みの自由研究というわけではないらしく、本はただ「の音を録る」としか説しなかったが、品の60分テープを何本もバッグに入れていた。
「波とか、焚きとか。じゃ録れないから」
し照れくさそうに言う息子を見て、正彦は「変わった趣だな」と笑った。そのやり取りを、美緒は助席から振り返りながら穏やかに眺めていた。
伊藤が向かったのは名なキャンプではなかった。琵琶岸の県から細いへ入り、さらに舗装されていない脇を10分ほどんだ先にある、元のでもほとんど訪れないさな畔だった。最初にそこを教えてくれたのは、正彦がをいたばかりの頃に入りしていた古い客だったという。
「静かに休むなら、ここに勝る所はないですよ」
そう言って、客は正彦に簡単な図まで描いてくれた。それ以来、伊藤は毎ほぼ同じ所へテントを張り、同じを背景に族写真を撮るのが習慣になっていた。初めて来た頃は5歳だった陽斗も、今では母親の肩に届くほど背が伸びている。
畔へ着いたのは17過ぎだった。空にはまだの差しが残っていたが、面にはしずつ夕焼けのが広がり始めていた。
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正彦と陽斗がテントを張り、美緒がレジャーシートを広げる横で、里はひとりでむらをり回っていた。
「里、向こうのにはかないでね」
美緒が指差した先には、使われなくなった古い釣り堀施設があった。錆びたトタン根の物置が2棟並び、その奥には背丈ほどの雑がい茂っている。数から使われていないらしく、窓には板が打ちつけられていた。
「分かったー」
里はきな声で返事をしたものの、しばらくするとむらのへ姿を消した。美緒が配してちがろうとした、里は両をろに隠しながら笑って戻ってきた。
「何持ってるの?」
「秘密」
「また変な虫じゃないでしょうね」
「違うよ」
里は笑っていた。
その、誰もらなかった。
娘がむらから持ち帰ったさなものが、伊藤の休みだけでなく、5から眠っていた別の事件までかすことになるとは。
その夜、伊藤は焚きを囲んで遅くまで話していた。美緒が朝から握ってきたおにぎりと茹でたとうもろこしを並べ、正彦はさな鍋で湯を沸かした。陽斗はしれた所にカセットレコーダーを置き、がはぜる音や岸に打ち寄せるさな波を黙って録音していた。
くのペンションを営む老は、の聞き込みでその晩のことを覚えていた。
庭からを見ると、伊藤のテントのかりがさく揺れ、折子供の笑い声がに乗って聞こえてきたという。